男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
120 帰れ――っ! 二人とも今すぐ帰れっ! 帰ってくださいお願いだから!
120 帰れ――っ! 二人とも今すぐ帰れっ! 帰ってくださいお願いだから!
あわててイゼリア嬢を見るが、イゼリア嬢も俺と同じくあっけにとられた様子で、歩み寄ってくるヴェリアスを眺めている。
いぶかしげに眉をひそめて口を開いたのはリオンハルトだった。
「ヴェリアス? どうしてここに?」
「え~、もっちろんハルちゃんと一緒にペンを作りに♪」
「えっ!? 私、一言も誘ったりしてませんよっ!? むしろ、はっきりお断りしたんですけれど!」
二人そろって「きみが誘ったのか?」と言いたげな視線を向けてくるイゼリア嬢とリオンハルトに、ぶんぶんぶんっ! と首を横に振る。
俺がヴェリアスを誘うなんて、天地がひっくり返ってもありえねえっ!
「まったまた~♪ 照れなくってもいーんだよ、ハルちゃん♪ ヴェリアス先輩にご迷惑をかけられません! って遠慮してたケド、あれって「ホントはオレに来てほしい」の裏返しだったんデショ?」
「違います! 本気で! 遠慮のひとつもなく! ヴェリアス先輩に来ていただきたいなんて、これっぽちも思ってませんでしたっ!」
お前は――っ! ほんと、どこをどうしたらそんな思考になるんだよっ! 一度、頭をかち割ってのぞいてやりたいよっ!
俺の返事に、なぜかリオンハルトがほっとした様子で息を吐く。ぷっと吹き出したのはヴェリアスだ。
「いや~っ、ハルちゃんってホント容赦ないね♪」
「というわけで、誤解もとけましたし、帰っていただいてかまいませんから!」
「え、ヤダよ」
一刻も早くヴェリアスを帰そうとする俺に、当の本人があっさり告げる。
「手伝いに来たっていうのはホントだよ? ハルちゃんは自信がなさそうだったし、ゴルヴェント嬢も、一人じゃ荷が重いって言ってたしね。オレでよければ手伝おうと思って♪ ま、リオンハルトまで来るのは予想外だったケド♪」
いやっ、ヴェリアスなりに気を遣ってくれたのはわかるけどっ!
でも俺はそんな気遣いはいらねーんだよぉ――っ!
「お気遣いは嬉しいんですけれど……」
「ヴェリアス様……。わたくし達のことを気遣ってくださるなんて、嬉しいですわ! ぜひ、ヴェリアス様も一緒にデザインを考えてくださいませ!」
俺が断りの言葉を口にするより早く、イゼリア嬢が弾んだ声を上げる。
きゃ――っ! 満面の笑顔がまぶしすぎますっ!
「そうだね。ヴェリアスも来てくれたのなら、せっかくだし加わってもらおうか。ハルシエル嬢もそれでいいかな?」
嫌だよっ! 俺とイゼリア嬢の二人っきりのドキドキデートタイムを邪魔すんな――っ!
心の底からそう叫びたい。
が、俺が頷くのを当然と信じて疑わない様子のイゼリア嬢の視線の前に、否と言えるハズがなく。
「わ、わかりました……」
心の中でだばだばだと血の涙を流しながら頷く。
くうぅぅぅっ! さらば、イゼリア嬢とのきゃっきゃうふふなデートタイム……っ!
「お暑いでしょう。どうぞ店内へ」
俺達の話がまとまるのを待っていたローデンスさんが、恭しくドアを開け、店内へ案内してくれる。
「ハールちゃん♪ オレの隣においでよ♪」
店の奥のソファーへ来た途端、ヴェリアスがくいっと俺の腕を引く。
「ひゃっ」
よろめいた俺の逆側の腕を掴んで引き止めてくれたのはリオンハルトだった。
「ヴェリアスの隣だと、何かと騒がしくなりそうだ。ハルシエル嬢、わたしの隣においで?」
「えーっ、ハルちゃんはオレの隣がいいよね~?」
リオンハルトとヴェリアスが、俺の腕を片方ずつ掴んだまま視線を交わし合う。
俺はどっちの隣になるのも御免だっての!
「私はイゼリア嬢のお隣がいいです!」
きっぱりと告げると、リオンハルトとヴェリアスが沈黙した。
「まあ……。それが一番よさそうだね……」
「えーっ! じゃあ、オレとリオンハルトが隣同士? そんなの楽しくな~い!」
二人とも苦い声を出しながら、しぶしぶといった様子で俺の腕を離す。
うるせーよ、ヴェリアス! こうなったらせめてイゼリア嬢の隣じゃなきゃ、やってられっか!
「わたくしとリオンハルト様、ヴェリアス様とオルレーヌさんが一緒に座ったほうが、バランスがよいと思いますけれど、リオンハルト様がそうおっしゃるのでしたら……」
「どうぞ! イゼリア嬢!」
不承不承、頷いたイゼリア嬢に、ソファーの上座を譲る。
やった――っ! イゼリア嬢のお隣に座れる――っ!
イゼリア嬢が前を横切った拍子に、ふわりとイゼリア嬢のコロンの香りが鼻をくすぐる。
すっきりとして華やかな、それでいてすこし甘い花の香り。
ぎゃ――っ! 俺、今すぐ犬になりたいっ! 犬になって、思う存分、イゼリア嬢の香りを堪能したい……っ!
犬だったら、もしかしたら撫でてもらえるかもしれないしっ!
妄想に浸りながら、いそいそとイゼリア嬢の隣に座る。
もちろん、適切な距離を保って、だ。イゼリア嬢のすぐ隣へ吸い寄せられそうになる誘惑に必死に耐える。
『クレエ・アティーユ』のソファーは、高級店にふさわしく、三人が座っても余裕があるほどゆったりと大きなものだが……。
うんっ! あんまり離れすぎても会話がしにくいもんなっ! 三十センチほど空けていたら失礼じゃないよなっ!
同じソファーの手を伸ばせばすぐ届く位置にイゼリア嬢がいると思うだけで、胸がどきどきしっぱなしだ。
が、あまり挙動不審になるわけにもいかない。俺はついついイゼリア嬢へ引き寄せられそうになる視線を、意識してローテーブルの上に向けた。
大きなテーブルの上には、何十本ものペンが並べられている。ペン作りの参考になるようにとローデンスさんが用意してくれたものだ。
ペンのデザインはさまざまだが、共通しているのは、どのペンも芸術品のように美しいという点だ。
「わたくしどもで作っているペンでございます。オルレーヌ様は、まだ当店でお作りになられたことがございませんので、まずはどんなものがあるか、実際にご覧いただくのが一番かと思いまして。どうぞ、気になるペンがございましたら、ご自由に手にお取りください」
ローデンスさんが上品に微笑んで勧めてくれる。が……。
えっ!? これ、ほんとにさわっていいの? もし何かあったら、弁償とか言われないよな!?
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