第11話 光の道しるべ

3人揃って上の階へ上っていった。上では体の動かなくなった竜真に皇帝が止めを刺そうとしていた。

何も見えねー。真っ暗だ。こんな所、一体どこを歩けば良いんだ?分からねー。

長かった。この男を殺しチャージを完了させ、発動ボタンを押して私の目的が叶う。既にチャージは95%を越えて、もう少しで100になる。その時私はどんな景色を見るのだろうか。

皇帝は勝ちを確信したかの様にゆっくりと竜真に近付いていく。

「竜真さん!」

何だ?今アツキの声が聞こえた気がしたが。

「竜ちゃん!」

風舞希か?お前らどこに居る?真っ暗で分からねーんだ。

「竜真さん」「竜ちゃん」「竜真さん」「竜ちゃん」

二人が竜真を呼ぶ声が聞こえる。

「何だ?」扉が開き、この場に来たのはアツキと風舞希と光だった。

「貴様ら。今来た所でもう遅い。この男には立つ力さえ残ってはいない」

何だ?さっきから暗闇の中で光っている物がある。あれは一体?でも何故かあの光に照らされると心地が良い。

「分かってないのはお前だ。竜真さんはこんな所で尽きない」

「そうだよ。竜ちゃんの諦めの悪さは世界一だもん。だから立って竜ちゃん」

「竜真さん。助けて!この世界を助けて」

皆が声を掛けるが竜真は死んだ様に反応しない。皇帝は哀れそうな顔をして、竜真に斬り掛かった。しかし竜真の心には皆の思いが、力が伝わっていた。

「竜真さん!」光は自分の剣を竜真に投げ付けた。

「無駄だ。こいつにもう力は」

光の剣が回転しながら竜真の所に飛んで行く。その剣を竜真は掴んだ。

「何!?」「見えたぜ。お前らの願い」竜真が皇帝の攻撃を弾く。

「己まだくたばらぬのか」

「何度だって蘇るさ。テメーを倒すまではな」

「竜真さん」光は感激のあまりに竜真の名を呼んだ。

「悪りーな。遅くなって。でも安心しろ。もう俺は死なねー」

外は既に暗くなっており、空には隕石が見える。一つの尾を引いた大きな隕石と、周りには小さな隕石がたくさん走っている。こんな奇跡の様な瞬間が再び竜真に奇跡を吹き込んだのかも知れない。

「テメーが見捨てようとした、たった一時の時間が、どんだけ光輝いているか。今からお前の心に刻み込んでやる」

「やれるものならやってみろ」

二人は構え、力を溜める。己の生きてきた時間の全てを掛けて二人は足を踏み出した。

「うぉーーー」

「うぉーーー。終わりだ坂本」

「終わらせねーよ。誰にも」

二人の意志がぶつかり、皇帝の意志が折れた。

「グハッ……。負けた。俺が」と最後に言い、倒れていった。

「竜真さん」竜真も力尽き、倒れる。アツキが肩を貸して、何とか立っていられる程消耗していた。

「光。悪りーな。綺麗な勝ち方が出来なくても」

「ううん」光は首を左右に動かし、涙を流した。

「でもこれで終わりだよね。早く竜真さん達は帰らないと」

「いやまだだ」

竜真は倒れている皇帝に肩を貸し、立たせた。

「竜真ちゃん?何やってるの?」

「そうだ。何をしている」

皇帝は今にも消えそうな声で話した。

「お前に見せてやるんだよ」

竜真さんは何故か皇帝を連れ、屋上に向かった。当然僕らも着いていった。僕はエレベーターの中で、どうしても皇帝に聞きたかった事を聞く事にした。

「一つ聞きたいことがあります」

その言葉に皇帝は耳を傾ける。

「何で僕にタイムマシーンを使わせてくれたんですか?何で僕が…過去に未来の僕にに助けられていた事を知っていたんですか?」

「それは……」皇帝は今にも消えそうな声で話す。

「君の未来が見えなかったからだ」

「僕の未来が見えない?」

「そうだ。光と試合をしている時、君の事を見て不思議に思った。何故なら先の動きが見える私が……。君の事を見ても何も見えない。次の動きが一切読めなかったからだ。君は死ぬべき人間。死んでるハズの人間。死者の動きは誰でも分からない」

