第2話

静かに目を閉じながら、腕を組み、当時のことを語りだした。


当時、幼かった父は祖父とともに、漁へ行くために海へ出たという。この日は一日雲ひとつない真冬の曇り空で、気温も、信じられないぐらいの寒さだった。祖母はその時には既に亡くなっていたが、いつも一緒に仕事をする漁師仲間たちに、今日だけはと、何故か止められていた。黙々と準備をする祖父に対し、忠告をしにわざわざ家まで来ていた。

「今日はやめときな。今まで感じたことねえ気温だよ」

「胸騒ぎがすんだ。波も異常なぐらい高くて、何か起きそうな予感がする」

「こんな寒さじゃ、海も氷みたいに冷たいぞ。あんたの息子さんも倒れちまうよ」

父は、その人たちの顔を、何となく覚えており、漁の竿、漁網などを和舟まで運ぼうとする途中だった。祖父は昔から頑固だったというが、根はとても優しく強い海の男。

 しかし、ここ最近、海で捕れる魚は年々少なくなってきていて、島の人たちの生活に影響を及ぼすほどの深刻な状態だったので、さすがに皆、頭を悩ませ、焦りと不安があったのだ。そうした事から、本人も非常に気が立っており、周りの言うことは聞き入れることは出来なかった。

祖父が堂々と答えた。

「…たまたまだろう。それに前にも、直接氷の中にいるような寒さがあったはずだ。漁師一筋でやってきてるあんたらがそんなことで情けねぇ。魚が数少なくなっているこの時期だからこそ、やらなきゃならない。こっちにも生活や家族があるんだ、どう言おうと俺らは行かせてもらうぞ。そういう自分たちも、己の身を投げ出してでも、待ってくれている大切な者を少しでも養っていこうという気は起きねぇのかい」

祖父がそう頑なに拒む、その瞳には、海に対する熱い想いと、信念強さが見えたというの忘れもしない。

いつもならこんな強気な発言を言わない祖父に、皆、戸惑い、唸るばかりだったという。

「お前と息子さんのために言ってんだよ…」

 けれど、その時は周りがおかしくなったのだと思って、立派に見えた祖父の背中を誇らしく思っていた。今思えば、なぜ引き止めて上げられなかったのだろうか…。


島の人らの忠告も聞かずに、祖父と父は海へと出た。確かに、今日の波はいつもより高く、船も大きく揺れるように感じた。

「しっかり前を見ろ。絶対逃がすんじゃねぇぞ」

祖父は父にキツイ口調で、そう言ってきたが、やはり聞いておくべきじゃなかっただろうかと一気に不安になった。いつもなら、島の人達で協力して漁をやるのだが、今日は単独でやろうとする。普段行くことのない場所へと船は突進んでいく。それでもならなければならない漁師の息子として、海が怖いなんて言ってはいられない。

すると突然、どこからもなく辺りから嗅いだことのない甘い匂いが漂ってきた。臭くはないが、どこか懐かしいようなそんな感じがした。

―なぜこんな時に?

幼き父は首を横に降って、続けて和舟の櫓を漕いで前へと突き進んだ。ふと、視線を感じて右を向くと、海の中に何か泳いでいた。予想外もしてなかったそいつに、ピタリと動きを止めてしまったという。


――猫の耳を生やした真っ白い鳥が右の台にとまってこっちを見ていた――。


あまりのことに、腰を抜かしてしまい、櫓を手から離してしまった。

「…耳が生えてる…と、鳥が…」

その言葉を口にした時、一瞬にしてその鳥が飛ぶと、まだ昼間だというのに、海じゅうにその鳥が一斉に舞い上がるように現れた。いや、どっちらの表現をしたらいいか分からないが、自分は水面を羽ばたくように泳いでいるように見えた。どこからか現れたのか、激しい音が海を包み込む。

―バサバサっ!!

