第23話 金網

「よしお、お前がよしおだな。 少し話でもするか?」

モヒカンリーダーが金網越しに話しかけてきた。

俺は果たし状に、よしおと記名してこの遊水池に来た。

だからもうゾンビを装う必要もない。

俺はゾンビスーツの胸元をゆるめて顔を出した。

「はい、俺がよしおです。」

リーダーは俺の顔をしっかりと見た。

「俺がモヒカンリーダーだ、本当にスーツァーがいるとはな。」


スーツァーって何だ?スーツァーって何だ?勝手にジョブ名を付けてんじゃねえぞモヒカン族め、このご時世に決闘を申し込むやつも申し込むやつだが受ける俺もどうかしてるぞ中世か冷静になれ冷静になりたまえよ冷静に、すぐに隣の市へ逃げる手もあるがキャンプがまだ作れていないから無謀かもしれないし、もし勢いで隣の市へ入っても食糧が探せなければさすがの俺も餓死エンド、ペコペコエンド、ペコエンド、よしおペコペコ、ペコエンド、もしもの時に帰って来れるキャンプを作っておかなければ移動すらできないのですスーツァーもつらいのです。


俺とモヒカンリーダーは金網フェンス越しに話を始めた。

このフェンス越しなら正面に立たなければヤリも刃物もお互いに届かない。

上からフェンスを越えてくる場合は下で待ち構えている方が有利になる。

お互いに攻撃はできないが話はできる状況だ。

フェンス両側にベンチがあったので腰かけて情報交換をした。

どの国道が封鎖されてただとか、博物館に缶詰があっただとか。

映画館はゾンビがいて危ないだとか、どのコンビニは全滅だとか。

ガソリンスタンドは使えるだとか、薬局は大丈夫だとか。

それこそ噂レベルのことも話をした。

これから決闘をすればどちらかが死ぬ。

死んだ方は情報を持っていても無駄になるから。


「よしお、お前がもし勝ったら、すぐ隣の市へ行ってくれないか?」

そうリーダーが言ってきた。

果たし状の条件では追跡をやめるだけだ。

俺がどこに住むかは条件には入っていない。

しかしリーダーは追加条件を出してきた。

なるほど。

俺がこの街にいればモヒカンメンバーといずれ戦闘になる。

「リーダーさんのそれ、のみますよ。」

キャンプ作りは不十分だが仕方ない。

リーダーめ。

もし決闘でモヒカンリーダーが勝てば俺は死んでメンバーは安全だ。

もし俺が勝っても隣の市へ行くのでメンバーは安全になる。

どちらにしてもモヒカンメンバーが安全になるように交渉してきた。

リーダーめ。


話が途切れたのでリーダーがタバコに火を付けた。

「吸うかい?」

リーダーは決闘前にタバコに毒を盛ることを否定しパッケージを見せた。

タバコのパッケージには肺ガン予防のドクロマークが印刷されている。

「毒は入ってないぜ。」

リーダーがそう言うと二人で笑ってしまった。


金網のスキマから差し出されたタバコを俺は受け取った。

「ふだんタバコは吸いませんが、一本頂きます。」

リーダーが火の付いたタバコの先端を金網から出してきた。

タバコの先端どうしを付けて吸うと俺のタバコにも火が付いた。




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