第26話 目障りな駄犬(エルフーン視点)

「まったく手に入らない!」


イライラとエルフーンは自室に与えられた部屋で、酒を呷った。


初めてサラヴィを見た時に、なんと美しい少女だと思った。簡単に落とせると踏んだが、すぐに邪魔が入った。ああいう大人しそうで芯の強そうな少女を好き勝手に蹂躙するのが好きだ。欲望は募るばかりだが、一向に満たせる様子はない。


娼館に通って、何人もの娼婦を抱いてみてもやはり落ち着かなった。壊すならば、彼女がいい。どうやって泣かせて、どうやって跪かせて、どうやって落としてやろうか。

考えるだけで楽しくなってくるのだから、やはりサラヴィが欲しいのだ。


だが根気強く待っても、彼女は手に入らない。


彼女に初めて会った時に、夜会で出会った少女に言われるまま行動しているというのに、時間ばかりが過ぎていく。

少女はエルフーンに囁いた。


サラヴィが公爵家の重圧に苦しんで、王太子の婚約者もやめて逃げ出したいと思っていること。またエルフーンの手をとって自分の国へ出奔したいと思っていることなどだ。


それを聞いて舞い上がって、正攻法で彼女に求婚したのだが、あっさりと断られた。王太子の婚約者なのだからと理由をつけられたが、婚約発表された彼女の誕生日では少しも嬉しそうではなかった。やはり彼女が望んでいるのは自分なのだ、と思う。

だがことごとく邪魔が入るのも事実だ。

この国の王太子であるガンレットと、特にサラヴィに付き従うあの男が邪魔だ。


なんの変哲もない茶色の髪色をした地味な男だ。

だが真近くで何度か顔を突き合わせて、彼が存外、顔の整った男だと知る。

菫色の花を思わせる蠱惑的な瞳は、魔性のようでもある。

気が付いたときに見惚れてしまったことには必死で気が付かないふりをする。


あの男は澄ました顔をして、サラヴィの隣を陣取る。当たり前に。執事なのだから当然だと世話を焼きつつ、恋人の距離感で近づく。

変態にかわりないのに、真っ当な態度をとるからますます腹立たしくなる。


だが、それももう終わりだ。

夜会で出会った少女が学園ですれ違ったときに、約束してくれた。もうすぐサラヴィが手に入ると。


手に入れたらまずは自国に連れて帰って、豪奢な檻を用意しよう。誰にも触れさせずに、自分だけが眺められる檻を。

一日中鑑賞して蹂躙してやる。

泣き叫ぶ声も嬌声に変わるほどによくしてやろう。


想像するだけで楽しくて浮き足立つ。


「ふん、駄犬が…精々吠えていろ。そして主人を奪われてから後悔するがいいさ」

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犬と呼んでください、お嬢様! マルコフ。/久川航璃 @markoh

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