つんざくようなうるさい音に耳を塞いでしまった。

「何してんだ!どうして櫓を離したんだ!」

怒鳴る祖父の表情など分からずに父は動揺し、あたりを見渡した。

そして何も分からないまま、突然、猛烈な突風が吹き溢れ、海は飛沫を上げて、乗っていた二人の船を激しく揺れた。

「な、なんだ!この風は!!」

その時、近くで木が割れるような音が聞こえだした。

――パキッ――パキパキッ!

その音に最初に気づき、目を大きく開けて空を見上げると、あの白い鳥が大群に渦を巻きながら飛びだっていた。信じられない光景に、父はただ唖然とするしかなかったという。先程の音の正体、それは、二人が乗っている和船が一瞬にして沈没する前触れだったのだ。


~父と祖父はそのまま真冬の冷たい海に落とされた~


静煉は口を開けながら、昔話しに自然と聞き入っていた。

「そのあと、じいちゃんはどうなったの??」

今で祖父の事を頑なに話してはくれなかったので、初めて知ることが出来た。

「俺は気がついたら体が濡れたまま和船に乗ってた。一緒に乗っていた親父の姿はどこにもなく、きっと海に流されちまったんだ。しばらくして島の漁師の人たちが助けに来てくれた。事情を話せば、あの不思議な出来事を誰も信じてくれなかった。せめて親の遺体だけは、と思い、頭を下げて皆に捜索の依頼をしに、親戚の兄と行ったよ」

 だが、いくら海の中を探しても祖父の遺体は見つからず、諦めかけていた。あまりにも見つからないため、「塩水で遺体が溶けてしまったのだろう」と言われるようになってしまったという。父は海の中心を指指しながらこう言う。

「数日後の日の出の事だ。いつものように漁の準備をしに海へ出かけようとしたが、何やら島の人らが高い台の方で騒がしくしててな、海の方を見て驚いてたんだよ。俺も同じようにそっちへ上がって、同じ方向を眺めた。そしたら…」

突然、言葉が詰まりそうになり、黙り込んでしまった。

静煉は心配そうに父の顔を見つめた。

息を大きく吸い、下を向きながら、泣きそうな声で呟くように。


「海に真っ赤な血が広がっていたんだよ」


その瞬間、まるで時が止まったように辺りは静かになった気がした。

なぜその頃になってから、突如現れたのかは一切不明だが、次の日には、無人の灯台動き始めたのだという。この海は表面にこんな風に形を変えて極稀に現れる。それ以降はそんな不思議な出来事は起きていないが、当時のことを知る人は、もう少なくなってきているのだ。

「あれは親父の流した血だったんだ。俺が、助けられなかったんだよ。あの鳥さえいなければ…出会わなければ、お前にも祖父と話ができたんだろうに…すまねぇな」

今にも泣きそうな声で、下を向きながら左手で目を抑えて、静煉の頭を優しくなでた。

そんな秘めた思いをいつも感じていたなんて、なんだが罪悪感で胸がいっぱいになってしまった。静煉は灯台を黙って見上げた。きっと、幼き父に何かしら伝えたかったんだろう。海で死んで幽霊になった者の声は、生きてる人間の耳には聞こえなくなるほど、小さくなってしまい、波の音で全て消されてしまうという言い伝えを聞いたことがあった。

海のせせらぎは死者の声と…。

それにしても良かった、父にもあの鳥が視えていたなんて。去年、静煉にも耳の生えた鳥を海で見たことがあった。その時は二人で漁に出かけていたのだが、島で一番深いとされていた所で漁を行って、網を引き上げる際、突然甘い匂いが香りだした。それに、そそられるかのように魅入られ、空を見上げると、そいつは集団になって飛び交っていた。ウミカモメと見間違えたかと思い、目をこすったが、白い光を帯びていたため明らかに違うと判断した。島育ちということもあり、視力も大変よかったためか、猫の耳を生やした光り輝く美しい鳥は、よく見ると鳥足ではなく魚の鰭だったという。和船が沈むような出来事はなかったが、父に声をかけると、「ああ、やつらが近くにいるんだな」と空を見るが、すぐに作業に戻ってしまった。この時、静煉は先程の話を聞いて確信した。あの鳥はきっと大人には視えない生き物なんだと。

