第3話 許さないからね
愛美の後ろから走ってきた学ランの男子が、横断歩道の上で茫然と立っている女の子に駆け寄ると、膝をついて、
「大丈夫か、美春」
と言いながら女の子を抱きしめ、やっと我に返った女の子はポロポロと大粒の涙を流し、「お兄ちゃん」と言いながら学ランの男子生徒、坂崎武士の首にすがりついた。
数台のパトカーと三台の救急車、消防の特殊工作車が現場に到着したのは、事故から数分後のことだ。生徒たちは帰ろうとせずに大勢が正門前で状況を見つめていた。
トラックに閉じ込められた運転手の救出に工作車が活躍し、なんとか車から救出しようとしている傍で、ほかの二人の被害者である男子生徒と女の子に救急隊員が寄り添う。
愛美から「ちーちゃん」と呼ばれた生徒、今田智行はまだ動く様子もなく、救急隊員によりそっと担架に乗せられて救急車に運ばれていった。
突然の出来事に学校側もすぐに体制が整えられなかったようであり、救急隊員が受入先の病院を探している最中にようやく準備のできた女性教師がひとり駆けつけて智行の乗せられた救急車に同乗した。
「先生、私も行かせてください」
それまで智行から片時も離れずに付き添っていた愛美は、泣きじゃくりながら救急車に同乗している教師にそう告げて一緒に乗ろうとしたが、「あとで連絡するから、落ち着いてとりあえず家へ連絡してあげて」とやんわりと諭されて、現場を遠ざかる救急車を見送ることとなった。
救急車を見送った愛美が後ろを振り返ると、もう一台の救急車に先ほどの女の子が歩いて乗せられるところだった。彼女はどうやら大丈夫らしいが、念のために病院で検査を受けるようだ。同乗するのはさっき「お兄ちゃん」と呼ばれた学ランの武士だ。
すると救急車に乗ろうとする武士の背中に向かって、
「ちーちゃんに何かあったら、うちはあんたを絶対許さんよ」
と愛美が大声で言い放ったのだ。
その声に驚くように振り向いた武士は、何か言いたげに口をもごもごと動かしたが、結局言葉にできずに愛美に向かって一回頭を下げてから救急車に乗り込んでいく。
そして、その救急車が見えなくなるまで愛美がいつまでもにらみつけていたのだった。
救急車がいなくなると、愛美は道路脇に落ちていた智行の黒い学生鞄を拾い上げた。その愛美に何人かの女生徒たちが駆け寄り愛美を慰めていたが、愛美はじっと唇を噛み締めて涙を堪えていた。
しばらくして気持ちが落ち着くと、智行の家へ電話をして事故のことを伝えてたのだった。
それが夏休み直前の出来事であった。
スカート番長の憂鬱 西川笑里 @en-twin
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