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情けないくらいの猫背と、同じくらい下がった眉毛。
足を動かすのが億劫になりショーウィンドウの中、凛と澄ました顔でキラキラと輝く宝石と目を合わす。
そう言えば数日前に迎えた誕生日に対する、お祝いの一言も無かった。
やはり、想いの終わりは様々な所に散りばめられていて、拾い集める度にその密度は濃厚になるものである。
3つに連なった銀のダイヤのネックレス。
こんな物が欲しいと言っているのではない。
ただ、気にかけてもらえたという事実が心を踊らすのだ。
今更、踊るのかは甚だ疑問ではあるが。
スマートフォンが震える。
「もしもし?」
「あ、ごめんね。ちょっと気になるものがあって見入ってたの」
「は?どこにいんの?」
「うーん..逆にどこにいる?私がそちらへ行くよ」
「まっすぐ来て、本屋あるから。そこで時間潰してる」
「うん、分かった。ごめんね」
人混みを歩くのに必要な才能という物はきっとあると思う。
何度も人にぶつかり、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。売っているのだとしたら、その才能をおひとつくださいな。
頭の上から降る舌打ちに心折れない強さもセットで!
本屋までたどり着いて、息をつく。
悲しく思ったのは、その本屋は1kmは歩いた所にあったという事実。
立ち止まる事をせずに前だけ向いて歩くと言えば聞こえはいいが、こんなに離れるまで私の存在に気づかなかったのね。
書店に入るとインクの香り、やっと頬がほころぶ。
黄色のカーディガンを探さなきゃ。
彼なら何を読むだろうか。
小説は、読まないでしょうね。実用書も、ない。
漫画コーナーか、雑誌コーナー...あら、大当たり。
「ごめんね、お待たせ」
「ああ」
「何か面白いものあったの?」
「いや、別に。行く?」
「うん」
雑誌を投げ返す彼の何処が良いのか。
本であると言うそれだけで、それは大切にすべきものなのだ。例えどんなものでも。
痛かったね、ごめんねと、表紙を撫でてもとあった場所に戻す。
そしてまた、揺れる上着の裾を綺麗だなぁなどとのんびり考えながら彼の背中を追うのだ。
私には早すぎる速度で。
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