第11話 ひとつに

1

 

  夕子は安倍に促され、ベッドサイドに腰掛けた。固いクッションが夕子の腰を受け止める。

「あの……どんな感じですか。ホテルの中って……」

「えっと、シンプルですが、かなり広いワンルームという感じです。ここのベッドから見て十二時の方向の右手には革張りのソファーのある応接セットと大型の液晶テレビがあります。九時の方向にガラス張りのバスルームがあって……この部屋の天井は鏡張りになっています……」

 九時や三時とは方角を時計に見立てた表現だ。夕子は頭に部屋を思い描いた。

「鏡の天井とガラスのお風呂……ですか?」

 夕子が天井を仰いだ。手のひらが自分の頬を包む。

 安倍がベッド腰を降ろした。固いクッションのバネがフワリと揺れる。

 耳を澄ませる。音は安倍と夕子が呼吸する音、エアコンのモータの音、そして安倍の方から聞こえる手足を動かした時の衣擦れの音だ。

「安倍さん、少し寒いです……」

「大丈夫ですか。少し濡れてしまったので……」

 安倍の手が夕子の手を包む。安倍の肌の温もりが手のひらに広がった。その手のひらが包み込んだ夕子の手を柔らかく擦る。

「あ……」

 背をスッと引かれ、安倍の筋肉質の胸に抱き留められた。苦しいくらいに鼓動が速くなる。夕子は安倍の胸に耳を寄せた。

 ゴゴゴーゴーと、安倍の力強い拍動が聞こえる。

「聞こえますよ。安倍さんの心臓の音……」

 安倍の腕が強く夕子を引き寄せる。

 

2

 

「立花さん……」

「ハイ……」

 

 ――きゃっ……。

 

 前髪がフワリと上がる。額に安倍の柔らかい唇が落ちた。首をすくめ、安倍の唇を待つように見上げる。唇が柔らかい安倍の唇に包まれ、唇の先が啄まれる。身体中に鳥肌が立ったのではないかと思うくらいにゾクリと震えた。身体の奥から何かが溢れ出すのが分かる。全身の神経が剥き出しになったようだった。

「幸せです。安倍さん……。私……」

 

 チュ……。

 

 目蓋に安倍の唇を感じ、すぐに夕子の唇を啄み始める。口腔に潜り込んだネットリとしたものが夕子の舌に絡みついた。夕子もそれに答える。身体から力が抜けた。

「ああ……」

 ベッドの固いクッションが揺れた。カサカサという布と布が擦れる音が聞こえる。胸の膨らみがフワリと包み込まれる。こそばゆさがそこに広がった。いつだったか、湯船の中で触れた自分の手のひらの感触には無かった感じが胸に広がる。

「いやんっ……」

 

 ――変な声がでちゃった。

 

 ショーツに染み込んだ水がゆっくりと広がるのが分かる。それが気になって腰をよじった。生理の血液が広がるようだ。

「安倍さんの身体も……」

 安倍の顔を手のひらで確かめる。少し前まで重なっていたその唇は粘りがまとわりついている。夕子は指先で自分の唇をなぞる。

 

 ――ネットリとした安倍さんの唾液……。

 

 夕子のその手は筋肉質の安倍の腕から胸へと滑る。

 

3


「僕に背中を向けてください……」

 安倍が夕子の背に手を当てた。

「あ、ハイ……」

 言われた通りに、夕子は安倍に身体を向ける。背中にトニックシャンプーの匂いが近づく。自分の心臓の鼓動が聞こえるようだ。

 ブラウスの上に羽織ったカーディガンがふっと浮き上がる。

 

 ――えっ……?

 

 カーディガンはスッと夕子の腕から抜けた。エアコンの空気が近くなったようで肌寒い。夕子は次に起こることを予感した。

「シャワーにしましょう。立花さん……?」

「……ハイ」

 夕子の背後でカチャカチャと小さな鉄が当たる音がしたあと、チイっというジッパーを下ろすような音が聞こえる。スッという布が擦れる音だ。

 夕子も自分のブラウスのボタンを外し始める。胸の辺りがはだけ始めるのが分かる。まだ、シャツとブラジャーが夕子の身体を隠しているはずだが、安倍の視線が気になった。

「あの……安倍さん?」

「……ハイ……」

「今、私、見ていますか?」

「ええ、立花さんの後ろで……」

 夕子の背中に安倍の手のひらを感じた。身体の力がスッと抜けた。

「……恥ずかしい。安倍さん、目を閉じていてくださいね」

 ふっと、吹き出すような安倍の息づかいが聞こえた。夕子はスカートのホックを外した。

「ハイ……分かりました」

「安倍さん、笑いましたね。今、ふっと……」

「……いえ……可愛らしい、と思いまして……」

「恥ずかしいです。そんなこと言われると……」

 カサカサという安倍の衣が擦れる音が止んだ。

 

