第三章……ゲームでは中途半端な戦闘要素でも、現実となると恐怖は感じる
第12話 攻略キャラクターの援護射撃は面倒だ
カナリアは眩暈を起こしそうになった。その原因は目の前にいる彼女にある。
白雪のような白肌に整った容姿、映えるボブカットに切り揃えられた金髪。くりっとした水色の瞳を向けてくる女子生徒、この乙女ゲームの主人公であるフィオナだ。
彼女の傍にはクーロウがいる、それはいつものことだ。さらに面倒なのが、ルーカスとリオがいるからである。
この大所帯で中庭のテラスで昼食をとっているのだ。目立つ、それ以上に面倒くさい。あぁ、今日も花々が綺麗だなとか、中庭を眺めてカナリアは現実逃避したくなった。
「あのですね、カナリア様。この前は本当に申し訳ありませんでした」
「気にしていないといったでしょう」
そう答えるも、彼女は謝らなければ気が済まないらしい。これは面倒だなと思いつつ、謝罪を受け取ることにした。
「それですね、あの……」
「何かしら?」
「私をカナリア様のお供にしてください!」
どうして、そうなる。カナリアはまた眩暈に襲われた。お詫びに自分を使ってくれということなのか、そんなものは必要ない。
カナリアが丁寧に断るとフィオナはへこんだように俯いてしまった。それを見たルーカスの表情が変わる。
「なんだ、せっかくのフィオナからの申し出を断るのか」
「お供という言い方は悪いかもしれないが、友達にならどうだ? カナリア」
ルーカスとリオの援護射撃というのは厄介で、周囲はひそひそを何か話しているのが聞こえた。そりゃ噂にもなりますよねとカナリアは思った。
(あぁ、面倒くさい)
本当に面倒くさい、カナリアは心底思った。リオもフィオナの様子を気にしている様子だ。二人が彼女を好きなのはわかった、嫌と言うほどに。
表情に出さないないように気を付けながら答える。
「気にしすぎなのよ、フィオナさんは。アナタは何もしていないじゃない。したのはミーレイと、裏取りしなかったルーカス様でしょう」
カナリアの棘のある言葉にルーカスは黙る。確かに裏取りもせず、公開処刑を行ったのは自身であった。
それに気づいてか、フィオナがあっと声を上げる。
「ルーカス様、カナリア様に謝っていませんよね!」
「それは……」
「ワタクシは謝罪を受けていませんわね」
カナリアが言えば、彼女は怒った表情を見せた。貴方も悪いはずですよとルーカスを叱る。
フィオナに怒られて彼は眉を下げていた。なんと面白い光景だろうか。あの我儘王子が女子に叱られ、へこんでいるのだから。笑いそうになるのを堪えながらその様子を眺める。
叱られたからなのか、ルーカスは仕方ないといったふうにカナリアに向き合った。
「カナリア嬢、先日は申し訳ないことをした」
「いいのですよ。噂を耳にすれば誰だって疑うでしょう。けれど、気を付けてください。一つの間違いで一人の人生は終わり、またアナタ様の信用も無くすかもしれないのです」
ゆっくりと諭すように答えるカナリアにルーカスは何も言うことができない。あの出来事によって自身の信用というのが落ちたのは目に見えていた。
よく調べもせずにと陰で言われているのも知っている。そして、ノアの評価が上がったことも。
それにルーカスは学園長からきつく注意を受けていた。正義感で犯人を暴こうとしたのだろうけれど、君のしたことは下手をすれば一人の人間の人生を潰しかねなかったのだと。学園長は厳しく叱り、彼は三日ほど謹慎処分となった。その後は反省文を書かされて今は経過観察中だ。
そんなこともあり、カナリアはもう何とも思っていないようではあるが、ルーカスの中では嫌なものとして残っていた。
「オレも……」
「リオ様は何もしていないでしょう。というか、もうこの話題は終わりにしてほしいのだけれど」
いい思い出のない出来事の話をずっとされて気分がいいものではない。もう気にしていないことであっても、蒸し返されれば嫌な気持ちにもなる。
カナリアは表情にそれを出せばリオがすまないと謝罪した。
フィオナも理解したのか、俯きながら謝っている。もうこれ以上の謝罪はいらないのだけれどと思いながら返事をかえす。
腕にひっついて離れないシャーロットには落ち着きなさいと頭を撫でてやった。
「話はそれで終わりなのかしら? ならワタクシは……」
「あ、あの、なら!」
カナリアが話を終わらせようとすると、フィオナはぐいっと身体を前のめりにさせる。なんだ、そのころころ変わる態度は。
目を輝かせながら彼女は見つめている。何となくだが、嫌な予感がし、身体を引かせた。
