第63話 さくらミントと発掘文書

 コロナコロナと騒がしい中ドラッグストアへ行った。目的はティッシュペーパーや洗剤など、日常生活での消耗品入手だ。


 先週、棚から無くなっていたトイレットペーパー等はキッチンタオルに至るまで全て復活している。そういえばスーパーの品揃えも正常化された。


 で、歯磨きが切れそうになっていたのを思い出し足を運ぶ。見慣れた配列の中で異質な製品が光った。華やかな模様で彩られている。形は私が愛用する物に間違いない。手に取ってみる。


「さくら〜ミント」


 そう来たか。歯磨き粉で桜味は斬新だぞ。不味いだろうなぁ、と感じつつ迷わずカゴに入れる。マイナス予想なのに買うのである。


 帰宅して表面のシュリンクを剥がし二階の洗面所に置いた。


 以前「紅茶好きの憂鬱」で触れたが私は眠る前にミッチリ、歯を磨く。その時が来た。歯ブラシとチューブを握る。


「あ、そうだった」


 もう忘れられていた桜。期待してブラシに載せる。口に入れ電動なのでスイッチを押す。


「ぶーん」


 期待を裏切らない味だ。皆さんに分かる様、説明しよう。炭酸飲料が手っ取り早い。ドクターパッパラーというかチェリーコケコッコーというか、それ系の味である。好きな人には堪らない、駄目な人は全く受け付けないあれだ。断っておくが沖縄のロートビアではない。


 有名な青汁のコマーシャルを転用出来そうな程、「不味い」味を採用したメーカーと提案開発した担当者達に私は敬意を表したい。勇気ある企画、行動だ。だが恐らく来年はないだろう。市場は冷徹だ。


 そんな事を染み染み考えつつ眠前の行事を終えた私はふと、洗面所の後ろの扉を開いた。今でも何故、そうしたのか分からないが、兎に角、私は納戸の扉を横に押した。


 一番、手前に置かれたラックが目に入る。上から三段目のスライドボードにワープロが鎮座している。分銅ミニだ。


 眠りに就くべき時間にも拘わらず興味が先走る。ラックを手前に引き寄せ注目のマシンから出るコードを壁面のコンセントに挿入した。メインスイッチをオンにする。


 反応はない。


「流石に二十数年放置すると無理か」


 諦めて元に戻そうとして気付いた。フロッピースロットに何かある。


「ガチャ」


 取り出されたのは2DDのフロッピーディスクだ。2HDなら兎に角2DDとなると最近の機械では読み取れない。


 ここで一旦、引いて、翌日、触ってみることにしてベッドに入った。


 朝が来た。休日なので暇はある。


 ノートパソコン用品の箱を引っ繰り返しUSBフロッピードライブを探す。有った。PCに接続して問題の2DDを入れる。


「ガガッ、カッ」


 インジケーターが輝きデストップにはフロッピーのアイコンが現れる。対応ドライブだったようだ。先ずイメージを吸う。バックアップ、安全策だ。それからファイルを読み取り適当な場所へコピーする。


 処理したファイルを確認すると、どうもワープロの独自フォーマットによる記録みたいだ。読める形式に変換する必要がある。


 ウェブで検索する。直ぐに見付かった。所謂コンバーターだ。話は逸れるが無償で、この様なユーティリティ、ツールを提供されている方々も桜味の関係者同様、尊敬に値する。


 変換を試みる。特にエラーもなく新規ファイルが生成された。


 さぁ、御待兼ねの御開帳タイムだ。二十数年を遡った私は何を記していたのか。


 結果かから述べると一つは短編小説であった。これは既にタイトルを与え公開した。


「綴られた1994」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894531580


 残る二つだが、一つは書きかけのプロットの如き文章で、もう一つは取るに足らない恥ずかしい詩だった。


 実はこの前者について悩んでいる。時間毎に出来事が箇条書きされた進行表とも呼べるべきもので小説の体は成していない。しかもストーリーが盛り上がって、ここからという所で筆が止まっている。


 しかし自分で言うのも何だが面白いのである。


「二十数年前の私、馬鹿過ぎる」


 内容は都市間で本気のサバイバルゲームを行い勝者が敗者を吸収合併する、それが自衛隊も米軍も巻き込み世界的に報道も過熱、さて、その後の展開は如何に。


 これ、公開したら続きを書いた上で小説化して下さる方、見付かるだろうか。見付かることに賭けて完成度的にはゼロでも投稿したい気持ちもあるのだが羞恥心が邪魔をする。


 うーん、この不定期実話、推敲せず投げてコーヒーブレークにでもしよう。頭の中が真っ新になれば良い考えも浮かぶだろう。では。

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