第6話笑みの中の刀

「今までは国民一人一人が生きる為に知恵を絞り得意分野で活躍できる人もいれば思うように力を発揮することが出来ず貧しいまま一生を終えたり自分の力量と対価に納得が出来ず暴力に走る人が居ました。そんな国民の生活。収入格差を無くす為に考えられたのが国民保護監査管理法です。それはあなた方もご存知ですよね?」

彼女は俺達にパソコンの画面を見せながら説明をしている。

その光景がなぜが胡散臭く思えてしまう。

「…ねぇ。コレって俺達を洗脳しようとしているの?」

俺の言葉に彼女は視線だけを俺に向けた

「…そう思っているならば聞いていただかなくても構いませんよ。貴方達をここに置いたとしても、この島に利用価値があるとは思いませんし。」

パソコンを閉じ、俺に向き直る。

「その時は不要な人間だったと ここで始末するまでです。」

笑顔で俺に話しかけるが、目の奥は怒りの色が見える。そして左手は木刀に置かれている

「勘違いしないでくださいね。助けたわけではないんですよ。労力としてここに置いているだけです。その為に誤った情報は正しておかなければいけない。…いわゆる躾ですね。

どうしますか?肉の塊になるのはこれからの生活よりも簡単ですよ?」

張り詰めた空気が流れる。彼女は笑顔でいるが ここで俺が否と言ったら…

冷や汗が背中を伝う。

「…すみませんでした。とにかく説明を聞いてから判断します…」

俺の言葉に張り詰めた空気は和らぎ 彼女も笑顔を見せてくれた。

「そうですか。じゃあ話の続きですね。国民保護監査管理法の事しかまだ話していないですよね。…まぁこれは表向きの姿であって国民保護監査管理法は政府の犯罪を隠すための物なんですよ」

彼女はそう云うとパソコンのファイルを開いた

「この方、貴方は実際の人物を見ましたよね?」

そこに写っているのは俺が捕まる直前に見た死刑囚だった。

「…みた。会社の地下に迷い込んでしまって、でもフロアの作りは同じだから いつも乗っているエレベーターに乗り換えようと思って…開けたドアの先に居た」

「…その時…貴方 何をしました?」

「何って…」

あの時自分がした行動を思い出す。あの時、死刑囚が地下にいる事を誰かに伝えようとして

忘れない為に…

「…思い出した…。俺、こいつの写真を携帯で撮った…。」

俺の言葉に彼女は小さくため息をついた。

「きっとそれです。貴方が拘束され命までも奪われそうになった理由は」

彼女は携帯を取り出し誰かに連絡を入れている。早々と文字入力を終え携帯をまたポケットにしまう

「国民保護監査管理法は国民保護監査管理法に違反をしたものは戸籍抹消とし、国外追放・もしくは極刑とし極刑となった場合、遺体の返却は行わないものとする。そう決まっていますよね。何故遺体の返却をしないんだと思います?」

「国の安定のため…じゃありませんでした?」

「返却できないからですよ。死刑囚となった元・国民は国の財政を支える為に臓器売買されるからです」

彼女の言葉をすぐには飲み込むことが出来なかった。国民を…国が売っている…?

「何故…」

「何故?万保の時代になってから政府の借金は無くなりました。何故なら犯罪を犯した人間を生かしておけば それだけ経費がかかる。だけど、その人間を移植用の臓器として売れば利益になる。…只それだけですよ。お陰で日本は税金も上げることなく国民を守り豊かになっていきました。国民保護監査管理法は国際的にも認められていますしね。ソーシャルスタイルを元に国民を振り分ければ暴動も起こらない。国の一つの繁栄の形だと」

俺たちは言葉が出てこなかった。

「そして、この社会の仕組みを作ったのはかれです」

彼女はパソコンの画面を切りかえ俺たちに見せた。そこに写っているのは

「総理大臣、毒島 才蔵…」


彼女の言葉を淡々と聞く事しかできない。海風が優しく俺の体を撫でていく。動揺をしているのを慰めてくれるように。だが風に撫でられ寒いからなのか、恐れをなしているからなのか体の震えが止まらなかった

「…私の話はここまでです。おそらく今政府は貴方の体を探しているんだと思います。たとえ死んでしまったとしても研究機関に渡して医学の発展のために解剖として使用できますしね。」

「どこにも俺には居場所がないと。君はそう言いたいんだね?」

「いえ。ありますよ。政府の前に出て行って捕まれば貴方の臓器は彼方此方に売りに出され誰かの役に立てます。あとはここで労力となる事ですね」

「捕まって死ぬか。ここで奴隷になるか」

俺の言葉に彼女は鼻で笑う

「奴隷?私たちが貴方達を奴隷にすると?」

「労力というんだ。そういう事だろう?」

「残念ながら私達は奴隷制度を設けていません。此処では一人一人自分の意思で考え自分の力で生活をしていくんです。…かつての日本のように。政府に決められたレールに乗るのではなく自分達の道を作りながら生きていくんです」

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歩く死体が笑う街 月守Amelia風雅 @A-fuga

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