「でも僕はこうして生きてますよ?」

「あ~そうだな……。君は最近生き返った。君が過去に行き、君自信を助け、君の時間は戻った。あの時君が自分を助けていなければ、今ここに居る君は消え、元の時間に戻る」

「そういう事だったんですね。でも何故僕を助けたんですか?あの時僕を過去に飛ばさなければ、こうして邪魔になる事は無かったのに」

「それは……ゲホッゲホッ」皇帝は苦しそうに血を吐いた。

「君がただの人間だったからだよ」

外では一星と真二が空を見上げていた。

「ホントにあれが落ちてくるっすよね」

「そうみたいですね。このままだと私達も死ぬ事になりますね。まぁそんな訳なんですけど、どうしますか?月菜」

一星は腕時計型トランシーバーで中に居る月菜に話し掛けた。

「どうするってこの世界から逃げるしか無いでしょ?一応こっちは全部片付いたけどそっちは?」

「こっちですか?そうですね。お片付け完了って感じです」

二人は、あの人数を相手に勝利していたのだ。二人は疲れて座って空を見上げていた。

「そう。なら新撰組に告ぎます。コノハ横丁に撤退」

月菜が全新撰組隊士に向けて言った。

「だそうです」

「そうっすか。そういえば旦那達は大丈夫っすかね?」

「大丈夫でしょう。あの人達ならどんな問題もクリアしていきますよ」

「だと良いっすけどね」

一星と真二はリングを使い、異世界ランラインを後にした。

「さて、私もそろそろ帰ろうかしら。隊士達も殆ど帰ったみたいだし」

「そこのお嬢さん」

「え?私?」

民間人が月菜を呼び頭を下げた。

「私達は貴方達になんてお礼を言ったら良いのか分かりませんが。私達に時間をくれて人生をくれてありがとうございます」

月菜に向かって一同頭を下げた。

「いえいえ。そんな私なんて。今回は皆の力です。私一人じゃどうしようも出来なかったですし。だから皆さんはあと少しの時間を大切に生きてください」

月菜は少し照れながら話し、リングを使って帰った。

その頃竜真達は既にブランドタワー展望台に到着していた。

「ハァハァハァハァハァハァ」息を荒げ、辛そうに呼吸をする皇帝。

「まだ死ぬんじゃねー。お前はこの世界のトップとしてまだやる事があるだろ?」

「負けた私に……何が出来るのだ」

「この終わりゆく世界を見届ける義務が」

竜真は皇帝を端に連れて行き座らせた。

「見えるだろ?ここからなら」

「あぁ……良く見える。」

皇帝はその景色をただいつもと変わらぬ町を見ている様に見ていた。空には隕石が見え、もうここへ落ちてくるのも直ぐだと思った。

「綺麗だろ?」竜真は光と皇帝に話し掛ける。

「うん。いつもと変わらず綺麗。とても後少しで滅ぶ世界とは思えない程」

「そうだろ?皇帝さんは?」

「さんを付けるなと言っただろ」

「そうだっけ?」

「まぁ確かに光の言う通り、いつも通り綺麗だ。ただ一つ違うのは空すらもこんなに美しくなっていることだ」

僕らは皆、空を見上げる。

「まさしく、あの日。星が降った日だな」

「はっはっはっ。面白い事を」

この状況でツッコむのは止めておこう。

「あの星。後何分位でここに落ちるのかな?」

「さぁどうだろう?でも、もう直ぐじゃないかな?」

僕は風舞希の質問に答える。

「時間って言うのは綺麗だ。いつもと変わらないから普段は気付かないが、こうして終わりを直前にして、日常が美しくなる。人は失う時初めて、日常の有り難みを知るもんだぜ」

