119 リオンハルトも一緒だなんて嘘ですよねっ!?


(な、なんでリオンハルトがいやがる……!)


 俺は茫然ぼうぜんとリオンハルトを見やる。

 どうしてリオンハルトがここにいるのか、まったくワケがわからない。


(ってゆーか、リオンハルトのヤツ、イゼリア嬢と同じ車に乗ってきたのかっ!? くそっ! うらやましいっ! うらやましすぎる……っ!)


 思わずぎりぎりと歯ぎしりしそうになりながらリオンハルトを睨みつけると、視線が合ったリオンハルトが困ったように微笑んだ。形良い眉がわずかに下がる。


「すまないね。きみとイゼリア嬢が約束していたのを邪魔してしまって」


 すまないって思うんなら、今すぐ帰れ――っ!


 心の底から叫びながら、今すぐリオンハルトを車に蹴り込んでやりたいが、第二王子相手にそんなことができるハズもなく。


「あの、イゼリア嬢……。どうしてリオンハルト先輩が……?」


 一縷いちるの希望をこめて、イゼリア嬢を見つめる。


 リオンハルトも一緒だなんて、嘘ですよね!? たまたま会ったか何かで、ここまで一緒に来ただけですよね!? お願いだからそうだと言ってくださいっ!


 俺の問いに、イゼリア嬢はつんとあごを上げた。


「もちろん、リオンハルト様にも、一緒にペンのデザインを考えていただくからに決まっていますわ」


「ええっ!? どうしてですか!? デザインは私とイゼリア嬢の二人で考えましょうって……っ!」


 悲痛な声を上げた俺を、イゼリア嬢の冷ややかなまなざしが貫く。


「あなたから話があった後、よく考えたのですけれど……。やはり、オルレーヌさんでは、あまりに役者不足ですわ。いいえ、むしろ、足手まといと言ったほうがいいかしら? そんな状況で、皆様にご満足いただけるペンをわたくし一人でデザインするなんて……。荷が勝ちすぎますわ」


 ぐさぐさぐさっ!

 イゼリア嬢の正論が俺をめった刺しにする。


「で、ですが、だからこそローデンスさんにもご助力いただいて勉強しようと……」


「それで? あなたは少し勉強しただけでなんとかなるだけの素養をお持ちなの?」


「それ、は……」

 イゼリア嬢の追撃に、思わず唇を噛む。


 俺にセンスなんて、あるワケがない。もしあったら、今日だってハルシエルの服に頼らずに、ちゃんと自分で服を選んでいる。


 沈黙した俺に、それ見たことかと言わんばかりに、イゼリア嬢が冷ややかな声を出す。


「きっとリオンハルト様の関心を引きたくて自分でデザインを考えるなんて言ったのでしょうけれど、わたくしまで巻き込まないでくださる? あなたの手に負えないことを押しつけられるなんて、迷惑千万ですわ。あなたの評価が下がるのはどうだってかまいませんけれど、巻き添えでわたくしまでリオンハルト様達に呆れられる事態になったら、どう責任をとってくださるの?」


 容赦のないイゼリア嬢の声。

 穏やかに割って入ってのはリオンハルトだった。


「というわけで、イゼリア嬢から、わたしも一緒に来てくれないかと頼まれてね。きみとイゼリア嬢に任せたのに、わたしも余計な口出しをすることになって申し訳ない」


 そう思うんなら、今すぐ帰れ――っ!


 心の底からそう叫びたいが、イゼリア嬢は、「とんでもないことですわ」とリオンハルトを見上げてかぶりを振る。


「リオンハルト様は素晴らしい感性をお持ちですもの。相談に乗ってくだされば、必ずや、皆様にご満足いただけるペンがデザインできるに違いありませんわ!」


 リオンハルトを見るイゼリア嬢のまなざしは信頼に満ちている。


 くうぅぅぅっ! 俺に! 俺にリオンハルトがイゼリア嬢から得ている信用度の十分の一でもあれば……っ!


 そうすればきっと、イゼリア嬢もリオンハルトなんかに相談しなかっただろうに……っ!


 己の不徳が情けなくて、涙が出そうだ。


 せっかくのイゼリア嬢との二人っきりのイベントだったのに、巨大な邪魔が入るなんて……っ!


 と、通りの向こうから、一台の高級車がこちらへと走ってくる。

 あれよあれよという間に、『クレエ・アティーユ』の前で停まり。


「あっれ~? なんでリオンハルトがここにいるワケ? せっかく他のメンバーには内緒にしたってのに……」


 運転手がドアを開けるより早く、自らドアを開けて降り立ったヴェリアスが、リオンハルトを見とめて顔をしかめる。


 っていうかヴェリアス――っ! なんでお前まで現れるんだよっ!?

 まさか、ヴェリアスまでイゼリア嬢に相談されたのか!?

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