第2話 水を知るものは水に溺れる

俺の人生こんな終わり方なのか

目の前に広がる夜空。今まで見た中で最高に美しい。

それはもうすぐ俺が死ぬからなのか?

あぁ、三日前の俺に戻って 自分の愚かな行動をしないよう助言をしたい。

いや、幼い頃に戻って人生一からやり直したほうがいいと助言したいというのが

本心だろうか。


俺は小学校の時から人との関わりがうまくできず 遊ぶ相手もいなくて

一人で本を読んでいるだけの子供だった

その為か義務教育終了後の進路決定の時には 自分の家庭環境では行けるはず無い進路を約束された。

人より良い高校・大学で学び、就職先も官公庁に行くことができた。

と、いうのは表向きの話であって。成績が良かったことは事実だが後は違う。

俺の家庭は父親が俺が幼い時に他に恋人を作り 母と俺を残して蒸発した。

俺の母は、女手一つで俺を育てるために朝から晩まで働き

夜は内職をして育ててくれた。

第一次国民保護監査で成績が良く将来が有望であると国から認められた俺は

高校・大学の授業料を払わない代わりに、

国民保護法の管理機関で働くことの進路を決められた。

他の同級生と違って国民保護監査は第一次のみしか該当せず、

国で働くという選択肢意外、将来は選ぶことができなくなった。

それでも俺は構わなかった。将来は政府に決められていたとしても俺を養う事で母に負担はかからないし就職先も自動的に決まっていれば

俺が社会人として働くことが出来るようになれば、それは母は

苦労しなくても生活していくことが出来るということだ。

正直 子供の頃からなりたいもの、夢なんて無かったんだから。

友人もいない俺にとっては嫌われ部門でも生きていけるなら。

家族を養うことができふつうに生きる事が出来るのならばそれで良かった。


国民管理機関に勤務を始めて 半年が経った頃だ。

仕事もある程度自分の思い通りに処理できるようになり

余裕が生まれた時の事だった。

普段なら絶対やらない事をしてしまった事が今回の始まりだったのかも知れない

あの時、引き返せば良かったんだ。

『あれ。やばいな、そんなに珈琲屋にいたのか。昼休みが終わってしまう』

昼休みに珈琲屋でのんびりし過ぎた俺は早く自分のデスクに戻るために

会社のエレベーターの列に並んだ。みんな昼休みで外に出ている人で

エレベーターは混み合いなかなか乗り込むことができない。

『やばい。このままだと課長にまたクドクド言われちまう!』

イライラしながら目線を写した時、誰も並んでいない

エレベーターが目に入った。

『ラッキー!これ使えばデスクに戻れる。なんでみんなこっちの使わねーんだろ?』

普段だったら使う事をしないエレベーターを使って移動をした。

どうせ会社の中の構造なんてみんな一緒で 違うエレベーターを使っても

自分の部署に戻れるだろうと。

しかし、そのエレベーターは地下にしか行かない特殊なものだった。

上に上がると思っていた俺の体は思わぬ重力にふらつき、

エレベーターが下に向かっているのを感じた。

普段から機関に勤務していても、限られた人間しか立ち入ることのない

地下へ着いてしまった。

『あーついてないな!なんだよ、地下にしか行かないヤツだったのか』

慌てた俺は自分の部署に戻るためにエレベーター近くにある見取り図を見た

『なんだ。やっぱり構造は変わらないんだな。だったら地下から乗って戻るしかないか』

勤務している階と構造があまり変わらない事を確認して、普段使っている

エレベーターへ乗り換えるために地下フロアを進んだ。

しかし進んでいくとそこには見慣れない扉が有るだけだった。

けれどこの見慣れない扉の向こうに自分の部署に行く

エレベーターがあるのを確認していたので、躊躇する事なく

この扉を開け進んでいった。

そこにエレベーターはなく手術室のような部屋があるだけだった。

薄暗い部屋の中、生命維持装置の規則的な音が鳴り響いている。

手術台と思われる寝台には一人の男が横たわっていた。

その男の顔には見覚えがあった。

何故ならその男は今朝テレビの情報番組で

死刑執行されたと報道があった男だったからだ。

生命維持装置はこの男が生きている事を知らせる心拍数・血圧がモニターされている。

『生きているということなのか。何故ここに居るんだ。逃亡?だとしたら警察に通報しなくては…!』

その男の顔を後ほど警察に行った時に説明できる様に

自分の携帯で男の顔を撮影をしていた時だった。

誰かに後ろから羽交い締めにされた後、首を絞められ俺は意識を失った。

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