#6 平和のために!本気と書いてマジ!



朝食を食べて着替え終わったあと、俺はテッドに付いて学校の敷地内にある広めの講堂に来ていた。



「…なぁ、ここって何やるんだ?」


「ん?あぁ、僕らがやるのは…」



テッドが説明しかけた時、講堂全体の電気が消えて視界が真っ暗になった。



「は…?停電?」


「テイデン?この建物内の灯りは全部 “魔石ませき” から供給されてるんだ」



魔石ませき” …??


また初めて聞く単語だ。



「魔石って…何なんだ?石か?」


「まあ…究極に言えばそうだけど…説明すると、魔力を込めた石で、呪文をいちいち唱えなくても勝手に魔法を発動させることが出来る…ってところだな」


「へえ、便利だな」


「ま、魔力の込め方が雑だったり、込めた魔力が薄かったりすると、こんな風に突然その効力を失う。これが難点だけどな」



肩を下げて「やれやれ」という風に言うテッドは、次の瞬間…



「雑でも薄くもねえぞ!!」


「「!!」」



怒鳴り声…に近い叫び声に、テッドと気を抜いていた俺はビクッと肩を跳ね上がらせた。



「これは “わざと” だ!!いいか!てめぇら…気ィ抜いてっとそのぬるみきった頭カチ割るぞ!!?」



ステージ…というか講堂の前方で、スポットライトに当てられた男がそう叫ぶ。


頭の左側面刈り上げに、若干モヒカンっぽい髪型の男はサングラスをかけ直しながら続ける。



「これからやんのは選別だ!選ぶのはオレ!お前らはただ死に物狂いで生き残れ!!」



当然、俺とテッド…周りの受験者は豆鉄砲を喰らったように固まった。


が、それを許さないように試験官のモヒカン男は魔石を一個俺たちの方に放り投げた…。



___うん。放り投げ…



「どぅおわあぁあ!?」



魔石は前の方にいた奴らの頭上までくると、いきなり爆発して前方の数人を吹き飛ばした。




「……え…おい、テッド…これ…」


「あー、やっぱり今年はあの人が試験官になるのかー」



混乱する俺とは真逆に、テッドは淡々と言って踵を返して投げるフォームをとる。



「コウヤ、一旦外行くぞ!」


「は…」


「ほら早く!爆発に巻き込まれるぞ!」



振り返れば、もう2、3個の魔石がこちらへ飛んでくるのが見えた。



「なんっ…なんだよくそったれ!」



ギョッとして、慌ててテッドと講堂を飛び出した。


すると俺たちに続いて数人の受験者たちが外へ出てきたが、半数は間に合わずに爆発に巻き込まれていた。



___…ていうか、あんなに学校の中で爆発起こしていいのか…?



「いいわけねえよ?」


「…お前は俺の心を読むな」



テッドに呆れながら返事をする。



「でも、ある意味今年は運がいい」


「何をどう捉えたら運がいいんだよ、見ろよ後方の奴ら…全員顔が青いぞ」


「あの人は “ヴァルガー” さんだ」


「ヴァルガー?」



何とも野生的な名前だ。



「あの人が試験官の時は、ああやって、一番手っ取り早い方法で受験者を減らす」


「あぁ…また3人飛んでってるよ…」


「やり方は…まあ少し荒っぽいけど、根はいい人だぜ?」


「全然全く1ミリもそんな風には見えねえけどな…」


「姉さんが言ってたから間違いないって!」


「…え?お前姉貴いたの?」


「あれ?言ってなかったっけ?」


「初耳だ」



もはや何人兄弟なんだ。


その内妹とか出てくるんじゃないかと思えてきた…。


…なんて、話込んでいると…



「外に逃げれば安全だと思ったか!?ンな訳ねーだろおぉ!!」


「おいおい…!アレも有りなのか!?」



俺が指差す方向には、ヴァルガーに抱えられた大砲みたいなのが見える。


…ナニアレ。学校の教員が持っていいものじゃないよな?



