来た。
熱い。痛い。
鈍い痛みが、頭をゆっくりと取り囲んで離さない。皮膚を流れる液体が、私の現状を残酷に告げる。
死ぬのだろうか?
目が開かない。いや、開いているけど見えない。一面が真っ黒。その盲目が、私に現実を理解せずにいさせてくれた。
ずきずきと鋭い痛みが遅れてやって来た。人はショック死しかねないほどの痛みは小分けにすると言うが、これがそうなのだろうか?胸に詰められないほどの恐怖を詰め込んだから、呼吸ができない。吸いたい。吸えない。
「痛ったぁ~!」
次いで、口から声が出た。視界にも光が射し、まばらな光はだんだんと像を結んだ。なんとか呼吸が繋がって、細胞に巡り出す。
「……私、生きてる……」
血で真っ赤になった手を見るも、それは自由に動かせる。痛いから、もう死んだということもないと思う。現実の薄れたようなくらくら感が、じょじょに抜けてきた。
「……ああ、内側に落ちたのか……」
手からピントをそらすと、未だ私の靴が刺さったフェンスが見えた。登る時に引っ掛かって脱げたものの、気がつかずか気にせずか登っていったのだろうか……
「うっ」
手を延ばして取ろうとするも、痛みで手が震える。結果的に助かったはいいけれど、そこそこ深刻な怪我を負ってしまったみたいだ。血は乾く間もなく流れ出て、新しく屋上を染める。ああ、今日ほど落ちる日は、そうない。掛け値なしに最悪だ。
そういえば、私はどれくらい寝ていた、いや、気を失っていたのだろうか。何年も、だった気もするが……
仰ぐと、丁度真上の日。大体正午である。
確か、まだ全然な時間だったよな。
「う……」
体に酸素が行き渡り、正常が取り入れられた分だけ、また気分が悪くなる。痛い。苦しい。それだけ血を流したのだろうか、いや、違う。そんなのは後でいい。とにかく、止血だ。何かで抑えないと。
不意に、頭に布が押し当てられた。
「静、先生?大丈夫……?」
背後から声がする。か細く、心配と困惑が練り込まれている声。愛しい、声。あれ、まさか、
「ゆか、ちゃん……?」
自分でも驚くほどに小さな呟きに、血の気が足りない頭が追い付き始めた。
そして、振り向いた。
半泣きで、涙の後もそのままに、友香子が、屋上の入り口を背景に、そこにいた。
腕に引っ掻き傷が深く刻まれている以外は、まるでそのままの、友香子。
「先生……先生も、こっちに、……」
会いたかった。良かった。側に居たかった。抱きしめた。涙が出てきた。
電話では、か細すぎてつらかった。
「よ、良かっ……た、無事で……」
ああ、呂律が回らない。でも、何でもいい。また会えた。
「良く……ないよ……先生……」
その先は考えたくない。
「先生……先生まで、こっちの、世界に……」
声が涙に染まっていく。
「……良いのよ。良かった、のよ。」
「せんせぇ……会いたかった……」
そこで、屋上に金切り声が轟いた。
ずれた隙間に巣食うは闇 双葉使用 @FutabaUSE
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