第12話 君の光になる。
1
始発電車が走り始めるころ、二人はホテルを後にした。安倍のと繋がっていた場所に少し違和感を覚えたが、辛くはなかった。
「雨、止みましたね」
昼間とは違い、透き通るような空気の匂いがした。バイクの音があちらこちらと走り回っている。
「ええ、東の空が少し明るくなってきましたよ。今日は晴れですよ」
「こんなに朝早くお散歩するなんて気持ちいいですね」
夕子は大きく息を吸い込んだ。
二人の間に沈黙が続いた。
「あの……」
「はい……?」
「僕と一緒になってもらえませんか?」
真っ直ぐな安倍の声だった。
「嬉しい……。でも、私は目が……」
結婚は諦めなければ、と誰から言われた訳ではなく夕子自身、子ども頃からそう思っていた。
「言ったじゃないですか、僕が立花さん……君の光になりますから……」
安倍の真っ直ぐな声が夕子の心を動かした。
2
それから半年後、夕子と安倍はいつもの駅の近くにあるチャペルにいた。
「ほら、オーナー、夕子さんのネイルとてもキレイでしょ?」
石鹸の匂いがして、ふう、と指先に息を感じた。
「夕子、このドレス、似合うわよ。私のお下がりだけどね」
夕子の母親の笑う声が聞こえた。
「ほら、神父さんが来る前に記念写真撮ってよ」と言いながらトニックシャンプーの匂いが手を取られた。
「みんな!ハイ、チーズ……」
夕子の大きな声がチャペルで響いた。
完
君の光になる ちひろ @chihiro196407
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