第4話 溺れるものは藁をも掴む
暖かい…久しぶりに感じる温もり。とても心地よい。
最近はずっと冷たい床かギチギチに拘束された状態でしか休んでいなかった
天国ってこんなに心地のいい場所なんだなぁ…。
目を覚ますと点滴がまず目に入った。目が慣れてくると天井が見えてきた。
俺の顔を優しく風が撫でていく。
身体中がまだ痛むので起き上がることができず首だけ
風が入ってくる方向を向くとビルの隙間から海が見える。
本当にココはいったいどこなんだ。
「目が覚めましたか?」
後ろから女性の声がした。慌てて振り返ると髪の長い女性が
俺を見下ろす形で立っていた。
「ココは何処なんでしょうか…?」
「政府の手が届かない場所であることには間違いないですね。随分と怪我が酷くて一週間も昏睡状態だったんですよ。気がついた事をドクターに伝えてきます。診断を受けて問題がないことがわかってから詳しい話をさせて頂きます。」
俺の上体をベットごと起こし、彼女は部屋を出て行ってしまった。
窓の外には海が広がっている。本当にここは何処なんだろう。
俺の方へ向かう足音が聞こえる。
「あぁ、本当だ。気がついたんだね。あの怪我でよくここまで回復したもんだな」
彼女に連れられて来たドクターは俺の体を調べ始めた。
「うん。心配された合併症もなさそうだ。親御さんを呼んでも構わないよ」
ドクターの言葉が一瞬理解できなかった。親御さんって言ったか?
「あの…母が 近くにいるんですか?」
「あぁ、君がここに保護されてすぐリーダーの指示でね。君の母上もここに保護されている。居住地区に避難しているよ」
じゃあ、後は頼んだよ そう言ってドクターは退室していく。
「良かったですね。貴方も今日中には居住区に避難ができると思いますよ。今 お母様をお呼びしますね」
その言葉と同時に母が部屋に飛び込んできた。
さっきのドクターが母に声をかけたのだろう。
母と再会が出来ると思ってなかったので、思わず涙がこぼれた。
二人で抱き合い無事を喜んでいた時
「大変恐縮なのですが、実はリーダーが貴方と少し話をしたいのでこのままこの部屋で待っていて頂きたいんです。再会して家族団欒をして頂きたいのは山々なのですがこちらも貴方を保護する事によって不利益になりかねないので。事実を確認させていただきたいんです。家族団欒はそれからですかね」
彼女の冷たい言葉に母が問いかける
「息子は…ここでは生活ができないと言う事ですか」
母の問いに彼女は目を伏せて
「…そうですね。息子さんは本土ではもう犯罪者のレッテルが貼られています。そのような人間を匿うのも私達にとって不利益になりかねませんから。場合によってはお二人でここを出て行ってもらう事もありますので、覚悟だけはしていてくださいね」
そうだ。何故か俺は犯罪者になってしまっている。彼女の言葉に
「俺はあの時あの場所に居ただけだったのに。犯罪者にされてしまっただけなんだ!
誰も信じてくれないけれど…」
俺の言葉を聞いて、彼女は小さくつぶやいた
「本当に…居ただけでしたか?」
その言葉に俺は居ただけですけど そう返した。
「そうですか。本当に居ただけならばこんな事にならないと思うんですけど」
その言葉を吐き捨て、俺と母を部屋に残したまま部屋を出て行った。
彼女の腰には木刀が佩刀されている。普段いた場所では見ない光景に少しギョッとした。
それと同時に高飛車な物言いに苛立ちが湧き上がってくる。
「なんだよ。感じの悪い女だな。」
しばらくしてから俺がいる部屋に先ほどの彼女とひとりの男が入ってきた。
母は話を聞くために部屋から追い出された。
「やあ。今回は災難だったね。身体の方は大丈夫かい?」
年齢も俺とあまり変わらない。明るい栗色の髪を後ろはスッキリと短くし前髪は端正な顔立ちを少し隠すように前髪が長く伸びている。顔は笑っているが目の奥は笑っていない。
何を考えているのか全く掴めない男だ。
「君はココが何処だがわかるかな?」
「いえ。まったく。」
「まぁ、そうだよね。何にも分からないままココに連れてこられて分かる訳ないよね」
海沿いの場所だという事は分かるけれど…。
「そうだね。じゃあ何処から説明しようかな。今君がいるところはまだ日本で、本島から遠く離れた場所に居る。しかし、正確には日本では無い。」
男の説明に は?となった。
「日本では無いってどういう事ですか?」
「俺たちはファントムペインと名乗って活動をしている。君も本島に居た時には聞いたことがあるのでは無いかな?」
ファントムペイン。政府に刃向かう武装組織だ。犯罪者を護送中に誘拐してしまったり
政府に対し挑発的な態度をとり、時々世間を騒がせている若者の集まりだという事だけは普段あまり政治関係に詳しく無い俺でも知っている。何故そんなヤツらが俺の目の前にいるんだ。
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