第9話 ゾンビの神様

病院の玄関口でゾンビ達が近づいてきた。

俺のゾンビスーツが破れて人間臭がもれているに違いない。

人間臭って何だ?

今は考えている場合ではない。

とっさに隠れる部屋を探したが病院の中も外もゾンビだらけだ。

一気に走って階段で上階へ逃げてもゾンビがいることは先ほど確認済みだ。

走って逃げられない。

キャンプ作りのついでに寄っただけだからヤリのような武器もない。

ナイフ一本では近場の空き家キャンプまで走って移動も厳しい。

そうだ体育座りだ。

俺は体育座りをして頭をゾンビスーツの中に戻した。

下半身のズリ落ちをカバーして上半身のスーツをかぶる感じで体育座りだ。

「お前、人間なんじゃね?」

という雰囲気でゾンビ達が次々に寄ってくる。

やはり人間の匂いが漏れている。

もうナイフがあっても囲まれているので逃げられない。


神様、ゾンビの神様、許してくださいもうナースゾンビの胸をもんだりしませんから胸カチカチだと罵ったりしませんからどうか許してください御免なさい勝手にスーパーの食糧を食べたり民家に入ったりもうしませんから御免なさい今回だけはスルーして下さいお願いします御免なさいゾンビの神様の世話にならなくてもコッチはロープ一本で人生フィニッシュできるのですからスルーして下さい明確な人生の目標とか夢とかないし家族とかいないけれども正直まだ死ぬわけにはいかないのです。


ゾンビは噛む直前に最終確認をするはずだ。

間違って味方ゾンビを噛んでしまわないように匂いで確認するはずだ。

ゾンビスーツの開胸部のスキマから十数名のゾンビに囲まれているのが見える。

一番近いゾンビはガブリモーションに入った。

ここまでか。

するとそのゾンビは周りを見回して背中を向けた。

次々に他のゾンビが噛もうとして背中を向けた。

よし、ゾンビスーツが効いている。

体育座りにより露出部が無くなりスーツから人間臭がもれなくなったのだ。

周りを囲んでいたゾンビたちは離れて行った。

だがうかつに動けない。

停電中の病院の玄関口は真っ暗な夜になった。

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