 ちゅっ……。

 

「……あっ、きゃっ……」

 

 初めての感覚だった。項にある生え際の髪がゆらゆらとなびいてむず痒かった。唇の柔らかい感触が項にあった。それは生え際に沿うように左右に動く。

 夕子は両腕で自分の胸の膨らみを覆い隠し、身体を捩りながらむず痒さから逃げる。

 安倍の唇が夕子の背骨を数えるかのように夕子の背筋を這い降りた。

「言ったのに……。見ないで、って……」

 身体の奥から溢れ出した熱いものが覆うものがなくなった内腿をゆっくりと滑るのが分かる。両方の太腿を擦り寄せた。

「白くて柔らかそうなお餅みたいな肌です」

「ああ……安倍さん……変じゃありませんか。私の身体……」

 安倍の唇が脇腹を滑る。

「変じゃありません。白い肌がピンク色に染まって、とても色っぽいです」

 ゾクリとむず痒さが背筋を駆け上る。安倍の頭を抑える。夕子は身体を捩った。

 ベッドのクッションがふっと揺れた。

 

 ――やっ……。

 

 胸を覆う両方の腕を降ろされる。胸にエアコンの空気を感じた。

「安倍さん……?」

「白くて丸い胸です。先っぽは薄いベイジュで……」

「ああ、言わなくてもいいです。きゃん……」

 ちゅ、という音が胸から聞こえる。右の胸の膨らみがふるんと揺れた。ペタリと生温いものがそこに張り付く。その先端が啄まれる痛気持ちいい感触が広がる。

 

 下腹の奥が熱くなった。

 

「ああ、安倍さん……シャワーしましょ?」

 安倍に促され、夕子はベッドに横たえられた。

 下腹に安倍の手のひらが這う。フワリとした柔らかい若草のある場所を安倍の手が滑る。

 夕子は腿を固く閉じたが、安倍の手のひらは夕子の内腿に潜り込んだ。

 両足の間に安倍の手のひらが貼り付く。熱いものがねっとりと広がるのが分かる。身体が強張った。

「あっ……、そこは、私……んんっ」

 安倍の指が夕子の柔らかな窪みを押す。その指は夕子の後ろに伸び、再び前に滑る。その度に、クチっという粘り気のある音が混じった。その指が何度も夕子のそこを滑る。まるで楽器を奏でるかのように……。

 

4


「ああ……安倍さん……んっ……」

 安倍の唇が夕子の頬に短く落ちた後、それは彼女の唇に重なった。その唇は夕子の喉、鎖骨、脇腹へと滑り、やがて下腹にキスが落ちた。再び、安倍の舌が喉、鎖骨……へと滑る。色を塗り替えるようにゆっくりじっくりと……。

 安倍の指が夕子の柔らかな窪みを叩くように押す。クチっという貼り付くような粘り気のある音が徐々に大きくなる。自動的に腰が捩れる。生温い唾液の跡に体温が奪われてゆくのが分かる。

「立花さん……」

 再び安倍の唇が夕子の唇に重なる。舌先が夕子の口腔で踊る。夕子の舌先と戯れる。その指は夕子の両足の間を探っている。

 二人の唾液が夕子の口腔が満ちる。それは口角から溢れ出した。

「いっぱい濡れてきました。立花さんのここ……」

 夕子を探る安倍の指がモゴモゴと動いた。

「ああ、言わないで……」

 右の胸の膨らみが冷たい手に包まれる。胸の形がクニクニと変わってゆくのが分かる。胸が安倍の手のひらから逃げようとクルクルとその向きが変わってゆく。

 左側の胸がちゅぽんと吸い込まれる感じがした。そこに生温い感触が広がる。胸の先端が飴玉のようにコロコロと安倍の口腔で転がる。

「ああ、安倍さん、安倍さん……恥ずかしい。っ……」

 身体の奥に長く細い安倍の指を感じていた。小さな痛みの中に……。身体が弓なりに反る。

 右の手首が取られ、スッと浮き上った。

 

