#7 再スタート!!



無事に俺たちは仮授業をクリアして、正式に試験を合格した…らしい。


仮定形なのは、その合格通知とやらが意味不明だったからなんだけど…



「コーヤ〜!!」


「…課題なら手伝わねえぞ」


「まだ何も言ってない!!」



部屋でその合格通知を眺めているとバタバタと入ってきたユーリに、背を向けながら返事した。


塩対応の返事にめげず、ユーリは俺の前に1枚の紙切れを出してくる。



「見てみて!新入生で温室の管理を任されちゃった!!」


「なになに… “御入学おめでとうございます。仮授業では講義に対する熱意が強く伝わってきました。つきまして、ユーリ殿には温室の管理を他数名の生徒と行っていただく事になりました。詳細は後日追ってご連絡致します…” …へえ、よかったじゃん」


「反応薄くない!?」


「普通の反応だと思うが…それより、俺はこっちが忙しいんだよ」


「こっちのって…何よそれ?」



ヒョイ、と覗き込んできたユーリは俺が見ていた合格通知の紙を取った。



「あ、おい…」


「えーっと? “御入学おめでとうございます。試験を通して貴方の潜在魔力を確かめさせて頂きました。その結果、貴方をLクラスへ招待させていただくことになりました…” …って…」


「そのLクラスってのがいまいち…」


「え、ちょっと…え?」


「…ユーリ?」



明らかに同様している相方に首を傾げていると、ユーリは目を見開いて聞いてきた。



「これ…本当にコーヤが?」


「そうだけど…それがどうかしたのか?」


「どうかしたのかって…アンタこれがどういう事か分からないの!?」


「わからん」



そう答えればユーリは、頭を抱えてため息を吐いた。



「Lクラスはね!?成績優秀な生徒の中でも上位の 0.0001% しか選ばれない…もはや奇跡のクラスよ!?」


「奇跡のクラス…」


「それにアンタが選ばれるなんて…」


「いや、間違いかもしんねえし、そもそもそんなクラスめんどくさそう…」


「凄いじゃない!!」


「…え?」


「最近は滅多にLクラスに選ばれる生徒が居なかったから実質、アンタが校内最強って事じゃない!!」


「ゆ、ユーリ…?」


「そして最強のアンタの相棒は私…」



背を向けて「フフフ…」と笑い始めたユーリに、若干身を引く俺。



「コーヤ!!」


「お、おう…?」


「私たちで最強になるのよ!!」


「俺たちで…最強…?」


「最強になればアイツだって…」


「??」


「あぁその前にこの事をテッド達に話さなきゃね!!」


「は?ちょ、待てって…」



止めるが遅く、ユーリは颯爽と部屋を飛び出して「テッド〜!!」と叫びながら行ってしまった。


残された俺は合格通知に書かれている「Lクラス」の文字を見つめながらため息をはく。


そんなに名誉なクラスだったなんて盲点だ…


俺はただ静かに、平凡に学校生活を過ごしたかっただけなのに…これではうるさく、忙しい学校生活になってしまう。



「どうしよう…」



そう呟けば…



?「何をそんなに迷ってる?」


「俺の平和がなくなりそうなことに迷ってる」


?「最強になればいい」


「簡単に言うなって、俺はそんな……の…」



平然と会話していることに気づいて、キリキリと首を回して棚の上を見ると、そこには黄色いモフモフが…いた。



___ヒヨコ?



「……は?」


?「もっと自信持てばいい」



尚も喋り続けるヒヨコっぽいやつに俺は固まる。



「なっ……ヒヨコが…喋ってる…」


?「今更気付いたのかまったく…あと、ボクはヒヨコじゃない。ガガルモの雛だっピ」


「ガガルモ…?」



___ていうか語尾「っピ」って言ってるじゃん。



「そんな事も分からないなんて…校長は一体何を考えているのやらだっピ」



ヒヨコ…否、ガガルモの雛はパタパタと飛ぶと俺の目の前に降りてきた。



「まぁ、選ばれてしまったのは仕方ないこと…諦めてボクの話を聞くっピ」


「え、嫌です」


「断るなっピ!!?往生際が悪いっピよ!?」


「いやそんな事言われても、俺まだLクラスに行くなんて一言も…」


「コウヤ!!おまえLクラスに選ばれたって本当か!?スゲーな!!」


「………」


「…これで決まりっピね」


「焼き鳥にするぞ」


「こっ、校則違反だっピ!!!」


「え!?ちょっとコーヤなにその生き物!?ガガルモの雛じゃない!!なんでここに……いやぁかわいい〜!!!」


「一気に騒がしくなった…」



部屋に飛び込んできたテッドに、Lクラスのことについて質問攻めにされ…


テッドを連れてきたユーリはヒヨコ(ガガルモの雛)に夢中と…しばらく収まりそうにないなこれ。








「…で?結局おまえは何なんだ?」



とりあえず、俺のLクラスの話を含めてこのヒヨコに全員で聞くことにした。



「オホン、ボクは “ガガルモの雛” の…」



あ、ヒヨコって呼ばれたの根に持ってるな。



「セイノージ・フィン・エルモ…」


「長いからヒヨ助で」


「無慈悲だっピ!!」


「じゃあピヨ助」


「ピにすれば良いわけじゃ…!!」


「そこは後でコウヤと話してもらうとして…本題入ろうぜ?」


「ぐぬっ…」



テッドに言われて、ピヨ助は渋々話し始めた。



「…まず、このLクラス選抜者は今現在、コウヤしかいないっピ。それに関してはここ数年に選ばれた生徒が居なかったから…でもようやく現れたLクラスの新入生に、学校の校長や教授達はすごい期待されているっピ」


