煮
ぅぅぅうわぁぁおっ。
○ッ○スしたぁぁあい。
ヘイヘイヘイヘイ。急に何を言い出すんだよだって。言いたかっただけだよ。文句あんのかよ。いちいち口挟むんじゃねぇよ。好きなときに好きなこと言いたいだけだよ。
冒頭から卑猥なこと言うなよ、だって。なんだよ。だって、俺よ、俺。何か文句あんのかよ。
おいおい、俺って誰のことだよ、だって。俺は俺だよ。お前ではないよ。俺は俺でお前はお前だよ。俺はお前じゃなくて、お前は俺じゃないだろ。お前の俺は俺か? お前か? なんだよ。意味がわからないから説明しろ、だって。
俺もわからないよ。
はいどーも。ニチョケンでふ。
噛んじゃった。まだ寝起きだし、呂律がまわんねぇよ。気にすんじゃねぇよ。
サンちゃんを始末してから一週間が過ぎたよ。暇だな。うん。ひま。まーひー。
プルルルルッ。
携帯電話が鳴ってるよ。この、普通の着信音は、スズッチだ。
嫌だな。たぶん仕事だ。あーいやだいやだ。面倒くさい。でようかな。無視しようかな。どうしようかな。うん。そうだ。無視だ。
無視することに決めました。
着信音が鳴り止むと、今度は、ポロン、とメールの受信音が鳴った。
この普通の受信音も、やはり、想像の通り、スズッチだ。
「至急連絡ください。怪しい手紙が届いています。おそらくは、ニチョケンさんに恨みを持つ犯罪者からです」
西暦2507年に、手紙って。アナログだな。アナコンダ・ロングスロー。ふふふっ。ごめんね。気にしないでね。
何となく気になったから、スズッチに返信してみる。
「内容は?」
ポロン。
「内容そのまま添付します。
拝啓、ニチョケン様。初めてのお手紙で緊張して手が震えます。私はあなたの大ファンです。一度、ぜひお会いしてみたいのですが、もしよろしければ○月△日の午後6時に、四角港にある三角倉庫までお越し願えませんか。チャイナ服を着て待ってます。
つやつや黒髪のチャイナガールより」
ぅわおっ。
でたっっ。マジで。ぅおいっ。マジかよ。
○月△日って、今日じゃん。
もう俺はスズッチに返信せずに、シャワーを浴びる。それから、恋愛ものの映画を2本鑑賞して、もう1度シャワーをあびる。お気に入りのベージュのスーツに着替え、両脇のガンベルトに2丁のリボルバーを装着する。
いつもより多めに香水をふりかけて、鏡の前でポーズを決める。
それから、四角港近くにある、素敵な高級レストランの予約をした。
赤い高級車に乗り込み、四角港に向かう。
ヘイヘイヘイ、チャイナガールが俺に手紙を送ってきたってよ。
これ、ラブレターってやつじゃない?
ねぇ、これ、ラブレターってやつだよね?
俺、初めてもらうよ。ワクワクするね。
しかも。
しかも。
チャイナ服を着てるんだって。チャイナ服ってのは、深いスリットがはいった、あの、セクシーなチャイナドレスのことだろ。
シェイクヒップ。シェイクヒップ、ワォ、チャイナガール。
ふふふっ。
おいおい、ニチョケン、ちょっと待て。その手紙、おかしくねぇか? スズッチの言った通り、チャイナガールって、おかしくねぇか? なんて今思った奴、…死ね。本気死ね。ぶっ殺すぞバカヤロウ。…ごめん。言い過ぎだね。ぶっ殺さないから安心していいよ。
でも、おかしくはねぇよ。チャイナガールは俺のことがラブリーなんだよ。だからチャイナを着るんだよ。
まったく、モテる男はツラいよね。
もう、俺、困っチャイナ(ちゃうな)。
えへへ、ダジャレいっちゃった。
あれ、もしかしてすべっちゃった?
まぁいいや。
四角港の倉庫に到着した。
船で運搬する資材なんかをまとめて保管するような倉庫で、大きな建物だ。
この中にチャイナガールがいるなんて。お洒落なオープンカフェとかを指定してこないあたり、逆にお洒落だな。
俺は呼吸を調えて、家で練習した格好いいポーズをもう一度練習してから、大きな扉を開けた。ガラゴロガラゴロガラ、と大きな音がする。
「ハイ、チャイナガール。俺がニチョケンでーす」
背筋をのばし、はっきりと、よく通る声で発音した。
「いらっしゃーい」
あれ?…何だこれ?