 ――えっ……。

 

「きゃっ……」

 固い。肉の塊に指先が触れた。夕子は慌ててその手を引いた。それは固いが白杖のような冷たく無機質なものではなく。その瞬間、生き物のようにピクリと跳ねた。

 

 ――安倍さんの……。

 

「ああ、ゴメンなさい。ゴメンなさい。僕……」

 ベッドのバネがグラリと揺れた。

「……いえ、私もすみませんでした。私、初めてだったので……。男の人の……その……」と夕子が言ったあと、安倍のそこに手を伸ばした。夕子は、フウと、大きく息を吐いた。

「あ……」

 安倍の小さな呼吸のような声が聞こえた。

 重みのあるそれを手のひらで包む。柔らかさの中に芯が入ったようなそれは生き物のように息づいており、時折夕子の手の中でピクリと跳ねる。

「ふふっ……」

「えっ……?」

「だって、カワイイんですもの。安倍さんの……。小さな生き物みたいで……」

「えっ、カワイイですか……?」

 安倍が吹き出すように言った。

「はい、とても……」

 

 ――それは、たぶん安倍さんのだから……。

 

5

 

「立花さん……」

 分かっていた。安倍が何を言おうとしていたのか。

「優しくしてくださいね」

「はい……分かりました」

 仰向けにされ、安倍の身体が覆い被さる。安倍の体重を感じた。ベッドがグッと沈んだ。膝がかかえられ、両足が左右に開かれる。

 両足の間に安倍が当たった。プチュっという小さな音が聞こえた。そこがペコリと凹むのを感じた。安倍の重みが一点にかかった。

「んっ、んんんんっ……くぅ……イイイッ……タアアア……」

 身体が裂けてしまいそうだった。身体を反って痛みから逃れようとする。枕を握り締めた。

 

 ふっと、安倍の体重が軽くなった。

「大丈夫ですか? 止めましょうか。今日は……」

「いえ、安倍さん、私は大丈夫です。だから……」

「分かりました。もし痛くてガマンできなかったら、言って下さい。何度でも……」

 再び安倍の体重がかかる。呼吸ができなかった。

「んんんんぅ……」

 額から汗が滴る。更に安倍が体重をかけた。プツッという感じがした。身体が左右に裂けてしまいそうだった。

 

 ――私の身体の中に安倍さんが……。

 

 今、夕子の身体に安倍がいるか、どうかは分からなかったが身体の奥で彼の鼓動を感じたような気がした。

「安倍さん。安倍さん……んんんんんぅ……」

 安倍が体重をかけた。夕子は安倍の身体にしがみつき彼を引き寄せる。にゅっと身体の奥が満たされる感じがした。両足の間に安倍の茂みを感じた。

「大丈夫ですか?」

「私、痺れちゃってよく分からないです。だけど、私の中に安倍さんが満たされてるって……」

 夕子は息も絶え絶えに言った。

「動いてもいいですか?」

「はい……」

 夕子は小さくうなづいた。声が出なかった。ゆっくりと安倍の腰が夕子の身体をしゃくるように動き始めた。

「好きです。好きです。立花さん……」

 安倍の腰がリズミカルに動く。押し込まれたような感じのあと、スッと抜かれた。

「ああ、私も……、私も大好き。安倍さん……」

 夕子は安倍の背に腕を回し引き寄せる。安倍の動きに飛ばされないように彼を引き寄せた。

 

 

「あ、で、出るかも……ん、ん、ん、ん……あ、あ……」

 安倍の腰が徐々に速さを増す。ビッチャビチャと安倍と繋がっている場所から水音が聞こえた。固いベッドのクッションがグググっと唸りを上げて揺れる。やがて安倍の腰は静かに止まった。

「ああ、安倍さん……、安倍さん……」

 夕子は安倍を抱き寄せた。安倍がツルリと夕子の身体から抜け出た。

 ガサゴソとティッシュを取る音が聞こえた。少し前まで安倍のと繋がっていた場所が拭われた。

「ああ、立花さん……」

 安倍に強く抱き締められた。

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