96 喉から手が出るほど欲しい至高の逸品
うお――っ! それは欲しいっ! 喉から手が出るほど欲しいぜっ!
今なら、『キラ☆恋』でハルシエルがリオンハルトのペンを大事にしてた気持ちがわかるっ!
推しに
俺はイゼリア嬢のペンのデザインを脳裏に刻み込もうと、じ――っとペンを見つめる。
欲しい……っ! イゼリア嬢とおそろいのペンが欲しい……っ!
でも、オーダーメイドってことは、きっとものすごく高いよな。店の看板で「王室御用達」とか
いったい、いくらくらいするんだろう……?
俺のバイト代で足りるか? 夏休みはできるだけバイトを詰め込む予定だから、その分も加えればなんとか……?
「見事な品に見惚れてしまうのはわかりますけれど、いつまで見てらっしゃるの? いい加減、返してくださらない?」
俺が熱視線で穴が開きそうなほどペンを見つめていると、イゼリア嬢が呆れたような冷ややかな声で告げる。
「す、すみませんっ、ありがとうございました! このデザインはイゼリア嬢が選ばれたんですか?」
ペンを両手で丁寧に返しながら尋ねると、イゼリア嬢が幸せそうに微笑んだ。可憐な微笑みに心臓が射貫かれる。
俺もう……っ! このペンを胸に抱きしめて昇天してもいいっ!
「中等部に上がった時に、お父様からお祝いにいただいたの。一緒にお店でデザインや素材を選んで……」
「なるほど! 一目見た時から、イゼリア嬢にふさわしい素晴らしい逸品だと思いました! イゼリア嬢は美的センスも抜きんでてらっしゃるのですね!」
心からの賛辞を贈ると、イゼリア嬢の頬がうっすらと染まった。
「こ、このわたくしが自ら選びましたのよ! 素晴らしいものになるのは当然でしょう!? 良い品にふれる機会のないあなたでも、素晴らしい品の価値がわかる程度の目はお持ちのようね」
つまり、それだけわたくしのセンスが優れている証拠ですけれども! と高笑いするイゼリア嬢が……ヤバイ! 可愛すぎて、思わず口元がによによと緩んじゃいそうなんですけど!
「わたくしのペンの素晴らしさがわかるのでしたら、当然、リオンハルト様のペンの価値もおわかりだと思いますけれど」
笑いをおさめたイゼリア嬢が、険しい視線を俺に向ける。
「お優しいリオンハルト様は、生徒会の後輩であるあなたが困っているのを見て、お貸しくださったに違いありませんわ! ですから、間違っても傷一筋たりともつけてはいけませんわよ!? 不敬罪で罰されても知りませんから!」
「わ、わかりました! 十二分に気をつけます!」
俺のことを心配してくれるなんて……。イゼリア嬢はなんて優しいんだ! やっぱり天使だぜ!
大丈夫です! 使おうだなんて、これっぽっちも思ってません! 家に帰ったらこれがイゼリア嬢と色違いでおろそいのペン……っ! ってによによしながら眺めるだけですからっ!
今、初めてリオンハルトに感謝の気持ちが湧いたぜ……っ!
「でしたらよろしいんですけれど。では、わたくしはそろそろ失礼いたしますわね」
「ええっ!? もう帰られてしまうんですか!?」
イゼリア嬢の突然の帰宅宣言に、思わず情けない声が出る。が、イゼリア嬢は淡々としたものだった。
「わたくし、あなたのように暇ではありませんの。この後は、ダンスのレッスンがありますので」
俺の脳裏に、体育祭で見たイゼリア嬢の可憐なダンスが甦る。
なるほど! イゼリア嬢はダンスを習ってるのか! また新情報をゲットだぜ!
「どちらのダンス教室に通ってらっしゃるんですか?」
聞き出せたら、両親に頼み込んででも同じ教室に通わせてもらおうと、勢い込んで尋ねると、冷笑が返ってきた。
「通う? どうしてわざわざわたくしが通わねばなりませんの? 屋敷のダンスホールに先生をお招きしているに決まっているでしょう? ああ、ダンスホールもない小さな屋敷に住んでいるあなたには、想像もつかなかったかしら?」
「ご明察です! お屋敷にダンスホールがあるなんて……。憧れてしまいます! 練習してらっしゃるイゼリア嬢も、さぞ麗しいのでしょうね」
うっとりと呟くと、「おーっほっほ」と高笑いしていたイゼリア嬢が、なぜか眉をしかめた。
「というわけですの。先生をお待たせするわけにもいきませんし、そろそろ失礼いたしますわ。クレイユ様、エキュー様、今日は勉強会にお誘いいただいてありがとうございました。とても有意義な時間を過ごせましたわ」
イゼリア嬢がクレイユとエキューの二人に微笑む。
ぎゃ――っ! 俺に向けられた笑顔じゃないけど、
俺もイゼリア嬢の新情報がゲットできて、非常に有意義でしたっ! ほくほくと顔がにやけそうですっ!
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