115 もっと楽しい話をしようぜ♪


「でもまっ、今回のことはクレイユにもいい経験になったんじゃないの? たまには挫折を味わって、心をきたえておいた方が、後々のことを考えれば、絶対にクレイユのためになるって♪」


「ですが……」


 まだ納得のいかない様子のイゼリア嬢に、ヴェリアスが向き直る。


「まあ、クレイユのことを心配するイゼリア嬢の優しさは悪いことじゃないけどさ。プライドの高いクレイユにしてみれば、いくら善意とはいえ、女のコに過度に心配されるのは、逆にツラいかもよ?」


「あ……っ」

 イゼリア嬢がはっと気づいたようにうつむく。


 あああっ、切なげにうつむいたお顔も麗しいです~っ! 叶うなら、今すぐ俺が慰めてさしあげたい……っ!


「そう、ですわね……。クレイユ様のお気持ちも考えず、出過ぎた行いをしてしまいましたわ……」


 先ほどまでの剣幕が霧散したかのように、イゼリア嬢がしおらしく肩を落とす。


 イゼリア嬢! そんな哀しそうなお顔をなさらないでくださいっ! そりゃ、最低と言われたのはショックでしたけど……。俺、イゼリア嬢の信頼を勝ち取れるように、もっと努力しますからっ!


「んじゃまっ、この話はこれでおしまいってコトで! それより、せっかくテストも終わったんだし、もっと楽しい話をしようぜ♪」


「楽しいお話、ですか……?」


 空気を変えるように、ぱんっ、と両手を打ち合わせたヴェリアスを、イゼリア嬢がきょとんと見上げる。


 あっ! ちょっと待てヴェリアス!

 嫌な予感を覚えた俺が、止めるより早く。


「理事長の提案で、『クレエ・アティーユ』でおそろいのペンを作ろうかって話が持ち上がっててさ♪ イゼリア嬢は、どんなペンが好みだい?」


 あ――っ! ヴェリアス、てめぇっ!

 イゼリア嬢には俺が! 二人っきりの時に言おうと思ってたのに、先に言いやがって――っ!


「生徒会の皆様でおそろいのペンだなんて……! それは素敵ですわねっ!」


 イゼリア嬢が光り輝くような笑顔を見せる。


 ぎゃ――っ! まばゆさで目が融けそうです――っ!

 ああっ、俺がこの笑顔を引き出したかった……っ!


「そ、それですね! 一番、ペンを使うのは書記であるイゼリア嬢と私だろうということで、相談して、デザインの大枠を決めることになったんです!」


 「私とイゼリア嬢」の部分を強調して、勢い込んで告げると、イゼリア嬢が細い眉を寄せた。


「わたくしとあなたで……? ですが、ペンを使われるのは皆様も同じでしょう? それをわたくしとオルレーヌさんで考えるなんて……。皆様が気に入ってくださるデザインになるかどうか、不安ですわ。オルレーヌさんに美的センスは皆無でしょうし」


「イゼリア嬢! どうかそんなことをおっしゃらないでください! 私、できる限りのことをいたしますから……っ!」


 せっかく! せっかくイゼリア嬢といっぱいおしゃべりできるチャンスを、みすみす逃せるか――っ!


 悲痛な俺の訴えに、だがイゼリア嬢は疑わしげに目をすがめる。


「と言っても、あなたは『クレエ・アティーユ』でペンをオーダーした経験なんてありませんでしょう?」


「それは、そうですけど……っ。でも、店長のローデンスさんも相談に乗ってくださるとおっしゃっていましたし……っ! どうでしょう? 次のお休みの日にでも、『クレエ・アティーユ』に一緒に行って、参考になりそうなペンを見せていただくというのは!?」


 イゼリア嬢とおでかけできるチャンスを逃してなるものか! と、俺は必死に言い募る。が、イゼリア嬢の返事はにべもない。


「あなたと? 少しくらいペンを見たからといって、高級品に慣れていないあなたの目が養われるとは思えませんけれど?」


 ううっ、それは俺だってそう思いますけど……っ!


「あ! じゃあ、オレも一緒に行って、相談に乗ろうか?」


 ヴェリアスがぱんと両手を合わせ、明るい声を出す。


 却下――っ!

 ヴェリアス! お前は呼んでないっ! しゃしゃり出てくんな――っ!


「いえいえいえっ! ヴェリアス先輩にご足労をおかけするわけにはいきませんっ! そんなの申し訳なさすぎますからっ! 決まった通り、まずはイゼリア嬢と私でデザインを考えて、その後で相談させていただきますっ!」


 ぶんぶんぶん! と両手を振り、必死でヴェリアスを押しとどめる。


 絶対にぜえったいに、イゼリア嬢とのおでかけを邪魔させるか――っ!


 イゼリア嬢が仕方がないと言いたげに吐息する。


「そうですわね。ヴェリアス様にお手数をかけては申し訳ありませんし……。きっと、オルレーヌさんは役に立たないと思いますけれど、わたくし、皆様に気に入っていただけるデザインができるよう、できる限り頑張らせていただきますわ」


 やったぁ――っ! イゼリア嬢と週末デートだぁ――っ!


「イゼリア嬢の素晴らしいセンスにかかれば、絶対、皆さんが気に入るデザインになるに決まってます! 私もしっかり勉強して、少しでもお役に立てるよう、頑張りますから……っ!」


 声が弾むのを抑えられない。天にも昇る気持ちというのは、こういう気持ちを言うんだろう。


「えーっ、ハルちゃんもイゼリア嬢も、遠慮しなくていいのに~」


 ヴェリアスが唇をとがらせるが、無視だ無視!

 お前なんざ来なくていいっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る