そんな話をしながら僕達はただ、星を眺めていた。いや、見蕩れていた。

「さて。竜真さん達はもう帰らないと駄目なんじゃないの?もうじきこの世界は終わりを迎える訳だし」

「光ちゃん」

「あぁ~そうだな。もう帰らないとな。さよならは言わねーぞ?きっとお前は生きていけるって信じてるからな」

「光ちゃん。絶対生き残ってね」

「光はきっとあの隕石にも勝てるよだから」

風舞希とアツキは涙が止まらなくなった。

「何泣いてるの?私は死なないって隕石ぐらいで。だから早く行って…」

光も涙を堪えていた。

「光は死なないさ」

「そんなの分かってるって」

「いや、本当に死なないから。ホラよ」

皇帝は今井から貰った自分のリングを指から外し、光に渡す。

「これ付けて、お前はこいつらと一緒に行け」

「でも…それなら皇帝が逃げれば」

「何を言うか。俺はこの世界の王。滅ぶ時を見なければならない。だがお前は違う。お前一人この世界から居なくなったって誰も気付きはしねーさ」

「皇帝……うん貰う」

光は指にリングを付けた。

「それじゃ帰ろう光ちゃん私達の世界に」

「うん。じゃ~お邪魔します」と言い僕達はリングを使った。体が光だし、飛ぶ準備に掛かる。

「皇帝。あばよ」

「へっ!さっさと行きやがれ」

その言葉を最後に聞き、僕達は異世界ランラインを後にした。

結局この世界は。他の世界から来たたった3人の侍に変えられてしまったって訳だ。侍があんなに恐ろしい生き物とは知らなかった。あいつらと私、どちらの選択が正しいかは分からないが一つ言える事は、私は死ぬ事で英雄になろうとしていた。しかし彼等は生き抜く事で英雄になった。それだけの違いなのかも知れないな。今になってはこの景色を見させてもらっている事を感謝しなくてはな。

ふーーー。皇帝は深く息を吸った。そして息を吐くことはなかった。

下ではこの世界の住人達が空を見上げ、死を受け入れ、皆で酒を飲んでいた。

数秒後、小さな隕石が次々に落下し、数十秒後大きな隕石が落下して、異世界ランラインは完全に消滅した。

ギルドに戻った僕らは直ぐにお菊さんにランラインが消滅した事を知らされた。完全な消滅。例え今、リングを使いランラインへ飛ぼうとしても飛ぶ事は出来ない。何故ならそんな異世界、存在していないからだ。最初の内はショックだったが、人間の慣れという能力は結構凄い物だ。僕達は気付けばいつもの日常に戻っていた。

「こないだはとんだ目にあったな」

「そうですね。僕らが行く所々に災難が着いてきますからね」

「これってよ。ストーカー被害訴えて、金むしりとれねーのか?」

「いや誰から取るんですか」

「光ちゃんは大丈夫かな~?」

「そうだよね~。もう何日も見てない気がするし。ちゃんとご飯食べれてるのかな~?」

「大丈夫だろ?あいつもそんなにヤワじゃねーだろうし。たぶん夜の店で働いてんじゃねーか?」

「心荒み過ぎでしょ。何があったら……」

いや待てよ。母親が死に、自分の世界が消えたんだ。それは十分過ぎる位に不幸だ。竜真さんの言葉も一理あるな。

ピンポーン。「あれ?誰か来たみたいですね」

僕は玄関に行き、扉を開けた。

「こ、こんにちは。ご…ごめん。行きなり来て」

そこに居たのは、似合わず着物を来た光だった。

「ちょっ…ど…どうしたの?その格好」

まっ、まさか竜真さんの言う通り、夜の仕事に!!

