.

醒める高揚感、そして広がるのは小さく何も無い私の部屋。

いつしか物を持つことが、とても恐ろしいことに思えて、必要最低限のものしか部屋に置かなくなった。

また、ここにある物も自ら気に入って手に入れた物は数える程もない。

借り物のようで、その事に安心感を覚えるのだ。


いつの頃からだろう。

物に執着が出来なくなったのだ。

次には人に、そして自分に。

捻くれた自尊心だと言うことは存分過ぎるほど感じている。

それでも、そうある事しか出来ぬのだ。


私には致命的な欠点がある。

心臓が人より弱い。

それはいつ爆発するのか分からない時限爆弾のように、ずっと私を脅かして来た。

人格を形成する上で幼少期の経験が、最も大切であるとするのならば、私の核になる部分は病人である。という事で誇大した何かに満たされているのだろう。

いつ、死するか分からぬという、誰でも普遍的に持つ感覚が誰よりも鋭利である。


それを後ろ向きだと指摘される事も多い、ならば毎日を楽しく生きなければと。

子供のような反論を心の中でする。

ならば成り代わってみなさいよ。

口から出るのは、そうだね。という肯定とも否定ともつかぬ吐息のような物なのに。


そんな煩わしい日々の一ページがまた書き足されると思うと、憂鬱な気持ちになるのだ。

今作り上げた環境に、私の身体的な特徴を知る人はいない。何度目かのリセットの末、流される形ではあるが安息の場を手に入れた。

有難い話だ、うまく振る舞えるのであれば私は、人と何も変わらぬ平凡なOLという事になる。


シャワーを浴び、コーヒーを啜りながら髪を整える。紅を引くと、途端にスイッチが入る。


さあさあ、演じてお見せしましょう。

朗らかで飄々と、人当たりのいい(どうでも)いい人を。

毎朝の口上がやけに不愉快で眉を歪めながら、日常に溶け込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る