67 全て望み通りに
ガラン城内にはいくつもの部屋がある。王族が住まう部屋はもちろん、客間や使用用途の決まっている部屋もある。
ガラン城二階、端から二番目に位置する部屋。表向きは他の部屋と大差ない。扉には「ルイ」と記載されたプレートがかかっている。ここは今は亡き第二王子ルイがかつて使っていた部屋。主のいないこの部屋を訪れる者がいた。
「全て望み通り、ですか?」
「やだなぁ。敬語なんて使わないでよ。昔は使ってなかったじゃないか」
「それは、まだ俺が敬語を、ディスガイア語を知らなかったからです」
「いいよ、昔のままで。もう国王でもないからね」
金髪に濃い青の瞳を持つ中年男性は、今朝まで国王と呼ばれていた人物。その後ろをついて歩くは、右目を眼帯で隠した黒髪の軍人、カイル。濃い赤の左目が国王の顔を真正面から見つめている。
「陛下はいつから、このシナリオを?」
「クラウンが生まれた日から。あの日、奴が嬉しそうな顔で『この子の足が無いの!』って僕を呼んだ日から」
「そんなことが」
「普通悲しむべきなのに、奴は嬉しそうにしてたんだ。怪しむのは当然でしょ?」
国王が語り出す、始まりの日の話。カイルはその話に時折相槌を打ちながら聞いている。
「
「閃いた?」
「あの子を避難させて、王妃達の様子を見ようってね。けど、城でも命を狙われていたから、あの子が死なないか心配だった。そんな時だ。君が鴉に引き取られてやってきたのは。実は、君が来たばかりの時に調べてもらって、知っていたんだ。君があの子のデュオとなるってね」
カイルの記憶の中では、国王に直接対面したのはクラウンの護衛を命じられた時のみ。けれども国王によれば、カイルはディスガイアに来た時点で一度会っているのだという。
カイルがクラウンの護衛を命じられたのは年齢が理由だと思っていたが、クラウンと同じ真名を持つからだったようだ。無意識にカイルの手に力が入る。
「ジョージを阻止するのは想定内だよ。混乱に乗じて王妃の命を奪うことも、ね。でも、
「あの二人は……俺とクラウンの仇だった。ユベラ養護院を襲撃した奴だから」
「それも、想定外。王妃がフェルメールと組んでるなんて思わなかった。クラウンを殺したがってるのは知ってたけど」
「気付いていたくせに」
「本当に気付いてなかったよ、君が報告するまでは。それに……僕は、第一王子に国王を継がせたかった。例え名前が変わっても、ね」
想定外が起きたというわりにはやけに落ち着いているように見える国王。王妃が死ぬこともジョージを阻止することも想定内だと言う彼が一つだけ譲らなかったことがある。それは、国王をクラウンに継がせること。
「なぜ、そこまでクラウンにこだわる? 王子なら他にもいるだろう?」
「黒い目で生まれたからと諦めて側近として生きることを選んだ第二王子。黒い目で武芸も頭脳も常に学年最下位、サボり癖のある第三王子。青い目で武芸も頭脳も並だが明らかに僕の血を継いでいない第四王子」
「は?」
「ネイサンだけだったよ。足が無いからと幼くして五ヶ国語を身につけ、王妃の真相に気付き、その証拠の一部を隠しきる。さらに、車椅子というハンデを持ちつつも、それでも戦う術を模索し習得した。国王に相応しい強さを持つのは、今も昔も、ネイサンだけなんだ」
ディスガイア国は強者が優遇される国であり、国王には血筋だけでなく強さも求められる。だが国王の考える強さとは、一般的な武芸が強いという意味ではない。
「頭脳の強さ、語学力、という意味ではクラウンに勝てるものはいない。諦めないこと。常に先を考え、抗うこと。それが必要なんだ。正直、武芸なんて人並みでいい。僕だって、他の兄弟に比べたら武芸は弱い方だ」
「クラウンを、養護院に預けたのは……その、ため?」
「それは語弊がある。元々、守るために預ける気ではいた。でも、君にクラウンへの手紙を託したのは、シナリオのためだ。君がいたからだ」
国王の人差し指がカイルを指し示す。
「デュオが君だった。クラウンに強さがあった。でも……あのクラウンが王になるには、手柄が必要だ。それこそ国を救うような、英雄となりうる手柄が、ね」
「手柄、か」
「この国には根強い思想がある。強者が優遇されるこの国だからこそらクラウンが王として認められるには、それ相応の手柄が必要だった。まさか第四王子の秘密を暴くはずが、フェルメール国から国を守る結果になるとは思わなかったけど……目的は達せられたんだ、充分だろう?」
濃い青色の瞳がゆっくりと細められる。クラウンであればしないであろう穏やかな表情が、カイルの緊張を解く。
「これから、どうするんだ?」
「僕? 僕は……クラウンをサポートしつつ、またジンのデュオとして、戦場に赴くのもありだよね。君は鴉だし、クラウンの事情もあるからこの城でもクラウンとデュオでいれる。けど……ジンは、そうもいかなかったからさ」
「そうか」
「これからもクラウンのこと、よろしくね」
「当たり前だ。俺がクラウンの剣で、クラウンが俺の頭脳。これは、王になってもならなくても変わらない」
「それでいい。そして、クラウンは僕のことなんて何も知らなくていい。君だけが全て知っていればいい。わかるよね?」
国王の言葉は王の間で話した時よりも凛と、けれども明るく楽しそうに響く。カイルはただ、跪くことしかできない。廊下から、クラウンがカイルの名を呼ぶ声が聞こえてくる。
喪失のデュオ 暁烏雫月 @ciel2121
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