「うわー、オレあれ初めて見たよ!」


「感動してる場合か!!こっち狙ってるぞ!!」


「あはは大丈夫大丈夫」


「大丈夫なわけ…!!」


「オレの魔法って、広い場所なら最強だから」


「え…」



テッドはくしゃっと笑うと、大きく、けれど素早く深呼吸してから、人差し指で空中を円を描くように回した。


すると、そこから空気の渦ができて、それが視認できるほどの圧力になると、テッドの手に渦巻いた槍みたいなものが握られていた。



風魔法ウインド・マジック=スペアーヴロヒ!」



___…なんて?



(ダメだ…オレには授業中にいきなり起こされた奴が叫ぶ意味不明の言葉にしか聞こえない…)



心の中でツッコミを入れていると、テッドの槍はヴァルガーの撃った大砲の弾を上手いこと捉え、ついでにヴァルガーに弾き返していた。



「へへっ、さすがに自分の攻撃が返ってくるなんて思ってなかっただろう」


「今の一瞬だけ悪役に見えたぞ」


「敵を騙すにはまず味方から…ってか?」


「誰も騙してないから安心しろ」



はあ、とため息をつく暇もなく…



「やるじゃねえか…」


「!!」



煙の中から起き上がったヴァルガーは、これでもかと口角を上げてゆらりと一歩踏み出す。



「少しは度胸座ってる奴がいるみてえだが…」


「…っ」


「まだ緩ィな」



ギラリ、と向けられた視線に、さすがの俺たちでも体が硬直した。



「反撃してハイ終わりじゃそこら辺のガキだって出来る…ここは魔学高校だぞ?自分の魔法を防御できなくてどうするよ」


「おいテッド…」


「やばいな、本気マジだあの人…」


「言ったよなあ?死に物狂いで生き残れって」


「っ、逃げるぞコウヤ…!」


「舐めんなって…言ってんだろうがぁ!!」


「!!」



瞬間、俺たちの頭上に現れた魔法陣みたいなところから複数の大砲が出てくる。


照準はもちろん、俺たち受験者全員。



「ラストスパートだ!!死にたくなきゃ生き残れ!!」


「なんて無茶苦茶な人だ…!」



テッドは苦笑しながら魔法を出そうとするが、ヴァルガーの魔法の方が強くて風が使えない。



「くっそ…!」



___え?マジであの人この大砲俺たちに向かって撃つつもりなのか?



「………」



___あ、ダメだ。本気で撃つ目してやがる!!



その瞬間、ヒヤッとした汗が背中に流れて、そこで初めて身の危険を感じた。



「ちくしょう…俺の平和がどんどん遠ざかる気がする…」


「コウヤ…?」


「…やってやるよ!反撃して…アンタを行動不能にしてやる!!」


「なら…やってみやがれ!!!」



ヴァルガーを指差して叫び、俺は全身に力を入れて頭の中でイメージした。


この数の大砲を避けるのはまず無理だ。


ならどうするか?


テッドみたいに撃ち返しても爆発の衝撃はこっちまで食らう。


避けるのも、撃ち返すのもダメ…


だったら…!!



「爆発しなけりゃ…ただの鉄の塊だろうが!」


「なっ!?」



ヴァルガーが目を見張るその先では、大砲がピシリ…と音をたてて凍り始めていた。



アイス魔法…!?混合魔法なんて上級技……コウヤ…お前は一体…」



テッドは目を見開いてコウヤの背を見つめた。




「俺は……俺の平和を邪魔する奴には容赦しねえ…俺の平和の為に!アンタを叩きのめす!!」




言葉にして叫ぶと安心するもので、そこからは一気に全ての大砲を凍りつかせた。



「なっ…オレの特級魔法が…」


「コウヤ…」


「俺の魔法も、最強だろ?」


「!!……はは、そうだな!」



座り込んでいたテッドに手を貸して起こし、俺たちは無事に初・仮授業を生き残った。











一方、ユーリとマックスの方はというと…




「きゃ〜!!カワイイ〜!!」



ウサギ。


に、目をハートにして愛でているユーリ。


…と、



「わあ…南方でしか見られない植物がこんなに…!!」



色鮮やかな植物や動物に、目をキラキラさせているマックスがいた。



「この教室の温度、湿度、明かりの調整などもすべて魔法で補っています。仕組みさえわかれば入学してすぐの生徒でも、動物や植物の管理を任せることもありますよ」


「「本当!?/ですか!?」」



柔らかい口調で優しそうな教員に、2人は身を乗り出して叫んでいた。


呴也とテッドが死に物狂いで逃げ回っていた中、2人はのほほんと学校生活を満喫していたそうな。




その後、ウキウキと自慢したユーリが呴也に一喝されるのは言うまでもない。

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