第3話
「ボクがいつ、女の子だって言った?」
満面の笑みでそう返すと、クラスにいた全員が凍り付いた。容姿と中性的な名前のおかげで周囲の人たちが勝手に女子だと勘違いする。久しぶりに会った親戚までもが勘違いするほどだ。
おかげで、満面の笑みでお決まりのセリフを言うことが一種の趣味(?)となってしまった。
「え?う、嘘だよね?」
「………そんなわけない………」
まだ現実を受け入れられないらしい。
ま、ボクほどかわいければしょうがないか。
「えっと、そんなに信じられないなら、水泳の授業のときにボクを見てみて?」
再びクラスにいた全員が凍り付く。ちょうど教室に入ってきた担任の先生までもが口を開けて驚いていた。
「……はっ……先生、本当ですか、違いますよね!」
事実をどうしても受け入れたくない生徒の一人が我に返り、先生に聞く。ただ、先生から返ってくる答えは、当たり前というか、事実というか、結果的に自分を傷つける行為になるわけで。
「えっと……つかささんは、男の子です。(先生も最初は信じられませんでした)」
先生、ぼそっと最後に言ったこと聞こえてますよ。
―――この先生の言葉を聞いた数人の生徒(主に男子生徒)は倒れ、その日の保健室はとても混んだようだった。
「てなことがあってさー。ほんと、勘違いされやすいんだよねー……って、聞いてるの、兄さん?」
「ん?ああ、聞いてるよ。つかさがかわいいって話だろ。俺の場合は『かっこいい』だからな。まだ俺がオタクだってこと知らない女子にきゃーきゃー言われる。二次元の女の子しか興味ないんだけどな」
「………ほんと、兄さんはかっこいい顔でよかったね。でも、いつまでもそんな二次元にこだわってたら彼女もできないし結婚もできないよ」
「うーん……頃合いをみて好きな子見つけるって。父さんと母さんを心配させたくないし。そういう、つかさこそ好きな子とかまるでいないじゃないか」
「ボクは!ボクよりかわいいか、何かぴきーんってくる子がいないだけ」
やけになってつい大きい声で反論すると、兄さんが呆れたような目をこちらに向けてくる。いや、呆れた目を向けたいのはボクのほうだよ。
「確かになー……それに、こんなに料理も出来るときた」
そういいながら、今日の夕食を見る。今日のメニューはパエリアに海鮮サラダ、トマトベースのスープ。料理当番がボクだったから、好きな魚介類がメインになっている。
「そこらへんのファミレスよりは美味しいと思うけど」
「美味しいから難ありなんだ。だって、多少料理ができた程度じゃときめきもしないだろ」
「確かにそうなんだけど~」
確かに兄さんの言うことにも一理ある。けど。
「ボク、今年中に好きな子見つけるし」
「はいはい、がんばれがんばれ~。んじゃー。ごちそうさま」
「………おそまつさまでした」
適当にあしらわれた感があって少し納得いかなかったのだが、当の本人はおなか一杯になって満足して自分の部屋に行ってしまった。
「好きな子、かあ……できるのかな……」
ボクがいつ、女の子だって言った? 葉月 僅 @karasudaki_ruiha
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