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こじんまりしたビルの横には風にはためくマイクの絵の書いてある原色に近い旗。
少し濡れて、面倒臭そうに斜めに伸びるそれの色は目に痛い赤。
それと同じように面倒臭そうにカウンターの中で欠伸をする若いお兄さんもまた、やはり目に痛い赤の安っぽい制服を着ている。
「しゃいませ、何名ですか?」
いらっしゃいませ、何名様で御座いますか?
「2人」
2人です。部屋の空きはありますか?
「ご希望の機種はありますかー?」
ご希望の機種はございますか?
「何かある?」
君は機種の希望がある?
ああ、聞かれているのね。
「ん?ごめん、特に御座いません」
二人の話す日本語を、脳内で訂正するという遊びをしていた私の声は上ずる。
「へ?ああなんでもいいの?」
「うん、喫煙室ならなんでも」
「喫煙室、なんでもいい」
「はい、じゃあ..223号室。二階です。ワンドリンクオーダーなんですが何にしますか?」
ワンドリンクで収まるかしら?
「お伺いしたいのですけど、飲み放題はありますか?」
「ありますよ。」
「じゃあ、1人それにして下さいますか?」
「1人って出来なくて、2人ともそれでいいですか?」
「ええ、構いません。よろしくお願いします。最初は生ビールを一つ、あなたはどうする?」
「俺はカルピスで」
「分かりました、あとで部屋に持っていきます」
「ええ、よろしくお願いしますね」
矢印を追いかけると、少し急な階段。
手摺りを掴み、一歩一歩と踏みしめる。
「呑むの?」
「うん、あまり良くなかった?」
「いや、好きにしたら?」
好きにした結果はもう出ているのよ。
「うん、そうする」
上りきり最初に見えた扉の上に223と、金に輝く文字で表記してある。
コの字に並ぶ真っ赤な、皮の端がボロボロになったソファー。10数人が入れる程の広さがある。
彼は早々に端っこに、どんと腰をかけ、早くもデンモクを操作している。
コの字の反対側の端に座り、タバコに火をつける。
ため息は薄く紫の煙で誤魔化した。
ペンギンは誰にも見つけられない 最中 空 @this-isa-sin
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