第27話 発見
ツクモは焦っていた。マーキングを見ることができるのはツクモだけであり、誰かから情報収集することもできないのだ。
今、行方不明事件としてこの街を騒がせている神隠しだが、そのせいで街の外へ行ったり人が少ない裏道を通る人がほとんどいなくなっていた。
だから、ただでさえマーキングが着く条件は厳しいのに更にマーキングを受けている人数は少なくなってしまっているのだ。
「くそっ、どこにいる? いや、落ち着け……。マーキングは森か裏道で付く。裏道を探すか……? スラムなら銀貨を渡せば来てくれるんじゃないか……? いや、スラムの人を花畑まで連れてくるのは不可能だ……だが、どこを探せば……」
神隠しが、キャロルが居る場所に転移するにはレベル3以上のマーキングをされた人が必要だ。しかし、その肝心のマーキングされた人、鍵を見つけることができていなかった。
しかも、転移を受ける場所は裏道ではなく花畑が理想だ。だから外へと行ける人材が必要なのだが、こんな突拍子もないことを信じてくれるような人がいるとも限らない。
そもそも、マーキングされた人を見つけるまでも困難なのに、その後に花畑まで言ってくれる可能性も低いのだ。最悪、行方不明事件の犯人として訴えられる可能性さえあるだろう。
金貨程度で解決するのならいくらでも出したが、辺境という人口が多く行き来が激しい街で、何の特徴も共通点もない3人を探し出すのは至難の業だった。
「あーもう! 見つからない! ……運が悪いのか? いやでも、シキの能力が効いていないはずがないからこれで充分運がいいということかそれとも、他の者に流れているのか……?」
もしくは、キャロルが無事にまだ生きている、それだけで運が良い状態なのかもしれない。確かにそれならば納得だが、運が良い状態というものはずっとは続いてくれない。
つまり、いつかは運も消えてしまう。だから急ぐ必要があった。
こうしている間にもキャロルは死に近づいていく、そう考えると焦りやキャロルから目を話した自分に憤りが生まれ始めるがキャロルを信じることしかできない事実に歯噛みする……。
「くそっ……ここにもいないか。焦るな……。落ち着け、キャロなら大丈夫だ……。まずはマーキングを見つけ———」
「———お兄ちゃん何してるの?」
再び街を見て回ろうかと考え走ろうとしたその時、突然誰かに話しかけられた。
「へっ? え、ナナちゃん? こんなところでどうしたの?」
そこに居たのは、ツクモが今泊まっている宿にいる女の子、ナナだった。なぜナナがここにいるのだろうか。
今ツクモが居るのは宿から随分離れた、危険というわけではないが店も屋台も無いただの住宅街のような場所だ。とてもじゃないが幼女一人で来ることができる距離ではない。
「ナナはね、おさんぽだよ! お兄ちゃんは何してるの?」
「お散歩かぁ。お兄ちゃんは人探しをしてるんだ。言っても分からないと思うんだけど、ちょうどこの背中らへんにマーキング……ッ!? まじかよ……。ははっ……運が良いのか悪いのか分からないな……」
ツクモはナナの背中を指さした直後、突然目を見開いてナナを見た。それを不思議に思ったナナが問いかける。
「お兄ちゃんどうしたの?」
ツクモは焦る気持ちを抑えながらナナに問いかける。
「……ナナちゃん。最近いや、今日起きてから森か街の裏道を通ったりしたかな?」
今朝あった時にはそれなかったはずだ。だから、もしそれが付けられたとすれば今朝起きてから今までのわずか数時間の間。
「今うらみちを通ってきたよ! ほんとはお花畑とかに行きたいんだけどね、外は……危ないからダメってお姉ちゃんから言われてるの」
そうだ。ツクモが居るのは宿から随分離れた場所。幼女が一人で来ることができるような距離ではない、|裏(・)|道(・)|を(・)|通(・)|り(・)|で(・)|も(・)|し(・)|な(・)|け(・)|れ(・)|ば(・)。
ツクモに見えた、見えてしまったナナに付けられたマーキング、そのレベルは3。まさに探していた通りの条件。
これでキャロルの元へ行くために必要なものは揃った。だが、実際に行くには———。
「———ナナちゃん、ちょっとシエラさんとナナちゃんにお願いしたいことがあるから一緒にお宿に戻らない?」
そう、シエラの許可を取らなければいけないだろう。ナナなら多分訳も分からずに良いよと言ってくれるだろうし、こんな幼女を街の外へと連れ去ることなど容易い。
だが、それではただの誘拐犯だし、ナナからの好意を利用した最低な手段だ。だから、ツクモはシエラに許可を取りに行く。
「うーん、疲れたから少しやすみたーい」
ナナは一人でここまで歩いてきて疲れてしまったのだろう。多分、今も休憩する場所を探していたのだと思う。
だが、せっかく見つけることができたマーキング、取り戻す鍵。正直そんな暇は無いと言いたいところだが、ナナに無理をさせるわけにもいかない。
それならばと思い、ツクモは別の手段をとる。
「よし! 疲れたならナナちゃんを肩車してあげよう! 早く戻れるし、高くて……そう、楽しいよ!」
その提案に、案の定ナナは乗ってきた。
「ほんと? 良いの!? のせてのせて!」
「ははっ、いいよ。……それっ! 軽い軽い! せっかくだから走ってあげるね!」
言葉巧みに自分が求めることとナナがしたいことを合わせて走り出す。
街に、はやいはやい! というナナの声が街に響き渡る。本当は裏道を通りたいが、今通ってしまうと神隠しに合ってしまう。武器もない状態で、しかもシキにもシエラにも何も言わずに行くのはダメだ。
だからツクモは人目のある道をナナが楽しめるギリギリの速度で走る。はやる気持ちを抑えて、キャロルの無事を願いながら。
街は、行方不明事件のせいかおかげと言っていいのかわからないが、人通りはほとんどなく、止まることなく宿まで辿り着くことができた。
「ツクモ様! どうでしたか! 見つかりましたか!?」
宿の前にはシキがソワソワした様子でツクモを待っていた。その手にはガンツから受け取ったであろう剣が握られていた。
「うん。レベルは3、これで条件は揃ったよ」
「そうですか。それで、そのマーキングを受けたという人は……ッ!? まさか!?」
シキがツクモに肩車をされているナナを見て息を呑んだ。シキも気がついてしまったようだ。こんな時にツクモが悠長に肩車などをしているはずがない。つまり……。
「そう、そのまさかだよ。ナナちゃんにあった。被害に遭う前で運が良かったのか、目をつけられて運が悪いのか分からないね……」
「そう……ですか。では?」
「まずはシエラさんにお願いしてみよう。大丈夫、俺はキャロを信じるよ。いや、俺が信じなければいけない」
君と紡ぐ最終神話〜最強スキルでバッドエンドを書き換える〜 角ウサギ @hedge_hog
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