砂漠のレリック

砂山さそり

序章・第壱話

広がる黄色い世界

空気は澄んでいるが、時折激しい砂嵐が起こる

ところどころに動物や人の骨が散乱し、木々や建造物の残骸らしき物が

見え隠れする

ここもかつては街だったのだろう

焼けるような暑さの中、一人の男が歩いていた



男は深々とフードを被り、麻の様なもので編んだ袋を肩に担いで

荷物を引きがなら歩いていた

同じような袋の荷物がソリのような道具の上にいくつも積んである

若干疲れた様子でその足を進める

足の底が砂に取られて思うように進めない様子だった

それでもずっとそうしてきたのだろう、休めることなくひたすら前へ進む

足跡を見ると地平の彼方まで続いていて、この男がどれだけ歩いてきたのか

簡単には想像できないくらいである



「もう少しだ」

男は自分に言い聞かせるように言って更に力強く足を動かす

少し喉が渇いたのか、腰に下げていた水袋を取り出し軽く口の中を潤す

暑さと眩しさで少し目を強く瞑ってから少しずつ瞼を上げていった

遥か先、黄色い砂の平原と陸地のオアシスとも思える境目がかろうじて見えるようだった

それを見て男は若干顔を緩ませたがすぐさま引き締めた面構えになり更に足を進めた

着ている服は何度か砂嵐にあったであろう細かい砂の粒が縫い目に食い込んでいた

裾などは多少擦り切れていているが、とても丈夫な布で出来ているためか

世代を超えて使っても十分使えると思えるほどだった

一瞬男は足を止めて後ろを振り返る

耳鳴りのようなかすかな音を感じた男は大きく目を見開き遠くを見た

「くっ、もう来たのか」

男が見つめる遥か先の方で黒く霧のようなものが蠢いていた

それは遠すぎて形が認識できないだけに過ぎなかった

砂埃をまき散らしながら無作為にはじけるポップコーンの様に飛び跳ねながら

こっちに向かってくる生き物たちの群れだったのだ

ただ、こっちに向かってくると言うのは語弊がある

たまたま方向が同じだったのだろう

その大群は男を目指しているのではなく男が目指す場所と同じだった


様子を確認するとすぐに踵を返し周囲を見渡し始める

ちょっとした岩が顔を出している箇所があった

一部窪んだ所へ足早に身を収める

荷物を窪みの奥へ投げ込みソリのような道具を裏返しにすると、外側へ向けて

構えて地面へ突き刺して八の字の様に描き更に深く捻じ込ませる

ある程度進めると荷物運び用の道具からテントのようなものを出して岩と固定する

小型のピストルの様なものを取り出し、何か所かテントと岩を固定していく

その道具は空気の勢いで中の金属を射出するものだった

手慣れた様子だが若干慌てる様子でそれを続ける

一通り作業が終わるとテントの張り具合を確かめて安堵した

「ここで奴らにやられるわけにはいかないからな」

男は腰の水袋を片手に取ると、そっと上の方を見上げるように目を瞑る

息を落ち着かせると静かに中の水を飲みこんだ




「そう、私にはこれしかなかった」


荒廃したビル群の外、荒れ果てた建物の間からも植物などが生い茂り、ところどころ水没した池のようなところが混在していた。

一つの文明が終わりをつげ、人類もごく少数の生き残りしかいなかった。

動物や昆虫などが急速に突然変異して多様な種類の生物となって地球を支配していた。残された人類は、地下で暮らすようになりながらもその人口を増やそうと努力していた。人類が少数になったのも多様化した生物たち、通称バグニカに侵略され、その凶暴さ故に命を落とすことが多かったからだ。

