2 舞い散るさくらの違和感

聳え立つ、ビルを見上げ圧倒される。

都会に住みたいという人々の願望は余りに愚かであると言わざる得ない。

圧迫感と、閉塞感。

同じ表情で、駆け足に先を急ぐサラリーマンのさぞつまらなそうな事。

待ち合わせの15分前、喫煙所で人間を観察しながらコンパクトの鏡に自分を映し、頷く。


久しぶりに会う、遠距離恋愛中の彼氏とのマチアワセ。

友達に話すと鼻に付くので言えやしないが、熱烈に好意を寄せてくれて仔犬のようにキャンキャンと、突き放しても寄り添って来た少し年下の男の子。

関係は時間を経て今では変わり果て、重苦しい沈黙と、私の方に少し残っている寂しさが繋ぎ止めている恋人と言う名の契約。

彼はどのように感じているのか、考える事が恐ろしく、誰よりも当たり障りのない言葉を選び投げかける。

そんな時間が訪れるのかと思うと気持ちはズンと沈む。


駅前の銅像。

約束の五分前に、その彼は少しこうべを垂れてスマートフォンに目を落としている。

第一声はどうしようか、


「久しぶりだねー」

声は震えては居ないだろうか、自然だろうか?

何度か練習をしてから口から吐き出せば良かった。

「うん、元気?」

「お陰様で元気元気!さあ、今日はどうする?」

「カラオケでも行く?」

「うん、じゃあそうしよっか」


雑多に混み合う人の中に消える背中。

走ってその腕にしがみ付く事すら出来ない自分の姿がショーウィンドウに映る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る