193 とうとう俺がヒントを出す番……だけど!?


 と、イゼリア嬢が両手を胸の前で合わせて華やかな声を上げる。


「まあっ、素敵ですわ! 皆様がお好きな詩を朗読されたら、どれほど素晴らしいことでしょう!」


 それはもれなくイゼリア嬢も詩を朗読されるということですよねっ!? その時はぜひとも長い詩でお願いします!


 天上の調べのごときイゼリア嬢の美声を一秒でも長く聞けるように!


「それはぜひともわたしも参加させてもらいたいね」

 にこやかに告げたのは姉貴だ。


 表面上は紳士然と優雅に微笑んでいるが、弟である俺にはわかる……っ!


 絶対、頭の中で妄想を繰り広げてうぇっへっへっへ……って、にやけまくってるだろっ!?


「まあ、詩を味わう会の詳細はまた決めるとして……。とりあえず、ゲームにもどらないかい?」


 苦笑交じりに告げられた姉貴の言葉に、全員がばつの悪そうな顔になる。


「そうですね。すっかり脱線してしまいました」

 リオンハルトが苦笑いし、ゲームが再開される。


 エキュートクレイユが、それぞれ無難にヒントを出し……。


 とうとう、俺の番がやって来る。


 テーブルに並べられたのは、踏切、アイス、名札、ハンカチ、すみれ、銀行、クレーンの七枚のカードだ。


 ううっ、こんなのパッと見て、一分以内でヒントを出すなんて、思い浮かぶ気がまったくしねぇ……っ!


 緊張しながら、シノさんが差し出した出題カードを裏向きのまま受け取る。


「よろしいですか、ハルシエル様。制限時間は一分間ですよ。擬態語や擬音語を入れるのもお忘れなく」


 改めて注意してくれたシノさんに頷き返し、えいやっとカードを向ける。


 えーと。お題がアイスで、NGワードがすみれかぁ……。って、アイス!?


 アイスと言われたらもう、俺の頭の中にはイゼリア嬢のアイスブルーの瞳しか思い浮かばない。


 えーっと、イゼリア嬢の瞳をたたえる言葉は……っ! 必死で考えろ、俺……っ!


「宝石、きらきら、クール! ですっ!」


 勢いよく告げる。告げた瞬間、ちょうどタイマーが鳴る。


 うぉっ、ヤバかった……。ギリギリだったぜ……。


 ちゃんと伝わっただろうかと、こわごわとディオス達三人を見る。

 と、三人ともから力強い頷きが返ってきた。


 よかった! 伝わった……っ!


 ちらりと星組をみると、リオンハルト達も何やら自信ありげな顔をしていた。


 し、しまった……っ! イゼリア嬢のアイスブルーの瞳の魅力を伝えることばかり考えて、リオンハルト達には正解が伝わったらマズイことをすっかり忘れてた……っ! 


 って、いや! むしろイゼリア嬢には俺がイゼリア嬢を褒めたたえたいことが伝わってほしいわけだから、俺が出したヒントで間違っていないハズ……っ!


 もんもんと考えている間に、相談タイムが終わる。


「では、両チームともよろしいですか?」


 シノさんの声に、リオンハルトとディオスが大きく頷く。

 二人が自信満々でさしたカードは――。


「ハルシエル様、正解ですか? 出題カードを開示してください」

 シノさんが淡々と促す。


「ふ……、不正解です……っ!」


 おいお前らっ! なんでアイスじゃなくて、NGワードのすみれを選ぶんだよ――っ!?


 ばあん! と叩きつけるように出題カードをテーブルに置いた俺に、リオンハルト達が驚きに満ちた声を上げる。


「すみれがNGワードだと……っ!?」


「宝石のようにキラキラしていると言えば、ハルシエルちゃんの瞳だとばかり……っ!」


 ディオスとエキューが息を飲み、


「え~っ! クールって言うから、てっきりハルちゃんの態度だと……。ヒント、難しすぎない?」


 とヴェリアスが唇をとがらせる。


「ああ。わたしもすっかりハルシエル嬢の美しい瞳のことだと……。だろう? クレイユ」


 とリオンハルトが尋ねれば、


「ええ。それ以外の可能性は全く思い浮かびませんでした」

 と、クレイユが真面目くさって頷く。


「違いますよ! 宝石のようにきらきら美しいクールな瞳といえば、イゼリア嬢のアイスブルーの瞳に決まってるじゃないですか!」


 おいっ! 一人でにまにま口元を緩めてるそこの腐女子大魔王! お前は正解に気づいてだだろっ!? なのに、なんで黙ってたんだよっ!?


「わたくし……。自分の目のことをそれほど自画自賛するなんて、なんて厚顔無恥なのかしらと、呆れておりましたわ……」


 イゼリア嬢までもが、形良く整えられた細い眉をひそめ、軽蔑のまなざしを送ってくる。


 ああっ! 『キラ☆恋』本編そのままのクールなその視線!


 どきどきが止まりません! けど……っ!


 誤解です! 俺が褒めたたえたかったのはイゼリア嬢なんです~っ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る