15 そんなに、生徒会役員になるのが嫌なのかね?
さて、理事長室の前まで来たのはいいが……。
重厚な扉を前に、俺は
思い立ったが吉日と、意志がくじけないうちに生徒会室から直行したけど……。
これから、あの理事長を説得しなければならないかと思うと、つい尻込みしてしまう。
なぁんか、俺の本能があの理事長はヤバイ! 近づくな! って訴えかけるんだよな~。
そんな理事長に直談判をするなんて……。同行すると言ってくれたリオンハルトの申し出を受け入れた方がよかっただろうか。
いやでも、あいつらはコンテスト出場賛成派だし、ここに来るまでにうっかりイベントを起こしかねないもんな……。
俺と同じく出場反対派はイゼリア嬢だけど、同行してもらうなんて、頭が回らなかった。
っていうか、イゼリア嬢がそばにいたら、直談判どころじゃないし! 麗しいご尊顔をずっと眺めて、にまにましちゃいそうだし!
このまま、廊下でぐずぐずしていても、時間が無為に過ぎていくだけだ。
頑張れ! 頑張れ
俺はふんす! と気合いを入れると、理事長室のドアをノックした。
「在室しているよ。誰かね?」
と、すぐさま扉の向こうから、落ち着いた声が返ってくる。
「わ、私、一年二組のオルレーヌと申します。あの、マリアンヌ祭のコンテストのことで、理事長にお話したいことがあるのですが……」
「ハルシエル君か。どうぞ、入りたまえ」
あっさりと入室を許可され、俺は「失礼します……」と、おずおずと扉を開けた。
理事長室は生徒会室とよく似た造りの、これまた立派な部屋だった。
部屋の右手の広いスペースには、丸いテーブルと椅子が置かれている。あそこが例のお茶会を開く場所だろうか。
ま、俺は出席なんてしないから関係ないけど。
「よく来たね。さあ、こちらへ」
奥の執務机で何やら書き物をしていた理事長が穏やかな笑みを浮かべて立ち上がり、机を回り込む。理事長が指し示したのは、執務机の前に置かれた応接セットだった。
「いえ、理事長の貴重なお時間を長くとるつもりは……。お願いしたいことがあるだけですので」
俺はぶんぶんと首を横に振って辞退したが、理事長の笑みは変わらない。
「ああ、わたしがきみをコンテストに出場させるよう、生徒会に要請した件だね。わたしのところへ来たということは……。その緊張した面持ちを見るに、お礼を言いに来たという感じではなさそうだね。出場の辞退を申し入れに来た、といったところかな?」
俺はこくりと頷く。
「そうです。理事長は私を買いかぶってらっしゃいます。私は――」
「まあ、一度落ち着いて座りたまえ。わたしもちゃんときみの話を吟味したいしね。必要なら、メイドに言ってお茶を持ってこさせようか?」
学校なのにメイドまでいるのかよ!?
「いいえ、結構です」
俺は理事長に促されるまま、扉を閉めるとソファーへ歩み寄った。毛足の長い
柔らかすぎて、うっかりするとバランスを崩しそうなソファーに足をそろえて腰かけ、テーブル越しに理事長と対面する。
「……で。コンテストについて、だったね」
ゆったりとソファーに座った理事長が口を開く。
俺は理事長を見据えたまま頷いた。
「そうです。私がテストで一位を取ったのは、偶然に過ぎません。たった一度の偶然で特別扱いされるのは納得がいきません。コンテストは辞退させてください!」
「ほう……。あくまで、辞退したいと」
理事長のダークブラウンの瞳が、興味深そうにきらめく。
「そんなに、生徒会役員になるのが嫌なのかね?」
「それはもちろ……」
答えかけて、気づく。
まだ、コンテストは開催されてもいないのに。
なぜ、理事長はさも結果を知っているような口ぶりで言うのだろう?
本能が警鐘を鳴らす。
理事長が権限を使って俺を当選させる気ならばよい。いや、よくないけど!
だが、そうでないのだとしたら……?
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