第3話 そうして村を抜けて


他の家も同じように探し回った。分かってしまった。この村には誰も住んでいない。


ではなぜ田んぼや畑が綺麗に手入れされているのだろうか。分からない。村から人が消える神隠しにでも会ったのだろうか。村以外から人が来て、あらゆる人と物を連れ去って持って行ってしまったと考えるか。琴を弾いているはずのモノには結局会えなかった。


この村よりも人が居る場所に向かおう。記憶の手掛かりになるかもしれない刀を帯に指して、村からの出口を探し回ることにした。


歩いた。歩き回った。


そうしているうちに別の気配を感じて、山の小道を歩いている時に空気の匂いが変わったのが分かった。

花独特の匂いが少しする。この匂いは知っている。記憶の手がかりになるかもしれない。記憶が頭の中に降りてくるのを期待しながら歩を進める。


一向に降りて来ない。


記憶へ触ることが出来ないもどかしさとは裏腹に、なぜか足取りは軽くなっていた。身体が覚えていた。この道を知っていてこの先に何と会えるのか分かっている。


シャリン___シャリン____


いくつもの鈴が重なり合った音がする。心地の良い音だ。どこから鳴っているのか分からない。けれど、この音を知っている。


シャリン___シャリン____


空気の匂いが段々と懐かしい匂いへと変わっていく。


森を抜けて明るい花畑に出た。そこにはひとりの少女が居た。屈んで花を摘んでいる。

名は鈴花と言う。そういう名前だったはずだ。

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記憶を失った鬼の子 トチ @tochi656

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