「あの鳥を見たら、絶対目を合わせるんじゃないぞ。無論、こんな事他の人らには話すなよ?掃除が終わったら昨日、浅瀬で仕掛けた網を引き上げるとしよう。」

父はその場を立ち去ろうと、岸辺を歩いて和船に向かった。静煉も二つの水桶を重いながら、両手で持って後ろについて行った。それ以来、あの不思議な鳥は姿を現さない。何か出てくる条件でもあるのだろうか。まぁ、どちらにしても、静煉の祖父を殺した事には変わりない。自分も、これから独り立ちして海に出るときには用心しなくてはな。


 二人は灯台の島を出て、浅瀬での漁を終えた。気づけば辺りはすっかり夕方の空色に変わっていた。今日は珍しく大量で、父もいつもより満足げに漁仲間たちと話し込んでいた。とりたての魚を天秤棒にそれぞれ籠に入れて、肩へ背負い込むと、せっせと家へと帰ろうと坂道を上がっていった。

「静煉」

突然目の前で喉太く若い男の声が聞こえた。

立ち止まり、前を見ると見たことのある者がじっとこちらを見ていた。

「芳一兄ちゃん」

家のすぐ近くに住んでいる漁師の息子。静煉とは歳は九つ離れているが仲が非常に良く、独り立ちするために、漁の練習へいつも付き合ってくれる兄貴的な存在。まもなく十七になる彼だが、面倒見も大変良く、腕も立つ立派な漁師だ。もうじき同じ年頃の海女の娘と所帯を持つ予定だが、相手が心の準備が出来ておらず、引き伸ばしているという。

「お、珍しく大量だな。こりゃ旦那さんもご機嫌だな」

籠の中で跳ねる魚を間近で観察ししていた。

「うん、ほんとに。ここ最近全然捕れなかったもん。魚が海へ帰ってきたみたいなんだ」

芳一は顎に手をやりながら、嬉しげに魚を指さした。

「せっかくだ。二切れほど売っちゃくれねぇかい?」

「うん、いいよ。いつも漁の練習に付き合ってくれるから半値でいいよ」

「お、じゃあまた連れ行ってやる。早く独り立ちして父ちゃん養ってやんなきゃな」

こうして銭を渡し、魚を受け取った芳一は手持ちの籠に入れた。帰ろうとした瞬間、彼が問いかけてきた。

「そういえば網の仕掛け方もう覚えたか?」

「うん、父ちゃんにも周りの人たちにも、教え方を叩き込まれてきたから、大分慣れたよ」

「お前は環境が恵まれてる。そんでもって物覚えのいいし、きっといい漁師になるぞ。そこは俺が保証してやる」

頭をクシャクシャに撫でられ、一見乱暴にされたかと思ったが、その力加減には他人だとは思えないほど愛情が詰まっているように感じた。

芳一は一気に顔色が曇り始めると、手を頭からゆっくりと離して海を眺めた。

「…島の人らが口を揃えて、海で死んだ人の魂が宿るなんて現実がない事を信じたくなねぇけど、実際、無人なのにあそこは光り出す。しかし、この目で見ないことにはなんとも言えないな」

やっぱり兄ちゃんも同じ気持ちだった。確信が無いことを周りに流されて、曖昧な気持ちにしてしまうのは、自分もどこか不快なところはあったのだから。

「この海には不思議な事が起きるんだ。見たことあるか?三年前、この広い海全部が真っ赤になっていた景色を。親戚の倉間さんが漁に出たきり帰ってこなかったから、もしかして「そいつの血じゃないか」って言われるようになったんだよ。普通、人の血がしばらく経ってから現れるか?それに周りの魚がみんな死んじまってたって話」

