151 イゼリア嬢にまつわる新情報っ!?
危険な雰囲気を感じた俺は、あわてて話題を変える。
来た時とは別の道を通っているらしく、玄関に着くまであとどのくらいかかるのか、俺にはよくわからない。
「そういえば、生徒会の他の方々って、ご兄弟はいらっしゃるんですか? イゼリア嬢は確か、蝶よ花よと大切に育てられた一人娘でいらっしゃいますよね!」
まことに残念ながら、これはイゼリア嬢本人から聞いた情報じゃない。
『キラ☆恋』の中で、イゼリア嬢がハルシエルに向かって、「ゴルヴェント家の一人娘であるわたくしに対して、なんと失礼なことを! 許せませんわ!」と柳眉を逆立てるシーンがあったので、俺の脳に刻み込まれているのだ。
あの怒り顔の立ち絵も麗しかった……っ! 嫌われるのは困るけど、イゼリア嬢に叱られるなんて、俺にとってはごほうび以外の何物でもない!
でも、イゼリア嬢みたいな可憐で聡明で誇り高くて、でもふとした拍子にデレを見せてくれる娘がいたら、そりゃあ溺愛するよなっ! わかる! わかりすぎるほどにわかるっ!
俺の言葉に、ディオスが「いや……」とかぶりを振る。
「イゼリア嬢はひとつ下の弟がいるぞ。他に姉妹はいないから、一人娘というのは間違いではないが……」
なんですとっ!?
イゼリア嬢に弟が! それは新情報~っ!
「えっ!? なんてお名前なんですか!? どんな方なんですか!?」
思わず食いついた俺に、ディオスがたじろぎながら答えてくれる。
「名前はシェスティンだ。ちょっと気は強いが、根は真面目な性格で……。ああ、顔立ちはイゼリア嬢によく似ているかな」
イゼリア嬢似の弟! それは見てみたい~っ! イゼリア嬢とセットで!
弟と一緒にいる時のイゼリア嬢ってどんな感じなんだろう!?
「シェスティン。あなたはゴルヴェント家の跡取りなんですから。しっかりなさい」
とか注意してたりして! それとも、
「もう、シェスティンったら、いつまでも甘えん坊ね。仕方のない子」
とか優しい笑顔を見せてるんだろうか……っ!
ぎゃ――っ! 顔も見たことないけど、シェスティン、いえシェスティン様、ちょっとそこ代わってくださいっ! ぜひ、俺をイゼリア嬢の隣に!
……って、はっ!
ひとつ下ってことは、ロイウェルと同い年……っ!?
イゼリア嬢の弟なら、絶対に聖エトワール学園に入学するだろうから、ロイウェルも来年、奨学生で入学したら、同級生になる可能性だってあるわけで……っ!
ということは、ロイウェルがシェスティンとお友達になったら、弟が友達同士のお姉ちゃんってことで、俺とイゼリア嬢の距離もさらに縮まる……っ!?
ロイウェルは誰だって友達になりたくなるようないい子だし、ロイウェルがシェスティンと親友になったら、ゴルヴェント家に遊びに行く時に俺だってついていって、イゼリア嬢と……っ!
よーし、ロイウェル! 家に帰ったら、お姉ちゃんが勉強をみっちり見てやるからなっ! 絶対に聖エトワール学園に進学しようなっ!
素晴らしい未来を想像して、内心、うぇっへっへっへ……。とにやけていた俺に、ディオスがのんびりと続ける。
「エキューとクレイユは俺と同じく一人息子だな。ヴェリアスは……。その、年の離れた弟がいるが……」
「ええっ!? ヴェリアス先輩って、弟さんがいるんですか!?」
予想外の言葉に、妄想から引き戻される。
意外だ……! 気ままで自由人なヴェリアスは、絶対に一人っ子だと思ってたのに……。
ってゆーか、ヴェリアスがお兄ちゃんって……。
「大丈夫ですか? 弟さんの成長に悪い影響を与えていませんか?」
腐れ姉貴みたいに、上がろくでもない奴だと、苦労するのは下だからな!
かなり本気で、まだ見ぬヴェリアスの弟を心配すると、ディオスがふはっと吹き出した。
「ハルシエルは面白いことを気にするな。何度も会っているが、アルベリオは素直ないい子だよ。まあ、他人が他の家族についてあれこれ口にするのは失礼だから……。気になるなら、ヴェリアスに直接聞くといい。きみなら、きっと……」
「はあ、機会がありましたら、そのうち……」
って、ヴェリアスなんかに聞く気はこれっぽちもないけどなっ!
イゼリア嬢には話題にする気満々だけど! 同じ年の弟を持っているっていう共通点があっただなんて……っ! これを話題にイゼリア嬢に話しかけるんだっ!
ヴェリアスのほうは、うっかり聞こうもんなら、
「へぇ~、ハルちゃんってば、オレのこと気になるんだ♪ いーよいーよ、ハルちゃんなら何でも教えてあげる♪ で、何が知りたいワケ? オレの好物? 得意科目? それとも、好みのタイプとか~?」
って、絶対にウザく絡んでくるに決まってるっ! 想像するだけでげんなりしてくるぜ……。
せっかくの楽しい乗馬時間なのに、ヴェリアスなんかのことを考えているのはもったいないと、さっさと最後の人物に移る。
「リオンハルト先輩は、第二王子ですから、お兄様がいらっしゃるんですよね?」
「ああ、三つ年上のラインフェルド皇太子殿下がいらっしゃる」
あ、言われてみれば、なんかちらっと『キラ☆恋』の中で聞いたことがある名前のような……?
名前だけで、立ち絵なんて一切なかったから、どんな人物かは知らないけど……。
あのリオンハルトの兄だったら、きっとものすっごくきらびやかなんだろうなぁ……。
うん、俺は一生会えなくていいや。きらきらしいのはもう、リオンハルトだけでおなかいっぱいだからなっ!
でも……。小説とかだと、第一王子と第二王子の中が悪かったりして、政治的な争いが……。とかあるよな。
いや、『キラ☆恋』は「砂糖大盛り♡ 乙女のためのゆるふわ学園恋愛ゲーム♡」がコンセプトだから、大丈夫だろうと思うけど……。
「ラインフェルド殿下と、リオンハルト先輩は、仲がよろしんですか?」
念のために確認しておこうと尋ねると、ディオスが「もちろんだ」と大きく頷いた。
「ラインフェルド殿下は素晴らしい御方だよ。あの方が次期国王になられるのなら、エリュシフェール王国の未来は安泰だ。リオンハルトも、尊敬する兄上の補佐をするのだと、政治学や経済学と、日々、勉学に励んでいるよ。俺はもちろん、将来はリオンハルトの側近になる予定だが……。リオンハルトを支えることで、いつか国王となられるラインフェルド殿下をお助けできたらと思っているよ」
「へえ……。そんなにすごい御方なんですねぇ……」
リオンハルトとディオスが心酔しているなんて、よほどの人物に違いない。
ってゆーか、将来の国王を補佐するために、勉学に励んでいるなんて……。リオンハルトって、無駄にきらきらしい王子ってわけじゃなかったんだな。
ちょっとだけ、見直さなくもない。ほんと、ちょっとだけだけどなっ!
俺は手綱を握るディオスの顔をちらっと
緑の瞳を強い意志できらめかせ目標をする未来を語る精悍な面輪は、思わずほれぼれするほど格好いい。
って、男が男に
いくら、手綱を操っているディオスが凛々しくて、乗馬なんていう特別なシチュエーションだからって……。落ち着け、俺っ!
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