第3話 ダブルピース

俺のダブルピースで停まった車には家族3人が乗っていた。

父親、母親、小学生ぐらいの娘さん。

父親はアーチェリーの弓矢を見せている。

ゾンビだと勘違いされてはたまらない。

俺はなるべく急いでゾンビスーツの上半身だけを脱いだ。

そして笑顔でダブルピースをして人間だと示した。

もしゾンビなら細かいピースサインなんか出来ない。

母親と娘さんは前方の一点を無表情で見つめている。


「あの、俺は人間です。」

そう俺が声をかけたがエンジン音だけが道路に響いた。

「このあたりで食糧がある場所、知らないでしょうか?」

続けて声をかけたが母親と娘は無表情のままだ。

エンジン音が邪魔になって声が聞こえないのだと思った俺は一歩前進した。

すると父親がこちらへアーチェリーの弓矢を向けた。

ヤバイ!

そう感じた俺はとっさに後ろへ倒れた。

すると車はスピードを出して走り去ってしまった。

ショックだった。

だが緊急にやるべきことがある。

車のエンジン音でゾンビ共が集まっている可能性がある。

俺はすぐに身を起こして周囲を警戒した。

建物の裏は見えないので注意しつつゾンビスーツの上半身を着た。

よし、これで安心だ。

これならゾンビの大群に囲まれても人間だとバレずに襲われない。


ひとまず自宅へ歩いて帰って戸締りをした。

安全を確保した俺はゾンビスーツを脱いで体でも拭こうかと浴室へ。

鏡を見た俺は自分の血だらけの姿に震えた。

血というかゾンビの汁で真っ赤になっている。

ラジオの情報ではゾンビ汁を浴びたぐらいでは感染しない。

目や口に汁が入っても簡単には感染しない。

やはり噛み傷など深い傷にゾンビ汁がバッチリ入らなければ感染しないのである。


それにしても何なんだ、あの父親は急に俺に弓矢を向けやがってあの野郎死ぬかと思ったし不用意に近づいたのは俺のミスだがダブルピースで人間であることは示したはずだがさっきの父親の立場になれば当然かもしれない首グラグラのおかしなゾンビが急に現れてダブルピース、上半身の皮を脱いだら中の血だらけの男がダブルピース、ゾンビの皮をかぶっていた笑顔の男なんて不審者極まる。


暗いリビングで俺はあの家族の車の中の様子を思い出した。

後部座席には男の子用のリュックとオモチャが置いてあった。

母親と娘さんの無表情も思いだした。

あの家族は最近まで4人家族だったんだろう。

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