第2話 戦闘開始
「各員、二人組ツーマンセルで行動。遮蔽物を利用しつつ距離を詰め「近接駆逐型ブレードモード」で殲滅せよ」
『『了解』』
シュウの合図で十人は左右に分かれ、廃墟化した建築物を利用し、着実に距離を詰めていく。
血のように赤黒く、臓物のように肉肉しい翼を広げる二足歩行の化物〈第一のラッパ吹きファースト〉。
固有名詞は〈ブラッドヘイル〉。その醜い翼から高速で繰り出される「血の雹」に由来する。
威力は先ほど回避する暇なく頭を吹き飛ばされた隊員二人を見れば歴然だろう。それを散弾銃のように広範囲に撒き散らし、小隊規模ぐらいなら一度の攻撃で殲滅出来るだろう。
だが、それは開けた場所でのみ真価が発揮される。
廃れてもここは三十年前の首都、東京だ。盾になる建物ならいくらでもある。
「〈ファースト〉との距離約十メートル。今から迎撃に当たるよ」
「ちょ、ちょっと待て……」
「ヒロム遅い」
そう告げたのは、精鋭部隊〈死を奏でる奏団オーケストラ〉の中でも最高の機動力を誇るコウライだ。
称号持ちの部隊だけが各々の特徴に沿って造られる特注のカシウス。コウライは、機動力を生かして手数で相手を圧倒する二つの短刀型の〈カシウス〉で風を切り裂きいて移動する。
その途轍もない速さで走り抜ける姿は電光石火の麒麟の如く。
二つの〈カシウス〉を顔の前でクロスさせ、独特の構えを取る。
〈テンシ〉の体内構造は〈カシウス〉にも組み込まれている「アポカリプス細胞」が群を成して構成されている。
そのアポカリプス細胞は他の細胞を媒体にして増殖を繰り返す。全ての細胞が消滅しない限り無限に再生をし続けるのだ。
だが、首の中央部少し下から根っこにかけて存在する中枢神経を破壊することで、細胞の働きを停止させることが出来る。
「パァァァァァアアアアッッ――」
コウライに気付いた〈ブラッドヘイル〉がラッパの音色を奏で、臓物の翼を広げる。攻撃準備だ。
だが、もう遅い。
「その首貰うよ」
右手のカシウスを逆手に持ち、その首を刎ねた。
ブラッドヘイルの一瞬の停止。しかし…………。
「キィァァァァァアアアアッ」
瞬時に首が再生し、先程とは違う機械のような甲高い咆哮を上げ、再び動き出す。
「っ?!」
コウライの電光石火の攻撃は中枢神経が通っているギリギリのところを掠めただけで、破壊するまでには至っていなかった。
異形の翼が「みちみちっ」と不気味な音を立ててコウライの方向へ捻り曲がり、一度は中断した攻撃を再び放とうとする。
「まずいな」
この距離で「血の雹」を喰らえば、”称号持ち”の精鋭部隊の隊員といえど、先に待つのは『死』だ。
だが、窮地に立たせられようが、仲間が何人死のうが、何年も何年もしぶとく生き残っている人間の一人だ。
動揺なんて馬鹿な真似はしない。
「いいよ、全部弾き返してやるよ」
そう言うと、コウライは冷静に再び〈カシウス〉を顔の前でクロスさせた。
「二人組ツーマンセルだってこと忘れちまったら困るぜ」
気付くと、ブラッドヘイルの首から槍が突き出ていた。
ヒロムの「槍型」の〈カシウス〉だ。
「イィィィィッ……」
力無く声を上げると、ブラッドヘイルは完全に沈黙した。
「詰めが甘いぜ? コウライ君」
「……うるさい」
ヒロムは槍を抜き取り、コウライの肩を叩くと槍に付着した赤い血を払い、次の標的に向かった。
―――
真っ赤な夕焼けの下に転がる数百を超える〈テンシ〉の亡骸。
上に立つのは、たった十人の男女。
先陣を切ると言っときながら全てを倒してしまった彼等の方がテンシよりも化け物なのではないかと勘違いしてしまう。
「これが、称号持ちの精鋭部隊の力………」
彼等は死闘が終わった後とは思えない緩んだ表情で隊員達と雑談していた。
「それでさー、コウライが、」
ヒロムがおちゃらけて話すと、みんなは納得と言った表情で笑った。当の本人は恥ずかしそうに俯むくと、「それはもういいじゃん……」と消え入りそうな声でそう言った。
そんな光景をシュウとソウマは微笑んで眺めていた。
すると、突然シュウの個人回線に接続してきた人物がいた。
『ザザ――シュウクン聞こえる? 最高の科学者ハルミだよーん。君、明日は確か本部に呼び出されているよね? 帰りでいいから私のとこにいらっしゃい。話したいことがあるわ。それじゃーねー』
「ちょっとま、……はぁ」
シュウの突然のため息にソウマが反応した。
「もしかして、ハルミさんか?」
もしかしなくてもそうなのだろう、とシュウの肩を落とす仕草にソウマは気付いていた。
「まぁな......」
シュウは掴み難い性格をしたハルミのことが苦手らしく、まぁ他にも苦手な面があるのだがこのように呼び出される度に分かりやすく落ち込む。
「そりゃあ、ご愁傷様だ」
「他人事のように……」
「ま、他人事だからな」
ソウマはますます落ち込むシュウの表情をみると、プッと吹き出し、それに気付いた隊員達が……と言っても、ソウマを馬鹿にするのは決まってクレハ、カスミ、ヒロムの三人だが懲りずにまたいじり倒した。
「そろそろ帰還しますよ」
そんな終わりそうになかった雑談に終止符を打ったのは冷静沈着な判断力とたまに天然を発動して隊員達のギャップ萌え誘う、そしてこのオーケストラの副隊長であるカナエだ。
「「うぃーす」」
声に反応して隊員達が返事をした。
隊長であるシュウよりもカナエの方が隊員達をまとめるのが上手いのは気のせいじゃないのかもしれない。
「それじゃ……」
「「帰りますかーー!」」
そう言って、彼らの戦いはひとまず終わりを告げた。
戦闘犠牲者:二人
第三十二部隊隊員:リュウト、モナ。
終末世界で戦ってみた からくれ @oukakarakure
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