だだっ広い倉庫内。資材も何もないので、やたらと広く感じる。
ガランとした広い倉庫内にチャイナガールの姿はなかった。チャイナじゃないガールさえいなかった。
いたのは、チンピラ風の男が、おれの真横の右と左に一人ずつ。斜め前にも、右と左に一人ずつ。
俺の正面に背の小さなスーツの中年男性が一人。オールバックの髪型とぷっくりとでたお腹が目立つ。
その後ろには…えっ? チャイナ?
チャイナはチャイナでも、男物のチャイナ服を着た男が一人。三つ編みに束ねた黒い髪。口許を丁寧に整えられたヒゲが囲む。
しかし、…こいつはかなり個性的だな。
…もしかして、こいつがチャイナガール?
いやいや、それはないでしょう。だってもう、チャイナガールじゃなくてチャイナマンじゃん。
俺は気をとりなおして正面のスーツの男に聞いてみる。
「チャイナガールはどこにいるんですか?」
「すいまっしぇーん。いましぇーん」
顔に似合わず、かわいい喋りかたをするスーツの男。
「えっ?…いや、もしかしてあの人?」
俺はチャイナ服を着た男を指さした。
「すいまっしぇーん。ちがいまぁーす。実は、罠で~す」
「えっ?罠?」
「はぁい。罠で~す」
そう言った後にスーツの男は、コホンコホンと咳をした。声の調子を整えているみたいだ。
「おまえがこの前殺した三田国男はな、俺の弟なんだよ」
うわっ、声低っ。こわっ。ちょー怖い。いきなりドスの効いた声に変わっちゃったよ。
ん?三田国男?…あっ、サンちゃんか(知らない人は前の話を読んでね)。
どうやらスーツの男は、サンちゃんの兄らしい。あんまり似てないね。
「で、サンちゃんがどうしたの?」
「敵討ちだよ」
なるほどね。
「…じゃぁチャイナガールは?」
「いねぇよ」
「…」
なるほどね。罠だね。でも、チャイナの男がチャイナガールじゃなくて良かったよ。
俺を囲んでいたチンピラ風の男たちが、全員俺に銃をむけてきた。
なるほどね。
チャイナガールとの縁が切れちゃったよ。
そして…俺の堪忍袋の緒もキレちゃったよ。
俺は両脇のガンベルトに装備した2丁のリボルバーを素早く抜いた。
俺は拳銃を2丁装備しているが、2丁同時
にはめったに使わない。
だが今回は敵も多いので2丁同時に使うことにした。
拳銃を俺の真横にいる二人にむかって構える。右と左。照準が合ったことを確認する。
パン。
2丁同時に撃ったので銃声は1つだ。
すぐさま俺は銃口を斜め前の二人にむける。右と左。
パン。
チンピラ四人が引き金を弾く暇もない。一瞬で四人を始末した。
さて、後二人。サンちゃん兄とチャイナ。
俺を騙した罪は重いからね。
ヒュン。
ん、なんだ今の音は?
うぉっ、危ねぇ。
俺の顔にむかって何かが飛んできた。間一髪で何とかよける。俺の頬に赤い線ができた。
俺の後ろにあるドアに刺さった物を見ると、…それは包丁だった。
えっ?包丁?…なぜ包丁?
包丁が飛んできた方向に目をやった。チャイナの男が笑っている。
「この人はな、お前を殺すために雇った中国の殺し屋。ホウ・チョウさんだ」
サンちゃん兄が言った。
ホウ・チョウさん…なるほどね。だから包丁が武器なんだね。
「お前を殺すアル」
ホウ・チョウさん、…もうチョウさんでいいか。
チョウさん…語尾にアルってつけるんだね。ちょっとキャラ作りすぎだよ。
チョウさんは、どこに隠してあるのかわからないが、かなりの数の包丁を持ってるみたいだ。部屋の中を包丁が乱れ飛ぶ。
ヒュン。
ヒュン。
ヒュン。
体を反らしたり、横に跳んだりしてよける俺。
チョウさんはかなり手強い。正確に急所を狙ってくる。
俺はよけるので精一杯だ。さすが殺し屋。強敵だ。
この広い部屋の中には、何もない。攻撃を防ぐ物もないし、死角となる隠れる場所もない。とにかく、よけるしかない。
しかし俺、よけすぎて疲れてきちゃった。チョウさん、包丁持ちすぎなんだよね。
…もう、俺、困っチャイナ(ちゃうな)。
えへへ、またダジャレいっちゃった。
…あれ…もしかして俺、くどい?
…俺、死んだほうがいい?
