167 いつかオレと特別な関係になろーね♪


「違いますから! ヴェリアス先輩が言ったような意図は一ミリグラムも入ってませんから! 解釈違いもはなはだしいです! お願いですから、素直にそのまんま受け取ってくださいっ!」


 きっ、とヴェリアスを睨みつけると、「素直に……?」と呟いた。


「つまり……」

 ヴェリアスが真面目な顔で考え考え、口を開く。


「ヴェリアス先輩にだけふれられたいから、他の人にはふれられたくないんです! ってコト?」


 ちっが――うっ!

 何をどう解釈したら、そういう答えになるんだよっ⁉


「違いますよっ! 半分しか合ってませんっ!」


「じゃあやっぱり、オレにふれられたいってコトじゃん♪」


「なんでそっちなんですかっ! 合っているのは「ふれられたくない」ってほうですよ! ヴェリアス先輩にも他の人にも、ふれられたいなんて思ってませんからっ!」


 なんで二分の一の確率なのに不正解なんだよ……っ! 嫌がらせかっ!


 思いっきりツッコむと、ヴェリアスが「え~?」と唇を吊り上げた。


「そんなに照れなくていーのに♪ リオンハルトの前だからって、気を遣うコトはないんだぜ?」


「そういう、私とヴェリアス先輩の間に何かあると言いたげな思わせぶりな言葉遣い、やめてもらえませんか!? 私とヴェリアス先輩の関係は、他の方々と同じように、生徒会の先輩と後輩、それだけですからっ!」


 はっきりきっぱり、これ以上、誤解が起こらないように力強く断言する。


 っていうか、ヴェリアスの思考回路がマジでわかんねーよっ!


 できるだけ怖い顔で睨みつけたのに、ヴェリアスはこたえるどころか、楽しくてたまらないとばかりに、ぷっと吹き出す。


「いや~っ、ほんっとハルちゃんったらオモシロイよねっ♪ も~っ、最っ高!」


 この上なくイイ笑顔で告げたヴェリアスが、ぱちりと俺にウィンクする。


「じゃあ、いつかオレと特別な関係になろーね♪」


 なるか――っ!


 なぜか、ぱくりと跳ねた心臓をごまかすかのように、心の中で大絶叫する。


 イケメンどもの誰とも、特別な関係になる気なんざねぇっ! 俺が特別な関係になりたいのは、イゼリア嬢だけだっての!


「なりませんっ! 妄言ばっかり吐き出すその口、いい加減、閉じてもらえませんか!?」


「だったら」


 大きく一歩踏み出したヴェリアスが、俺の手を掴み、強引に抱き寄せる。

 逃げる間もなかった。俺の目を覗きこんだヴェリアスが、くいっと顎を持ち上げ。


「ハルちゃんとのキスでふさいじゃう?」


「ヴェリアス!」


 俺が反応するより早く、リオンハルトがヴェリアスの腕を掴み、無理やり引きはがす。


「冗談にしても度が過ぎているぞっ!」


 珍しくリオンハルトの声がとがっている。ヴェリアスを睨みつける碧い瞳は、激しい炎を宿しているかのようだ。

 が、ヴェリアスは悪びれた様子もなく、にへらと笑う。


「えーっ? さっきリオンハルトだって、同じコトしてたじゃん。意趣返しだよ♪」


 ヴェリアスの言葉に、リオンハルトがうっ、と言葉を詰まらせる。


「意趣返しに私を巻き込むのはやめてくださいっ! 喧嘩なら、二人だけで私の目の届かないところでしてくださいます!?」


 ヴェリアスと十分に距離を取った俺は、リオンハルトに代わってヴェリアスを睨みつけた。

 だが、ヴェリアスは相変わらずにやけた笑みを浮かべたままだ。


「ハルちゃんってば、怒ってる顔も可愛いよね♪」


 おーまーえーは……っ! いったい、どんな思考回路をしてるのか、一回、頭をかち割って確かめてやりたいよっ!


「あっ、そういえばさ」

 怒りに震える俺をよそに、ヴェリアスがぽん、と手を打つ。


「そろそろ、本来の招待状の時間だろ? ホストがここでのんびりしてちゃマズイんじゃない?」


 ヴェリアスが軽く袖をめくり、リオンハルトに洒落た腕時計の盤面を見せる。


「もう、そんな時間か……」

 リオンハルトが打ちひしがれた様子で呟く。


 いや、そこまでショックを受けた顔をしなくても……。むしろ、俺はほっとしてるんだけど。


「ホストが出迎えないワケにはいかないだろ? さっ、行ってきなよ。ハルちゃんはオレがちゃーんと楽しませておくからさっ♪」


「ま、待ってくださいっ! 私も一緒に行きます!」

 あわてて口を挟む。


 ヴェリアスと二人きりで待ってなんかいられるか!

 何より、出迎えってことは……っ! もうすぐイゼリア嬢がいらっしゃるってことだよなっ!? だったら、こんなところで待っていられるか!


「一緒に行きたいです! ……だめでしょうか?」

 おずおずとリオンハルトを見上げると、


「もちろん、かまわないよ」

 と甘く微笑まれた。


「きみがわたしと一緒にいたいと思ってくれるなんて……。嬉しいよ」


 とろけるような声音に、ぱくんと心臓が跳ねる。


「ち、違いますっ! 別にリオンハルト先輩と一緒にいたいってわけじゃなくて、私も早く皆さんに会いたいだけで……っ」


 っていうか、ピンポイントでイゼリア嬢に! 一刻も早くイゼリア嬢の麗しのお姿を見て、砂糖まみれの心を洗い流したい……っ!


「えーっ、ハルちゃん行っちゃうの? じゃあオレも行く~♪」


 ヴェリアスがワガママを言う子どもみたいに唇をとがらせる。


 うんっ、そういうだろうってことはわかってた!


 これで、リオンハルトやヴェリアスと二人っきりになる危険は避けられたぜ!

 この二人なら、お互いに張り合うだろうから、きっと俺に構っている暇はないハズ! 


 うん、たぶん……。


 二人ともが俺を構ってくるってゆー可能性については……。今は、考えないことにしよう……。

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