第5話

「じゃあ、今回の事はアンタたちが仕組んだことって事?」

「おいおい、それは濡れ衣だなぁ。君の身に起こった事は俺たちの計画じゃない。

俺たちだって助ける人間は選んでるんだ。誰彼構わずって事じゃない」

助ける…?何言ってんだコイツ。益々不信感を募らせた俺に男は言った。

「君さ、一体政府の奴らを怒らせるほど 何をやらかしたんだい?下の方とはいえ国民管理法の管轄で勤務していたんだろ?」

「そんな事、こっちが聞きたい。いつも通り勤務をしていただけだ。」

「…ふうん」

男が新聞の記事を出した。そこには俺の拘束機が墜落したニュースが載っていた


‘死刑囚逃亡幇助の容疑者 拘束機を墜落させ逃亡 ‘


その見出しに驚いて男から新聞をもぎ取った

「君…拘束機を操縦して逃亡計った事になっているけど、これは本当なのかな」

「違う!…新聞の記事にも載っている死刑囚逃亡幇助だって覚えが無いし そもそも拘束機は俺が操縦していたわけじゃなくて勝手にコントロールを失って墜落したんだ。俺は何もしていない!」

そう。俺は何もしていない。身に覚えのない罪に問われ死にかけて

得体の知らない男に詰問されている。…なんなんだ。一体俺が何をしたというんだ。

怒りと悔しさが入り混じり涙がこみ上げてくる。

「なんなんだよ。もういい加減にしてくれよ。何を言っても信用してくれない

俺の言葉だって今どうせ嘘を言っているって思いながら聞いてるんだろ!」

「それは違う。誓ってそんな感情を君に対して抱いていない。だって君は真実を言っている」

その言葉に男の方を見た。悲しそうな顔をして俺を見ていた。

「…そう。君は何もしていない。だが相手にとって不利益になる事を見てしまったか知ってしまったのか。おそらくそのどちらかだろう。

だから君を始末して闇に葬ろうと考えたんだろうな…。」

「相手って…誰のことだ」

「君の勤務先、いや元・勤務先だな。つまり国だ」

男はそう呟くと携帯を取り出し電話をかけ始めた

「播磨だ。今、君が拾ってきた子の話を聞き終わったよ。おそらくこの子は嵌められたんだ。

この子が生きていないと偽装をする。その為にも、もう少し状況を知りたい。この子の話を詳しく聞いて状況を整理する必要がある。あと、俺たちについても話してくれ」

それだけ相手に伝えると電話を切った。

「改めて俺の名前は播磨。ファントムペインの一応 カシラ?をやっている。君と君の親御さんをファントムペインで保護させてもらう。ここでの生活は色々と不便なことも多いが本土よりはまだマシだと思っている。また後で連絡をさせてもらうよ」

「え…あの…展開の速さについていけないんですけど」

「そうだろうねぇ。 あとは…」

ドアをノックする音がして先程の感じの悪い女が部屋に入ってきた。

その姿に露骨に嫌な顔をしてしまう

「…まぁ、あとは彼女から詳しい話は聞いてくれるかな。俺はやり残している仕事を放置してきているので そろそろ戻らないと後が怖いんでね」

じゃあ、あとは頼んだよと俺の介抱をしてくれた彼女に言い残し部屋を出て行った。

外で待っていた母が入れ違いで入ってくる。

「どうなったの…?」

「よく分からん。ただ保護はしてもらえるらしいな」

「あぁ…よかった。」

「良くないだろ。ファントムペインは反政府のレジスタンスだ。そんな奴らの世話になるって事は犯罪者の仲間と思われるんだぞ」

「それはそうだけど…本土に私達の居場所なんてないのよ。今回のことで私も貴方も国から戸籍を抹消されてしまったわ。住む場所はおろかあの国で生きる権利も無くなってしまったのよ」

母の言葉に愕然とした。俺がこんな事に巻き込まれた為に母も生きる場所を失った。

「なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ!」

苛立ちが声となった。言われた通りの生活をしていただけだ。それなのに何故…!

部屋の中に珈琲の香りがふわりと入ってきた。先ほどの彼女が俺達に入れてくれたものだ。

カップを俺と母の前に置き ひと呼吸置いたあと

「今回 貴方たちが巻き込まれた事の詳細を伺います。それと、私達についても知っていただきます」

この後の話は俺たちが生きていた社会というものが一人の男の欲望のために造られたものだという事を思い知らされる事実だった。

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