第3話 疑わしきは罰する

『う…ん 寒い。なんか首締められたんだけど。身体中痛いし…なんなんだ?』

目の焦点があってくると飛び込んできたのは鉄格子。

その光景に一瞬止まった。頭の方向を変えて周りを確認する

硬いコンクリートの床、申し訳ない程度の衝立しかない便所

薄暗い部屋をかろうじて明るくする高い場所にある小さな窓。

見えているのはドラマとかでしか見たことがない牢屋の光景

自分の置かれている状況にパニックになり鉄格子をなんとか開けようとした。

俺が出す騒音に刑務官が飛んできた。

「なんだよ!俺が何をやったっていうんだよ!ここから出せ!」

刑務官が警棒で俺の体を激しく突いてきた。

俺はその衝撃で牢屋奥に弾き飛ばされる

「やかましい!国民管理法に従事する身で、死刑囚の逃亡幇助とか笑えん事しおって!」

刑務官の言葉に「…は?」としか言えなかった。逃亡幇助ってなんだよ。

「知らねーよ!俺は何もしてないんだ!ここから…ここから出せぇ!」


自分に何が起こったのかわからなかった俺は牢屋の中で何度も叫び声をあげた。

その度に警務官が飛んできて俺を拘束したりする。

何度も何度も警棒で殴られるからか患部を押すと鈍い痛みが走るようになった。身体のあちこちが痛みで動けなくなる。それでも俺は抵抗をやめなかった。

捕まるような事はしていない!コレはなにかの間違いなんだ!

何度も抵抗するうちに俺が声を上げない様に猿轡を嵌められた

それでも声が出せないのならばと牢屋の中に置いてあった物を使って

暴れるように自分の理不尽を訴えていた。

たとえそれが自分の汚物が入ったバケツだとしても

刑務官からは問題ある人間とレッテルを貼り俺は

拘束衣を着用させられ身動きができない様になっていた。

食事の時だけ全ての拘束が外されるが俺だけ違う部屋で一人で食事を取ることになっており目の前には刑務官が二人立って見張っている状態だった。

どれくらいの時間が経っていただろう時間の感覚もわからない状態になった。

しばらくすると俺の罪状を決める裁判が開かれルト言われ

弁護人との面会になった。やっと俺の話を聞いてくれると喜んだ

しかし面会した時の弁護士の第一声が

「君は…どうやら精神を病んでいる様だからね…。死刑では可哀想だ。せめて罪を償う時間を貰える様、努力するよ」

そう言われた。それに対して俺は弁護士に訴えた。

「違う!俺は何もしていない。あの男と面識ないんだ!会社の地下施設に行ったのは間違いだったんだよ!信じてくれよ!」

俺の言葉に弁護士は小さなため息をつく。

弁護士は鞄の中から一つファイルを取り出した

「これが検察側から提出された資料なんだ。ここに、あの死刑囚を連れ出している人間が写っている。…顔をよく見てごらん。これは、君だよね?」

その写真にはよく見慣れた顔と見慣れたスーツが写っていた。

それは紛れもなくだった

「お…俺はあの部屋で後ろから誰かに掴まれて首を絞められたんです。コレは俺じゃないコレは俺になりすました誰かだ」

「その話が本当だったとして…。その証明はどうするんですか?」

「…っいやっ…。だから、俺はこの部屋に入った事は認めるよ。

でも運んでいない。信じてくれよ…」

俺の言葉に弁護士はため息をついただけで返事もしてくれなかった。

俺は何も発言することが出来ないまま裁判が開かれ身に覚えのない

死刑囚の逃亡を手助けした罪に問われる事になってしまった。

会社の地下へ入っただけで、あっという間に犯罪者となってしまった。

俺の罪は死刑。

しかもその執行日は裁判の判決が出た三日後に行われる事になり、

俺の身柄は無人拘束船で誰にも接触できないようにされてしまった。

その船は嵐の海に飲み込まれコントロールを失ったらしく

何処かに激しくぶつかり炎上。現在に至る。


身体中が痛い。起きあがりたくても力が入らない。でも起き上がってどうするっていうんだ。もう犯罪者のレッテルが貼られた俺は社会に復帰することも、母を守ることもできない。ならば…。

船から出ている火が俺に近づいているのが分かった。熱がこちらに向かってきている。

生き残っても殺される。

「もう…いいや。生きていたくない。このまま…殺してくれ」

気持ちが折れた瞬間にポツリと出た独り言 誰も聞いていないのに。


「じゃあ…その命 私たちに頂戴?」


女の子の声の後 船が爆発。俺の意識は星空に飲み込まれるように遠くなった。

なんだか懐かしい香り。あぁ、小さい頃 母が連れて行ってくれた海の 潮の香りがする。

天国は海が近いのかな。

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