168 つ、ついに鳳仙花の意味が……っ!?


 や、やっと着いた……っ!


 リオンハルトとヴェリアスと一緒に、出迎えのために駐車場に戻った俺は、着いた途端、脱力してその場にへたりこみそうになった。


 そんなことをすれば、リオンハルト達がまた余計なちょっかいをかけてくるので、気合でぐっとこらえたが。


 そんなに長い距離を歩いたわけじゃなかったのに、まるで山登りでもしたかのような疲労感だ。


 それもこれも、どちらが俺のエスコートをするかに始まり、なんだかんだとリオンハルトとヴェリアスが張り合うから……っ!


 最終的には、

「戻るだけなんですからエスコートなんていりませんっ! というか、ここでのんびりしている暇はないんじゃないですか!?」


 と、俺が二人を追い立てるようにして来たんだが……。


 前に『クレエ・アティーユ』で会った時も思ったけど、リオンハルトとヴェリアス二人だけの組み合わせって。相性が悪いっていうか、なんというか……。


 足し算じゃなくてかけ算のタチの悪さだよっ!


 駐車場に着くと、ペンの打ち合わせということで今日のお茶会に参加することになっていたローデンスさんは、すでに到着していた。


「リオンハルト殿下。このたびは栄誉あるお茶会にご招待いただき、誠にありがとうございます」


 サンプルなどが入っているのだろう、大きなかばんを持ったローデンスさんが、恭しく頭を下げる。


 ロマンスグレーのローデンスさんの頭の上に、俺は天使の輪っかを見た気がした。


 ローデンスさん……っ! 今日の参加者の中で一番の良心……っ! 隙なくかっちり着こなしたスーツ姿が、この上なく頼もしいですっ!


 これでリオンハルトとヴェリアスだけじゃなくなった、と、ほっとした俺の目が駐車場に入ってきた二台の車を捉える。


 すわっ、イゼリア嬢のご降臨か!? とテンションが上がったが、残念ながら降りてきたのはディオスと、もう一台からはエキューとクレイユの二人だった。


「リオンハルト先輩! ご招待いただきありがとうございます!」


 軽やかに駆け寄ってきたエキューが。リオンハルトに一礼してから俺に向き直る。


「うわぁ~っ、ハルシエルちゃん、いつも可愛いけれど、今日はいつも以上に可愛いね! まるで薔薇のお姫様みたいだよっ!」


 輝くような笑顔を見せたエキューが、嬉しくてたまらないと言いたげに俺の手を両手で握る。


 かと思うと、火傷やけどでもしたみたいに慌ててぱっと手を放した。


「ご、ごめんっ! あのお礼状の鳳仙花の便箋……。ハルシエルちゃんには、ふれちゃダメってことなんだよね……?」


 つ、ついに……っ! ついに鳳仙花の花言葉を素直に受け取ってくれたイケメンが現れた――っ!


 さすがエキュー! 素直ないい奴! 『キラ☆恋』一番の癒しキャラ! 俺の心も癒してくれるぜ……っ!


「その……。前のごほうびデートの時に、僕、何かハルシエルちゃんに嫌われちゃうようなことをしちゃったかな……?」


 うるっ、という音が聞こえそうな様子で、エキューの緑の瞳が哀しげに潤む。


 わーっ! 泣くなっ! 頼むから泣くなよっ!?

 しまった! 純真なエキューには、鳳仙花の便箋は刺激が強すぎたのか……っ!


「ち、違うのっ! その、エキュー君を決して嫌っているわけじゃなくて……っ!」


 慌てて俺のほうからエキューの手を両手でぎゅっと握りしめる。


 頼むから泣くなよっ!? ううっ、エキューを泣かせたら、罪悪感で心が潰れそうだぜ……っ。


「そのっ、過剰なスキンシップをされると困るっていうか、どきどきしすぎて心臓が壊れちゃいそうになるから……っ」


 焦るあまり、しどろもどろになりながら、エキューをじっと見上げる。


「ね? だから、決してエキュー君を嫌ってるわけじゃなくて……」


「じゃあ、これからもハルシエルちゃんにふれても大丈夫……?」


 こわごわとエキューが口を開く。


 ちょっ! 捨てられた子犬みたいな目はほんと勘弁して……っ!

 悪かった! 俺が悪かったから!


「う、うん……」

 もちろん、友人としての常識の範囲内でだけど、と言うより早く。


「よかったぁ……っ!」


 ぎゅっ、と俺の両手を握り返したエキューが、心の底からほっとしたと言いたげな笑顔を浮かべる。


 まるで、曇り空から急に太陽が顔を出したかのようなまぶしい笑顔に、思わず心臓が跳ねる。


 不意打ちのその可愛い笑顔は反則だろっ!


「えーっ! ハルちゃんってば、エキューには妙に甘すぎない? オレやリオンハルトには、そっけなく拒絶するのにさ~」


 不満そうな声を上げたのはヴェリアスだ。


「当たり前じゃないですか! 鳳仙花の便箋を送ったのに、曲解して遠慮なくふれてくるヴェリアス先輩に優しくする理由がどこにあるんです!? 寝言は寝てから言ってください!」


「では……。鳳仙花の便箋を送られていないわたしも、ふれてよいということだな」


 生真面目な顔つきで余計なことを口にしたのはクレイユだ。エキューが緑の目を見開く。


「えっ!? クレイユは鳳仙花の便箋を受け取ってないの!?」


「……なら、クレイユは、いったいどんな便箋を送られたのかな? ぜひ聞かせてほしいね」


 リオンハルトまでもが、クレイユの発言に食いついてくる。


 な、なんかリオンハルトから妙な圧が発せられてるんだけど……?

 クレイユ! ややこしくなるコトを言うんじゃねぇ――っ!


「そもそも、クレイユ君にはお礼状を送っていないんです! お礼状を送る前に直接会って、お礼を言ったので……」


「クレイユと会った……? それは、二人で出かけたとかそういう……?」


 ディオス! お前までくちばしを突っ込んでくるのかよっ!?

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