ねぇ。死んじゃったほうがいい?…まぁ死なないけどね。
あらっ、…話がそれちゃった。
「よけすぎアルよ。早く刺さって死ぬアル」
チョウさんが言った。
ヒュン。
まだ飽きたらずに包丁を投げてくるチョウさん。
俺は横っ跳びでよける。
ヒュン。
あっ、やべ。
横っ跳びして着地する場所に包丁が飛んできた。まずいな、よけられない。
ドス。
パン。
パン。
俺の撃った2つの銃弾のうち、1つはサンちゃん兄の眉間に、もう1つはチョウさんの右足にヒットした。ちなみに、もちろん俺は無傷だ。
えっ?何でいきなりそうなるんだって?
ヤイヤイ、今から説明してやるよ。急かすんじゃねぇっつーの。
よけた先に包丁を投げたチョウさん。さすが殺し屋。センスがいい。
よけることが出来ないとわかった俺は、左手に持っていた銃を、素早くガンベルトに戻す。
空いた左手で、さっき始末したチンピラの体を起こして盾にする。
ドス。
チンピラに包丁が刺さる。
俺は右手に持っていた拳銃で、スーツの男とチョウさんにむかって撃つ。
パン。
パン。
で、今に至るってわけだ。
なんだよ、そのオチ?なんて今思った奴、…俺をバカにしないでね。俺、本当にすごいんだよ。
さて、サンちゃん兄は始末したが、チョウさんはまだ致命傷になってない。
「はい、そのまま」
俺はそう言って、銃口をチョウさんにむけたまま、ゆっくりとチョウさんに近寄っていった。
俺が銃口をむけているので、チョウさんは何もできない。
チョウさんとの距離が0になる。俺は銃口をチョウさんの眉間に突きつけた。
「すいません。おとなしく中国に帰るので、見逃してください」
チョウさんが命ごいをした。
ん?おかしい。
「チョウさん、語尾にアルってつけてなかったっけ?」
『やっちゃった』って顔をするチョウさん。
「助けてくれアル」
言い直すチョウさん。
ああ、この人…日本人だよ。絶対そうだよ。チャイナ着て、アルアル語喋ってるけど、絶対日本人だよ。だってさっきの喋り、普通だもん。
「チョウさんて、日本人でしょ?」
「なっ。そんな事ないアル。中国人アルよ」
チョウさんの顔が真っ赤に染まる。明らかに焦っているのがわかる。
…チョウさん、日本人決定だね。
でも、かわいそうだからこれ以上つっこまないようにしてあげるね。
「始末する前にいつもクイズをやるんだけど、チョウさんもやってみる?正解すると見逃してあげるよ」
「や、やります。やらして下さい」
必至で喋るチョウさん。
「チョウさん、アルアル語は?」
「やるアルよ」
言い直すチョウさん。
ははっ。これはおもしろい。
俺が笑った瞬間だった。
チョウさんは右手を後ろにやる。後ろから戻った右手に持っていたのは包丁だった。
たぶん、チョウさんは殺し屋じゃなくて、手品師になったほうがいいんじゃないかな。
チョウさんは俺の顔を横一文字に切り裂こうと振り抜く。
体を後ろに反らして避ける俺。避けるのと同時に、怪我をしているチョウさんの右足を蹴った。
「うぐっ」
うずくまるチョウさん。俺はチョウさんの右手を蹴りあげる。
カランと音をたてて床に転がる包丁。
『本気でミスっちゃった』って顔のチョウさん。
「では質問です。俺の好みの女性はどんなタイプでしょう?正解すると見逃してあげるよ」
チョウさんは下をむいて、ブツブツ小声で喋りだす。必至で考えるチョウさん。
…チョウさん、考えすぎだね。俺、待ちくたびれちゃったよ。
「チッチッチッチッ…」
時計の秒針の真似をしてチョウさんを急かす。
「チャイナガールっ」
叫ぶようにして、チョウさんが答えた。
「ブッブー。残念」
がっくりと肩を落とすチョウさん。
「ちなみに正解は、チャイナ服を着たキューティガールです」
正解を聞いて首をひねるチョウさん。
「正解と俺の答え、あんま変わんないじゃん」
「全然ちがうじゃん。それにチョウさん、アルアル語は?」
「変わらないアルよ」
言い直すチョウさん。
「正解とチョウさんの答え、全然ちがうじゃん。チョウさんは、チャイナガールとチャイナ服を着たキューティガール、どっちがいい?」
「…チャイナ服を着たキューティガール」
「でしょ。やっぱりちがうじゃん」
がっくりと肩を落とすチョウさん。
「でも、チョウさん惜しかったから、特別に見逃してあげるよ」
「マジッすか?」
喜ぶチョウさん。
「チョウさん、アルアル語は?」
「マジアルか?」
言い直すチョウさん。
「ごめん。ウソアルよ」アルアル語を話す俺。
「えっ?」
パン。
はい。終了です。
早く帰って、今日は餃子と白ワインで晩酌だね。
ではこれにて、一見落着アル。
ニチョケン 気分上々 @igarashi1031
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