だが、人類も黙っちゃいない。

対抗策として、バグニカ撃退用兵器、バイオ・アームズを開発していた。


地下の基地に広がる警告音

バグニカの襲撃だ。

シェルターの様な頑丈な作りの施設だったが出入口には大きな穴が開いていた

施設内には多くの虫の様な生き物たちが侵入していた

一目でノミかダニの姿を連想するが大きさが人の倍以上あった

重火器で応戦する人達の中をかき分けて進む姿がある

一目散に奥の部屋へ駆け込み息を切らしながら機械の端に寄り掛かる

息を少し整えると脇にあるキーボードの様な物を触りだす


「パスワードを入力してください」


機械音声で聞こえた後、力強くキーを叩く音が響く

すると2メートル以上高さのあるカプセルの下から中の液体が排出されていく

緑色液体が勢いよく排出されていくと、中に女性らしき人が立っていた

ゆっくり目を開けるとビーっアラームの様な音が鳴り響いた

人々がおびえる中、研究施設から一つの兵器が起動した


「頼んだぞ、NOZOMI」


白衣の老人がそう言った




男が岩陰に潜んでからしばらくたった頃

周囲の地面が小刻みに大きく揺れ始めた


耳を覆いたくなるような激しい地響きがだんだんと大きくなっていく

身体全体も地面に合わせて大きく振動して体の臓器が揺れに追い付かないくらいだった

男は即席のバリケードにしたソリのテントを必死で押さえながらこらえる

若干手が痺れてきたころ、ようやく振動が弱まっていき音も遠ざかっていった

ゆっくり手を放し胸で大きく息を吸って吐き出す

岩の溝の中は砂が巻き上がった後で砂埃で一杯だった

顔にも汗と混じった砂が、まだら模様の様になって凝着している

テントの張りを止めていた鉄の杭を一本ずつ外していく

荷物運び用のソリを地面に降ろすと、奥に放り投げた荷物の袋を積み直した

外に出て目的の場所を見てみると黒く靄のかかった様子でさっきの虫たちが移動していた

ソリを引っ張り足を進めようとした時、岩の反対側から覗き込むようにこちらに視線を感じた

全て通り過ぎたように思ったが一匹だけそこへとどまり様子を伺っていたのだ

2.5メートル以上あるその虫はじっとこちらを見つめ今にも飛び掛かりそうな構えだ

一瞬、足元がふらついたのか恐怖でよろめいたのか後ろへ一歩下がった時、

虫は力強く構えたその後ろ脚を大きくはじかせて飛び上がった

男はバールのようなものを両手で構えてやむなく応戦しようとする

覚悟を決めたその時、虫は何かに大きな衝撃を受けて横へ吹っ飛ばされていった


間を置かずその場へ一人の女性らしきシルエットが逆光の中に浮き上がる

黒いズボンにスポーツブラの様なものをまとって上から白いストールのようなものを羽織っていた

細身ながらトレーニングをある程度しているかのような締まった体つき

しばらく彼女がじっとしていたかと思うと、一瞬飛ばした虫の方に視線を向けた

身体が破損して体液が噴出している状態にも関わらず跳躍する態勢を取ったその時

彼女が身構え力強く地面を蹴って飛び出した

その反応速度は考えるより早く反応している様子で極めて機械的に虫の所へ向かって行った

虫が飛び出す前に彼女の拳が虫の顔面に埋没して、硬い体を容易に突き破った

虫の顔面は完全に破壊され中から大量の体液が噴出し、それが彼女にシャワーの様に降り注いだ

彼女は軽く顔を拭い、今度は男の方へ首を向けた


男はよろけて後ろへ後退りして何他下がると同時に目の前に彼女が詰め寄った

無表情、あれほどの激しい動きをしても息一つ上げず汗一つ掻いていなかった


「ダレ?」

彼女は不慣れな発音の外国人の様な話し方で聞いてきた

「俺はカズキ、カズキ・オオモリ」

男は名前を言うが彼女は特に反応なく続いて質問をした

「ドコカラキタ?」

ぎこちない話し方に違和感があったが男は素直にこれに答えた

「俺はアグラ・コロニーから来た。イズモ・コロニーにいる博士に会いに来た」

間を置かず彼女は答えた

「マグロハカセハ、シンダ。ワタシハ、マグロハカセニツクラレタ」

男は一気に表情を崩し酷く悔しがった

「遅かったか、じゃあ君がマグロ博士の・」

言葉詰まらせながら男は質問する

彼女はまた表情一つ変えずに

「ワタシハ、ノゾミ。ハカセニタノマレタ。」

カズキは自分の来た目的を再確認するようにノゾミに言う

「そう、君は人類の希望だ、世界を救う鍵。」

少し彼女は首を傾げ「セカイ?スクウ?」と言った

そこでカズキが感づいた

ノゾミは対バグニカの兵器バイオアームズはまだ未完成だと

カズキはこの少女型の兵器を調整、いや育てていく事を決めた

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