その赤い液体が人のかどうかも分からないとろだが、その光景の後に必ず、島の浜辺には干からびたシワシワの遺体が流れ着くという。そしてこれは祖父の話と全く同じなのだ。

「僕のおじいちゃんも、父ちゃんが子供の時に見たんだって。灯台が光るのも、赤い海も、みんな」

芳一はしっかりとその言葉を見届けた。

「そうか。ようやく旦那さん話してくれたんだな」

「え?兄ちゃんはその話知ってたの?」

すると、兄ちゃんは静煉の天秤棒を変わりに背負い込み、少し淋しげに言った。

「ああ。あの時「じいちゃんを止められていたら死ぬことはなかったんじゃないか」ってずっと攻め続けてたんだよ。心の整理がつくまでお前には話さなかったんだろうなぁ。猫の耳を生やした真っ白い鳥…俺も見たこと無いが、どうやらやつらは突風を巻き起こすのが好きらしい。詳しいことはわからんが、あの旦那さんのことだ、きっとこの海のどこかにいると俺は信じたいね。あと、灯台の話もな。話長くなったが、家まで送るぞ」

静煉の表情がパッと明るくなった。さすが頼りになる、まるで本物の兄貴のようだ。

「うん、ありがとう芳一兄ちゃん」

いつかこの目で見てみたい気持ちはある。だが、その興味本位が時に命取りになることだってある。こうして芳一は静煉を送るために自宅へ向かっていった。

この頃はまだそんな事を軽い気持ちになっていた自分に、後悔の念が残るばかりだ。



――もう決して時間は戻せなくなってしまうのだから――




 すっかり夜も更けて、静煉の家屋では、後から帰宅してきた父と囲炉裏を囲い、食事をした。中はそこまで広くないが、ほぼ人並みくらいに寝転んだり出来る広さだ。久しぶりにお腹いっぱいに食べられる食事の量で、白米を喉に支えてしまうしまうほど、これだけの喜びはなかった。

「ほれ、飯粒を残すんじゃない。済までしっかりと食え」

父に注意され、素直に返事をすると茶碗に残った分までしっかりと口へと運んだ。

こういう時にはやはり「漁師の息子に生まれてよかった」と思ってしまい、クスっと笑みが溢れる。物心付く前からやりたかったわけじゃないけど、自然と好奇心とやる気があり、それに海は怖いけど、悪い仕事とは感じていない。いつか一人前の漁師になって大物を釣り上げて、皆から頼れる漁師になりたい。天国の母ちゃんもきっとそれを望んでいるはずだ。そんな妄想を膨らませながら、味噌汁を静かに飲んだ。

「そうだ、隣家屋に住んでる芳一に会っただろう。ここまで送って行ってもらった話を帰る途中、本人から聞いたぞ。ちゃんと礼したか?いくら顔合わせで知り合いでも、目上の人にはきちんと挨拶しねぇと…って、俺が言わなくても、お前はしっかりしてるからなぁ」

後頭部を手に当てながら、照れくさそうに言った。

「うん、兄ちゃんに、いつも練習付き合ってくれてるお礼に、今日採れた魚二切れ半値で売ったよ。あの人にはまた海に連れてって欲しいから」

その言葉に、父は小さな籠草に置かれた今日の魚を見ながら。

「あっ、だから二切れ少くなってたんだな。でもまぁ、良い判断だったな。独り立ちするために腕も大事だが、島の人らとの付き合いも大事にしなきゃならんぞ。漁は一人でやるもんじゃない。周りの力も合わせて、初めてうまい飯が食えるんだ。そう、今日みたいにな」

その助言に、一瞬胸を打たれるような衝撃が走った。

いつもより魚が多く採れたからってまだ嬉しい気持ちが残っているのは、どうやら自分だけではないらしいな。

 すると、父はスクっとゆっくり立ち上がり、隣の物置部屋に足を運んだ。その奥でゴソゴソと物音が聞こえてくると、あるものを持って静煉に手渡した。

「これを持ってろ、祖父がいつも肌身離さず持ってた遠眼鏡だ。俺たちの代から受け継いでいる貴重な品だから無くすんじゃないぞ」

これは見たことがある。

代々家に伝わる大切な家宝と呼べるこの望遠鏡は、父が祖父からもらった物で、一人前になると、これを使うことを許されるのだ。嬉しさで胸が高ぶる上に立ち上がり、、ついに父に認めてもらったという誇らしさが笑みとなって溢れる。しっかりと受け取り、望遠鏡を眺めて、思わず子供らしい使い方で父を覗いた。その姿に父も照れくさそうにして厳しい口調で、