「それはそれは面倒臭いことで」


「コーヤは1回黙って!」


「ハイハイ」


「と…とにかく!その期待の新入生の様子を見にこのボクが直々にやって来てやったのだっピ!!」


「様子って…一体どのへん?」


「そりゃあ魔学高校に対してどれほどの忠誠心があるとか…」


「流れで入学したようなもんだしなぁ」


「ま、魔法に関する知識がどれくらいとか…」


「おおそうだ、さっき変な魔法出たんだよ。テッド見てくんねえ?」


「うわーん!!こんなのがLクラスだなんて絶対何かの間違いだっピ!!」



ピヨ助はピーピーと泣いてしまった。



「コーヤ!!ピヨ助を泣かすなんてひどいわ!!」


「お前もピヨ助って呼んでるじゃん…」


「まあまあ、ピヨ助も…コウヤの様子見のことは誰かに言われて来たのか?」



テッドが聞くと、ピヨ助はハッと顔を上げて泣き顔からキリッとした表情に変わった。



「そうだったっピ!!ボクはある方からご指名をうけて、ここに来たんだっピ!!」


「ある方?」


「そうだっピ!!この魔学高校にて最大の権力を持つ人物でボクの主でもある…」


「もしかしてフロイド校長!?」


「そ、そうだっピ!!…そうだ!この選抜が間違いだってことをいま校長に…!!」



ピヨ助は首に下げていたネックレスについた宝石をかざすと、そこから光が溢れて…



『おや、どうかしたのかな?セイ』



空中に映像が映し出されて、現れたのは物腰が柔らかそうな年配のお爺さん。



「主殿!!やっぱりこの者がLクラスなのは間違いだっピ!!やめた方がいいっピ!今すぐ取り消すっピ!!焼き鳥にされるっピヨ!!」


「焼き鳥にするって言った事も根に持ってたのか」


『ははは、いやぁすまないね呴也君』


「えっ…」



初めてちゃんと名前を呼ばれて思わず声が詰まる。



『久しぶりのLクラス選抜に気分が舞い上がってしまってね、どんな子か気になってセイを向かわせたんだけど…何だか逆に大変な事にしてしまったね』


「い、いえ…」


「主殿!!今すぐ取り消すのだっピ!!」


『決定はもう取り消せないよセイ。彼には合格通知の通り、Lクラスに入ってもらうよ』


「主殿!?」


『セイとも仲良くなれたようだし、これから期待してるよ呴也君』


「仲良くなってないっピ!!」


「はあ…まあ、出来る限りの範囲で頑張ります」


『うん。あぁそうそう、私は暫く出張に出る事になったから、セイのことも頼むよ』


「えっ」/「ピッ…!?」


『それじゃあ新入生の諸君、学校生活を存分に楽しんでくれたまえ!』



そこで切れた映像に、俺たちは数秒間、ただ呆然とするしかなかった。



「……ピ?主殿…?主殿!?」



ピヨ助が再び校長を呼ぼうとするがもう繋がらない。



「校長先生…急な出張なんだなぁ」


「いや出張なのはいいんだけど、ピヨ助を頼むって…」


「つまり…コーヤがお世話するわけ?」


「そう…なるのか?」



3人でピヨ助を振り返ると…



「ピ……」



目に「焼き鳥にされる」と書いてありそうな表情。



「…はあ、校長の預かりヒヨコを焼き鳥になんかしねえよ」


「本当かっピ!?」


「ははっ、大丈夫大丈夫、コウヤは見た目の割に結構いい奴だから!」


「テッド、それ褒めてるのか?」


「えーっ!なんで私じゃないわけ!?私の方がちゃんと面倒見られるのに!!毎朝ブラッシングして毛並み整えて、おしゃれもして…」


「コウヤでいいっピ」


「てめぇ仕方なく俺にするみたいな言い方するな」


「断られた!?」


「はははっ、まあユーリは温室の管理も大変だもんな!」


「う…でもまあ、たしかに私には任された仕事があるし…」


「って事で、これでピヨ助の面倒はコウヤが見るってことで決まりだな!」


「不本意だけどな」


「こっちだって妥協してやってるんだっピ」


「やっぱり焼き鳥にするか」


「ピー!!」


「ははは!楽しい仲間が増えたな!」


「「全然楽しくねえ!!/っピ!!」」





…こうして、俺の学校生活にヒヨコが加わったのであった。


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