14 天国の一週間と地獄の一年間、さあどっち!?
「そうです! イゼリア嬢のおっしゃる通りです! 私は立候補する気はありません!」
イゼリア嬢に続いて、俺もきっぱり宣言する。
どさくさに紛れて、本人の前で名前を呼んじゃったぜ! ひゃっほう!
俺の抗議に、リオンハルトは困ったように眉を下げた。
「二人の意見は、わたしももっともだと思う。……が、これは理事長のご意向でね」
「理事長っ!?」
すっとんきょうな声を上げた俺の脳裏に、先日会ったやたらとイケメンな紳士の姿が
「これまで、新入生対象の実力テストや体力テストで上位を取った者は、一人の例外もなく生徒会役員に立候補している。そして、選ばれた者は皆、役員として立派に学園のために働いてきているんだ。そんな中、ハルシエル嬢ただ一人が、立候補していない……」
小さく吐息したリオンハルトは、気遣うようなまなざしを俺に向ける。
「理事長は、もしかしたらハルシエル嬢は、己が男爵位であることを気にして、遠慮して立候補していないのではないかとおっしゃられてね」
遠慮なんかしてねーよっ! 俺は純粋に出場したくないんだよっ! くそーっ、あの無駄イケメン理事長め……! 余計な気を回しやがって……!
内心で
「まだハルシエル嬢が選出されると決まったわけではないが、高等部からの外部入学生が生徒会役員になった事例は今までないんだ。理事長は、もし初めて選出されるなら、それはきっとハルシエル嬢だろうと、きみに大変目をかけてらっしゃってね。特例として、理事長の権限で出場者として登録させてもらった」
「そんな……っ!」
俺はあえてショックを受けたふりをし、哀しげに眉を寄せる。
「理事長は私を買いかぶってらっしゃいます! テストで1位を取れたのは本当に偶然で……。私などが理事長のご期待に応えられるとは思えません!」
「オルレーヌさんの言う通りですわ。たった一度の偶然でこれほど持ち上げられては、下級貴族のオルレーヌさんには荷が重すぎるというもの。
イゼリア嬢が加勢してくれる。
ありがとう、イゼリア嬢! 俺の味方はイゼリア嬢だけだ!
俺に向けられる視線は、軽蔑と
ここが攻め時と、俺はできるだけしおらしい仕草でうつむいた。
「私だけがそのような特別扱いをされては、他の方に申し訳ありません……。それに、理事長の推薦のせいで他の方のやっかみを受けたりしては怖いですわ……」
女の
いや、俺的には嫌がらせのたびにイゼリア嬢が登場したから、むしろ、カモンばっちこーい! って感じだったけど!
いかにも恐ろしげに身を縮めると、リオンハルトが執務机に身を乗り出した。碧い瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。
「突然のことで不安に思うきみの気持ちはわかる。だが、安心してほしい。きみを傷つけるような行為はわたしが……。いや、この生徒会が許しはしない」
ちっが――うっ!
俺が欲しいのはそうじゃなくて、「そこまで言うなら辞退していい」っていう許可だっつーの!
「いえ、生徒会の皆様にご迷惑をおかけするわけには……」
なおも引き下がろうとすると、イゼリア嬢が大きく頷いた。
「そうですわ! リオンハルト様がオルレーヌさんごときのためにお手を
「えっ!?」
イゼリア嬢の発言に、俺は目を見開いて見やる。
イ、イゼリア嬢が俺を守ってくれるの……!? 何それ、ときめく!
俺と視線があったイゼリア嬢は、アイスブルーの瞳を冷ややかにきらめかせて薄い唇を吊り上げた。
「わたくしも生徒会役員を目指している身。生徒の一人や二人守れずしてどうしましょう。下々の者を守るのも、高貴な者の務めですわ」
……でも確か、『キラ☆恋』だと、イゼリア嬢が率先してハルシエルに突っかかってたよな……?
と、アイスブルーの瞳に、
「同じ出場者として、わたくしが直々に
「おーほほっ!」とイゼリア嬢が悪役令嬢特有の高笑いをする。
高笑い、いただきました~っ! ひれ伏していいんなら、今すぐイゼリア嬢のおみ足にひれ伏しますけど!
え、つまり『キラ☆恋』でイゼリア嬢がやたらと突っかかってきたのは、イゼリア嬢なりにハルシエルを守ろうとした結果っていうわけ!?
何そのツンデレ! 可愛いにもほどがあるだろ!
イゼリア嬢にいじめてもらえるご
――って! 落ち着け、俺!
コンテストまでは、たった一週間ほどだけど、万が一コンテストで役員に選出されてみろ!
来年までの丸々一年間を攻略対象キャラ達と過ごすことになるんだぞ!
俺の脳内の
イゼリア嬢と過ごす一週間! なんて甘美な響きなんだ……っ! いじめられたとしても、俺にとってはむしろご褒美! 望むところだ!
でも、生徒会には間違っても入りたくない……っ! 一年間もイケメンどもと一緒に過ごさないといけないなんて、俺の精神が
ゲームでは、『春の乙女』コンテストで選ばれる女生徒は一人、ハルシエルだけだった。
もちろん、優勝する気はないが、出場すれば何が起こるかわからない。リスクを回避するなら、「そもそも出場しない」というのが一番だ。
胸が張り裂けそうにつらいが――。
「……理事長にかけあって説得できれば、『春の乙女』コンテストに出場辞退できますか?」
ごめんっ、イゼリア嬢! 自分の身の安全をとる俺を、
だって、最推しのイゼリア嬢と過ごすなんて……! 考えるだけで幸福と緊張のあまり、鼻血を吹いて気絶しそうなんだよ~っ! 気絶してたら、結局一緒に過ごしても過ごしてないのと同じだろ!?
俺の確認に、リオンハルトはゆったりと頷いた。
「ああ。もともと理事長がおっしゃったことだからね。きみが理事長を説得できたら、生徒会もきみの出場辞退を認めよう」
と、リオンハルトが碧い瞳をいたずらっぽくきらめかせる。
「わたし個人としては、コンテストでのきみの活躍をぜひ見てみたいところだけれどね。きみのドレス姿はさぞ愛らしいことだろう。もちろん、イゼリア嬢も楽しみにしているよ」
不満そうな表情をしたイゼリア嬢に、リオンハルトがそつなく微笑みかける。
そういやあったよ、ハルシエルのドレス姿のイベントスチルが。
もちろん、起こす気なんざ、これっぽちもないけどな!
「では、さっそく理事長にかけあってきます!」
正直、あの妙に威圧感のある理事長に直談判に行くのは気が重い。
が、これも平和な学園生活のためだ。
俺は理事長室まで案内するというリオンハルト達の申し出を断り、理事長室の場所だけ聞くと、生徒会室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます