25 顔は天使だけど、中身は小悪魔♪
「ハルちゃんに似合うのはこっちかな? でもこっちも……。いや~っ、ハルちゃんってば、どんな色でも着こなせそうだよね!」
放課後の生徒会室。ヴェリアスが何十着も持ち込んだドレスを、俺に身体の前にかざしながら、楽しげに呟く。
手際よくヴェリアスにドレスの受け渡しをしているのは、クラシカルなメイド姿のシノさんだ。
お茶会の翌日。放課後、体育祭の準備をするから生徒会室に来てよ、とヴェリアスに言われてきたのだが……。
「やっぱり、一番似合うのはピンクかな~? でも、『春の乙女』の時と一緒じゃ芸がないし……。いっそ、大人っぽく赤とかブルーでいっちゃう?」
「あの! これが体育祭の準備だって言うんですか!?」
俺はドレスをかざしては首をかしげるヴェリアスの手を押し返す。
「体育祭の準備って言ったら、競技の練習とかプログラム作りとか……。そういうのじゃないんですか!?」
「あ、練習の監督は、今日はディオスが受け持ってくれているから心配しなくていいよ♪」
ここにはいないディオスの名前を挙げて、あっさり告げたヴェリアスが、隣のエキューを振り向く。今、生徒会室には俺とヴェリアスとエキュー、そしてシノさんの四人しかいない。
「それに、これも立派な準備だよね~、エキュー」
「そうですね。応援合戦は体育祭の華の一つですし」
振られたエキューがにこやかに頷き、俺を見る。
「毎年、体育祭では、午後一番のプログラムで、生徒会役員による応援合戦が行われるんですよ。吹奏楽部が演奏する中ダンスをしたり、体操部が技を披露する前で応援歌を歌ったり」
「そうそう! スクリーンを設置してイリュージョンを見せたり、オーケストラやサーカス団を呼んだりして」
ヴェリアスがうんうんと頷くが、いやもうそれ、応援合戦じゃないんじゃ……?
確かに、俺がプレイした『キラ☆恋』のリオンハルトルートでも、応援合戦はあったから知っている。ゲームでは俺とリオンハルトとでダンスを踊ったんだよな……。
「ドレスを用意しているということは、ダンスをする予定なんですか?」
尋ねると、ヴェリアスにあっさりと、
「ん、いや未定だけど」
と返された。
「じゃあ、どうしてこんなにドレスをとっかえひっかえする必要があるんですか!?」
思わずかみつくと、「そりゃあ」と、ヴェリアスがさも当然とばかりに唇を吊り上げる。
「せっかく今年は可愛い女のコがいるんだから! それを前面に押し出さない手はないだろ? あ、ハルちゃんがチアガールの格好でポンポン持って踊ってくれるんなら、それでもいーんだけど♪」
「絶対、嫌です!」
膝下まである制服のスカートは、毎日着ていることもあって慣れてきたけど……。ミニスカートはできるなら、はきたくない。
「じゃあ、代わりにエキューが……」
「ヴェリアス先輩! 冗談でもやめてください!」
エキューが珍しく、明るい緑の瞳を怒らせてヴェリアスを
強張った顔は、本気で嫌そうだ。
「ごめんごめーん」
悪びれた様子もなく謝ったヴェリアスが「でもさ」と言を継ぐ。
「星組も絶対イゼリア嬢を前面に押し出してくるだろうからね。こっちはハルちゃんの魅力で対抗しないと。――あ! いっそのこと、ウェディングドレス着て、タキシードの俺と並んじゃう!? 観客の度肝を抜けるよ♪」
俺はお前の舌を引っこ抜きたいよっ! 不気味なもん想像させんなっ!
「私は
俺はじり、と距離をとりながらすげなく告げる。
常に軽口ばかりのヴェリアスは、どうにも油断できない。
「ハルちゃんってば、相変わらず
台詞とは裏腹に、口調も表情も、新しい
「というか、星組の団長は生徒会長のリオンハルト先輩でしょう? でしたら、花組の団長は、副会長のディオス先輩ではないんですか?」
理事長とお茶会をした昨日、生徒会役員の役職も決まっている。
リオンハルトとディオスは、去年に引き続き生徒会長と副会長を務め、去年、書記だったヴェリアスは会計を。
そして、さまざまな会議で記録を取らなければならないため、一人では大変だということで、今年から二人に増員された書記を、俺とイゼリア嬢が務めることになった。
もちろん、俺は第一書記の座をイゼリア嬢に譲る気満々だったのだが……。
「コンテストで一位を取ったのはあなたでしょう。だというのに、わたくしが第一書記になっては、まるで、わたくしが家柄をかさに奪ったようではありませんの。わたくしに悪名をなすりつけようとしても、そうはいきませんわ!」
と、思い切り睨みつけられた上に、断られてしまった。
当然、俺がイゼリア嬢の不名誉になるようなことをするはずがなく。
結局、俺が第一書記、イゼリア嬢が第二書記で落ち着いたのだが。
(俺を睨みつけるイゼリア嬢も、超美人だった……っ!)
ちなみに、クレイユは文科系クラブをとりまとめる文化部長、エキューは運動系クラブのとりまとめである運動部長だ。
「え? ハルちゃんはオレよりディオスの方がいいってコト?」
笑顔なのに……。なぜか、ヴェリアスの圧が高まる。
すがめられた紅い瞳に、不穏さしか感じないんですけど!
「ハルちゃんって、顔は天使だけど、中身は小悪魔だよね♪ このオレをこんなに振り回すなんてさ」
歌うように言いながら、ヴェリアスが一歩、踏み出す。
逃げなきゃ、と思うのに、紅玉の瞳に飲まれたように身体が動かない。
伸ばされたヴェリアスの手が、頬にふれようかというところで。
こんこんと響いたノックの音に、俺は跳び上がった。
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