「お供とかではなく、私と友達になってください!」
思わず嫌だと口に出そうになった。フィオナの提案にカナリアは驚いたというよりはやめてくれという感情のほうが勝った。
乙女ゲームの主人公に関わるなど、ろくなことに巻き込まれかねない。そんな分かりきったことにわざわざ首を突っ込むほど馬鹿ではない。自由に生きたいのだ、自身は。
そうはっきり言えたならいいのだが、そうもいかない。何せ、ルーカスとリオがいるのだ。そんなことを言えば反感を買いかねない、それは避けたかった。
こう考えると自身は性格が悪いなと思わなくもない、全てが自分のことしか考えていないのだから。自分勝手の我儘王子であるルーカスと、あまり変わらないのではないだろうか。
「ワタクシ、性格悪いのよ」
カナリアの突然の告白にフィオナは首を傾げる。どうしてそんな言葉が出てきたのか、理解できないようだ。
「シャーロットは幼少からそれを痛いほど見てきたから知っているの。そうでしょう?」
「えっ! あ、まぁその……。で、でもカナリア様のこと嫌いになりませんよ!」
シャーロットは知っている、カナリアの性格の悪さを。気に入らないからと我儘を言って召使いを首にしたり、いじめをしてはいないものの、自身の思うようにいかないと露骨に不機嫌になったりとやりたい放題であった。
今は大人しくなったほうで、この学園に入ってからはそんな素振りもみせてはいなかった。それはカナリアが前世の記憶を取り戻したからなのだが、シャーロットはそれを知らない。
「今だって面倒くさいとか思っていたりするの。だって、目立つし噂されるでしょう」
「そ、その……」
「あぁ、謝らないで面倒くさいから。こういう性格ですからね、シャーロットぐらいなのよ。アナタはワタクシの性格の悪さについてこれるかしら?」
面倒くさいとつい、口に出してしまったが本当のことなので仕方ない。
フィオナの様子を見るに考えている様子ではある。いや、やめておきなさいと言いたい。自分で言うのもあれだが、性格悪いし良い噂もない悪役令嬢の女だ。今だって、関わりたくないし面倒だからさっさと終わらせたいと思っている。
ふと、時計を見れば昼休憩後半。そこで思い出す、あぁノア様と約束していたなと。本当ならば彼と昼食をとる予定だった。
けれど、ノアが用事が入ったとかで取りやめになったのである。ただ、昼休憩後半にはそれも終わるので、話をしようじゃないかとそういう約束をしていたのだ。
このままでは遅れてしまうと思ったカナリアは立ち上がった。
「ワタクシ、この後はノア様と約束があるの。そろそろ行きますわね」
「あっ!」
カナリアはシャーロットを連れて席を離れる。フィオナが追いかけようと立ち上がるも、手をひらひらと振られてしまった。
一片の隙も無く、カナリアは行ってしまった。彼女が歩いて行った方向を眺めながらフィオナへこんだように肩を落とす。
「なんだ、あの令嬢は。本当に性格が悪いな」
カナリアの言動にルーカスは不満げに声を上げる。そんな彼にリオは「まぁ彼女は昔からあんな性格だから」と、フォローになっていない言葉をかけた。
リオも彼女の性格というのを知っている。自身の許嫁候補に名が上がったぐらいには家との繋がりがあるのだ。彼女の態度や言葉にはいつも変わらないなと思った。
「リオ、お前はあぁだと知っていたのか?」
「まぁ、父がカナリアの両親と仲がいいからな」
「あんな令嬢がフィオナの友人にふさわしいと思うのか?」
「どうだろうか……。性格に難があるにはあるが、友人にするのは構わないんじゃないか?」
彼女がフィオナに被害を加えたわけではない。性格に難はあるが、常識もあるし、自分たちが傍にいても彼女は怯むことをしない。フィオナがルーカスと親しいと知っていながらも、態度をかえることなく接してくれる。
リオが「そんな彼女ならフィオナと友人になれるのではないだろうか」と言えば、ルーカスは口を尖らせた。彼の言い分も分からなくはなかったのだ。
自身が傍にいるせいでフィオナが避けられているのは知っている。余計な男を近寄らせなくていいと思っていたが、女子の友人すらフィオナにはいないのだ。それは流石に可哀そうである。
「私、ダメなのかなぁ……」
「そんなことはない。でも、彼女の気持ちも考えてみないといけないのではないか?」
クーロウに言われ、フィオナは考える。確かに迷惑をかけてしまったと思わなくもない。でも、彼女となら友達になれるのではと思った。
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