「明日も早いぞ。今日ははいつもより風がいくらか強かった。この調子じゃ、どうなるか分からん」

静煉は父の言葉で落ち着きをようやく取り戻し、その場に座って頷いた。

「うん、皆に褒められるような立派な漁師になるよ」

立派な望遠鏡を父からもらい、その日は早めに就寝した。

これを受け取って、自分のものになるというわけじゃない。父もいつかは死んで、独り立ちして生きていかなきゃいけない。その中で誰かと所帯を持って、お嫁さんが出来て、子供が出来たら、今度はその子にこれを渡す。そう考えると、自分の先祖がたくさん触った、いわゆる「思い」がこもった品物。

たった一人の親が死ぬ…無人で光る灯台に、猫の耳を生やした鳥…。

あれは海で死んだ人が出ると、あれは勝手に光りを放つ。

いつか、父が死んだら、あの不思議な力を持つ灯台はまた光るんだろうか。

布団の中で、寝返りをしながら望遠鏡を手に持って眺めていた。外から聞こえる美しい波の音を耳の奥に吸い込ませながら、静煉はゆっくりと目を閉じて眠りについた。



 人々が寝静まった島の夜空に星が一面と輝いている。月明かりに照らされて、誰かが裸足で浜辺と海の間を歩いていた。穏やかな潮風に髪の毛をなびかせて、海の様子をじっと見つめていた。白髪の長い髪の毛で透き通るような青色の瞳の女性だった。しばらく歩き続けていると、目の前に何やら輝く鳥の死体が流れ着いてきた。女性は迷わず、それを優しく片手ですくい上げ、様子を伺った。鳥の頭には猫の耳が生えて入り、尾羽は孔雀のように長く白くて、美しいものだった。女性はもう一度海を眺め始めると、静かな口調でこう言う。

「…そろそろ、この土地に合わなくなってきてるのか」

その言葉を言った瞬間、女性の手でうずくまっていた鳥がピクッと動き出した。その様子を見ると、優しく声をかけた。

「もう十分よ。随分長い間、この海が好きで暮らしてるみたいだけど、人々が勘付き始めてる時代になってきた。もともと、ここに住み着くのは難しすぎたのかもよ。早いところ、次の犠牲が出る前に、違う海へ移ったほうがいい」

そして島の灯台がいつものように勝手に光りだしているのを目で確認していると、突然、後ろから物音がした。ゆっくり振り向くと、そこには提灯を持った島の漁師が現れた。

「こんな夜更けに何してる。夜の海は危ねぇぞ」

警戒な顔でそう訴えるが、女性は気にせず、そのまま手に包んでいた鳥の死体をゆっくり海へと流した。それを遠い目でしばらく見つめていると、漁師が問いかけた。

「あんたこの島のやつじゃねぇな」

すると女性は浜辺に置いてあったショルダーバックを持ち、漁師に言った。

「まぁ、旅人って言ったところでしょうか、この島は海が綺麗で有名だって聞いたものですから、わざわざ来てみたら、いつの間にか夜になってしまっていて。ここじゃあ、きれいな海なんて見れないですわね」

冗談半分で説明しだすと、漁師は、それで笑ってしまい、悪人ではないと判断した。

「そいつぁ、難儀なことでしたなぁ。泊まるところがないなら、良かったら家寄っていきな、雨風はしのげるぐらいの所だがな」

そう言って漁師は旅人の女性を案内しようとした。

「それは、どうもありがとう。助かります」

漁師の男に連れられて、島で一番高い崖に家が立っているのが目に写った。そんなに遠くは感じなかったが、きっとあんなに高居場所に家があるということは、島の中で一番力のある人なのかもしれない。聞いてみるか…いいや、止めておこう。

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海繋ぐ猫鳥 琉華ペングソ先生 @ruka1015

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