10 フラグ回避のためにテストに全力を尽くしたのに!
「すごいですわ……っ」
「外部入学生じゃ、史上最高点じゃないか?」
入学式の一週間後。
廊下に
曲がり角の先では、高得点者の名前が書かれた紙が貼り出されている。
(現実世界だと、テストの点とか貼り出したら問題になりそうだけど、漫画やアニメだと、ふつーに貼り出されるよな~)
聞こえてきた声から推測するに、なかなか高得点を取れたみたいだ。
今回のテストは頑張ったからな! これでも前世は高三の受験生。しかも夏期講習を受けていた身だ。ほぼほぼ中学三年生の内容の実力テストなんて、お茶の子さいさいだ。
『キラ☆恋』では、ハルシエルはあまり勉強が得意じゃないという設定だった。
そのため、テスト前はその時点で一番好感度の高いキャラに誘われて夕暮れの図書室で一緒に勉強する――ついでに口説かれるってゆーイベントがあったんだが……。
もちろん、そんなフラグなんか立てる気はない!
テストで高得点を取っておけば、イベント自体、起こりようがないだろう。加えて、成績が良ければ大学進学にも有利だろうし……。
フラグ折りと将来を見据えた、我ながら見事な作戦だ!
俺は角から首を伸ばし、そっと紙に書かれている名前をうかがった。
最初に目に飛び込んできたのは、一位の欄に仲良く並ぶ――えっ!? クレイユとハルシエルの名前!?
確かに簡単だと思ったけど、時間が余り過ぎて二回見直しができたくらい余裕だったけど、まさかクレイユと同点一位だったとは……。
「ハルシエル・オルレーヌ様。初めてお見かけする名前ね」
「高等部からの外部入学生の方よ。こんなに成績優秀だなんて……。特待生なのかしら?」
「かなり可愛いって聞いたぜ。可愛い上に頭までいいなんて……。どんな子なんだろ?」
しまった! もうちょっと手を抜いとくんだった!
これじゃあモブを目指す目的に反して、目立っちまうじゃねーか! 俺の馬鹿――っ!
そろり、と後ずさって、注目を浴びないうちに教室に戻ろうとした瞬間。
後ろから来た誰かに、どん、とぶつかる。
「すみま――」
謝ろうと振り返った先にいたのは。
「こちらこそすまない。きみは――ハルシエル嬢、だったか」
「ク、クレイユ様……」
よりによって、今、一番会いたくないクレイユだった。
こいつも順位を確認しに来たんだろうが、なんでこのタイミングなんだよっ!
貼り紙の前にいた生徒たちが、クレイユの登場に気づいてざわめきだす。
ざわめきに誘われるようにクレイユの視線が貼り紙に移り。
ぴくり、と、冷ややかさを感じさせる端麗な
「……まさか、わたしと同点一位の生徒がいたとはね」
クレイユが感情のうかがえない淡々とした声を出す。
「手を抜いたつもりはなかったのだが……。わたしに
クレイユの濃い蒼の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。生真面目な性格を表すかのような堅苦しい物言い。
「それを外部から入学したばかりのきみに教えられるとは。感謝する」
クレイユがほんのわずかに口元を緩める。
氷の彫像を思わせる冷ややかな美貌が、それだけで柔らかに一変した。
『キラ☆恋』をプレイした俺でもほとんど記憶にないクレイユの笑顔に、背後にいた生徒達がどよめく。
「わたしが慢心したりしないよう、よければ今後、よきライバルとして切磋琢磨させてほしい」
周囲の興奮にも気づかぬ様子で、す、とクレイユが繊細な造りの手を差し出す。が、
「い、いえ……。今回、一位を取れたのは、ほんと、たまたまだったので……っ」
この手を取ったらヤバイ気がする!
俺はぷるぷる震えながら、必死で首を横に振った。
「謙虚なのだな」
「いえ、謙虚というか、ほんっと、まぐれの結果なので……っ」
だからお願い! 俺に興味なんか持つなよっ! そもそもお前、勉強一辺倒のガリ勉キャラのはずだろ――っ!?
「偶然で満点近くを取ることなどできないと思うが。あくまできみが、そう言い張るのなら」
クレイユが一歩踏み出す。かと思うと、俺の右手はクレイユに掴まれていた。
「では、一緒に勉強してみよう。そうすれば、きみの実力もわかるに違いない」
だーかーらっ!
一緒にお勉強フラグを折るために頑張ったってのに、なんでフラグが
もうやだ泣きたい。
折れかけた俺の心を救ったのは、割って入った高慢でありながらも愛らしい響きの声だった。
「クレイユ様。それでしたら、ぜひわたくしもご一緒させていただきたいですわ」
高飛車な雰囲気に
ひゃ――っ! 今日も麗しいっ! アイスブルーの瞳に、同じ色の宝石をあしらった銀の髪飾りがよく似合って、神々しいほどの美人っぷりだぜ!
俺の熱視線を華麗に無視して、イゼリア嬢は俺達のすぐそばまでくると、クレイユの端麗な面輪を見上げて、あでやかに微笑む。
……ああっ、俺もう、その微笑みだけで天国に昇れそう……っ!
「わたくしは実力を発揮して二位でしたわ。好敵手をお求めでしたら、偶然で一位になったオルレーヌさんより、わたくしの方がよほどふさわしいと存じますけれど。それとも、クレイユ様は二位のわたくしでは力不足だとおっしゃいますの?」
挑むようにアイスブルーの瞳をきらめかせ、つんと鼻を上げるイゼリア嬢に、クレイユは淡々とかぶりを振る。
「そんなことはない。イゼリア嬢の実力は、すでに中等部で十分に知っている。きみも好敵手の一人だ」
「では、決まりですわね」
イゼリア嬢が満足そうに頷く。
か――っ! やっぱり美人だなぁ。この自信にあふれているところもイゼリア嬢の魅力の一つだよな!
「で。きみはどうする?」
「へ?」
クレイユの問いに、イゼリア嬢に見惚れていた俺は、間抜けな声を上げた。
どうする、って……。
「あら、クレイユ様はわたくしだけでは不十分だとおっしゃるの?」
イゼリア嬢がすねたように唇を
――つまり。
ここで「うん」と頷けば、
「ぜっ、ぜひ、イゼリア様とご一緒させてくださいっ!」
考えるより早く、唇が返事を紡ぐ。
最初は何を言い出すかと思ったが、
イゼリア嬢が迷惑そうな顔をしているが、ここは遠慮しない。
悪役令嬢役のイゼリア嬢の好感度がマイナススタートなのは、最初からわかっていることだ。そんなことじゃ俺はめげないっ!
ちょっとずつイゼリア嬢の好感度を上げていくためにもこのイベントを逃す手はないっ!
「きみも参加してくれるとは、楽しみだ」
「ええ。私もです」
クレイユの言葉に、俺はにっこりと微笑んで頷いた。
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