赤い金魚

雨世界

1 あなた(君)に会いたい。

 赤い金魚


 プロローグ


 あなた(君)に会いたい。


 本編

 

 ずっとここにいられたら、いいのにね。


 夏祭りの夜。

 僕は赤い金魚の入った透明な袋を手に持った、一人の赤い浴衣を着た女の子と出会った。

 その女の子は(やっぱり)赤い紐でその赤い金魚の入った袋を結び、手の指に縛りつけるようにして、その赤い金魚を見ながら、一人でお祭りの屋台のある人がたくさんいる道の中を、神社の境内の方向に向かって、歩いていた。


 それが僕が小学校の外で、君を見た初めての出来事だった。(最初、それが君だと僕は直ぐには気がつかなかった)

 僕と君がまだ小学校五年生だったころの、本当にずっと前の思い出た。君は僕を見て、「こんばんは。……くん。花火、綺麗ですね」と言って、にっこりと微笑んだ。

 そんな君を見て、僕は一目で恋に落ちた。


 星の出ている夏の夜空には、綺麗な色とりどりの花火が上がった。

 その赤や、黄色や、緑色が、君の姿を時折、その夜空に咲く花の色と同じ色に彩った。

 君は本当に綺麗だった。


「ずっとさ、こんな風に、二人だけで、ここにいられたらいいのにね」

 そんなことをにっこりと笑って君は言った。


 君は来年、この街を出て行く。

 引越しをして、遠くの、僕の知らない大きな都市に、行ってしまう。


 僕も、そのさらに数年後には、この街を出て行くことになるだろう。遠くの都市にある大学に通うために、向こうの都市に引越しをすることになると思う。


 やがて、花火が終わり、……夏の祭りが終わって、僕と君の関係と、それからずっと続いて欲しいと願っていた、今年の暑い、夏が終わった。


 東京で一人暮らしをしながら、大学に通っている僕のアパートの部屋には、今も一匹の赤い金魚の入った金魚鉢が置いてある。


 それは君の持っていた、あの赤い金魚ではないけれど、(東京で買ったものだ)でも、僕にとって、その赤色は、今もあのときの、当時の君の姿を連想させるものだった。


 今年も夏がやってくる。

 ……君のいない、僕一人だけの夏が、やってくる。


 春の終わりの風に揺れる、ちりんちりん、と言う風鈴の音を聞きながら、僕は窓の外の薄明かりの夕方の空を見て、そんなこと思い出した。


 君は今も僕のことを覚えてくれているのだろうか?

 それとも、もう僕のことなんて忘れてしまっているのだろうか?


 絶対に忘れない。

 きっと、直ぐに忘れちゃうよ。(そんなあべこべのことを君は、泣いたり笑ったりしながら、僕に言った)


 そんなことを、赤い金魚の姿を見て、僕は思い出していた。


 君は僕の、きっと運命の人だった。


 赤い金魚 終わり

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