「人に着てって言われたんだ。私にはこんな格好似合わないかも知れないけど」

そう言いながら頬を染める光。

「りゅ…竜真さ~ん!」僕は大声で呼んだ。

「ちょっと早く来て下さい。光…光がががが」

「何だようるせーな。なっ!」

竜真は光を見て、涙を流し光の肩に手を掛ける。

「苦労かけたな~。たった一日で花魁まで上り詰めるなんて。うっ~~」

「光ちゃん。私は光ちゃんが大人になっても友達だからね。グスッ」

「なっ、何と勘違いしてんの!違うから。ただ着物を着てお客さんの接待を」

「接待か。もう何も言わなくて良いんだぞ?」

「そうだよ光ちゃん。これ以上傷口を広げる必要無いよ」

「んーーー!もう!」

光は自分の話を聞かずに勘違いをしている竜真達に向かって大声で言った。

「だから下で働いてるの!」「え?下で?」「つ…つまり」

竜真、アツキ、風舞希は同じ事を思い、口に出した。

「地下の町で花魁を」

「だーー!もう違うって。いずみさんの所で働かせてもらってるの!」

「え?今なんて?あのロリッ子暴力娘の所で働かせてもらってるって聞こえたんだが」

バン!銃弾が竜真の鼻先のすれすれを通る。

「あらあら竜真さん。朝から私の事を話してくれるのは嬉しいですね」

「何で上で話している俺達の会話が聞こえんだよ?地獄耳か?それに嬉しいならそんな物騒な物をこっちに撃つな」

あの人はいつ人を殺してもおかしくないな。一歩間違えたら、ただの殺人鬼になってる人だ。

「それで光ちゃん。下で働いているって……」

「そうそう。下の温泉泉に雇ってもらったの」

「えーーーー!」

竜真、アツキ、風舞希は同時に光の言葉に驚いた。

「どうしたの?金でも積まれたの?」

「そうだよ光ちゃん。薬でも渡されたの?」

「あんなブラックな所で働けば、直ぐ命尽きるぞ?銃を人に撃つのを日課だと思ってる連中だぞ?」

バンバンバンバン。

「ほ…ほら言っただろ?」

「ううん。あそこで働くって決めたから。温泉入り放題で宿も貸してくれるし、さらに朝昼晩、飯付き。これは働くしかないでしょう」

「そうかも知れないけど~」

「それに一部屋を貸してくれたから、暇な時はそこで鍛冶屋もやろうと思うの」

「鍛冶屋か~。確かに僕らには必要なお店ですよね」

「そうだな。この前の戦いで刃も削れちまったから叩き直してもらうか」

「いいよ。お礼にいくらでも打ってあげる」

僕らは光に続き、温泉泉に入って光の部屋に向かった。

「皆さん。おはようございます」

「お…おはようございます」

「おはよ~泉さん」

「ほらこれだ。もうさっきの事忘れてやがる。何?その頭。2MBしか無いのか?」

「私が2MBなら竜真さんは2KBですね」

「あぁー?俺の脳ミソは蟹より無いってか?」

あ~あ。またこれだ。この二人は良く喧嘩するな~。

「そんな国語辞典にも載っている様な当たり前の事を今さら」

「何だとコラー」「ちょっと二人共。竜真さん早く行くよ」

光に仲裁された二人は文句がありそうだったがそれ以上は言わなかった。

「ったくしょうがねーな。まぁ~俺も子供と喧嘩する様な大人げない真似はしねーさ。さぁっ行くぞ」

「ゴゴゴゴゴ~」

「ん?どうしたお前ら。まるで俺の後ろに化け物が居る様な顔しやがって」

「竜真さん。化け物より怖いものが見えるんですけど…」

「わぁ~~」目をキラキラさせながら見る風舞希。

竜真さんはゆっくり振り返った。まるで死を悟った顔をしながら。

「な、何でこんな目に」

「あれは竜ちゃんが悪いよ」

僕達は光の部屋に居た。顔がパンパンに腫れた竜真さんは放っておいて、光に刀を直してもらはないと。

「直して欲しい刀貸して?」

竜真は光に自分の刀を渡す。光は刀を火で炙り、刀は赤くなる。

「大丈夫なんか?お前は刀を叩くの得意じゃないんだろ?」

「大丈夫だよ。ずっと鍛冶屋してたんだし。それにあの世界じゃ一番上手かったお母さんのテクニックをずっと見てたんだから」「光ちゃん」

「よし」光は刀を火から外し、台に置く。そして叩く

「よいしょ」パリん。

「あれ?僕の目がおかしいのかな?」アツキは目を擦った。

「どうしたアツキ?」

「いや僕の目がおかしいのかも知れないんですけど、今刀が折れた様に見えたんですけど」

「あ~。それは見間違いだ。俺もそう見えたがな」

「そうそう。私も折れた様に見えたけど、きっと見間違いだよね」

光は再び、叩いた。

パリん。「あっちゃ」

「ん?今光からあっちゃって聞こえたんですけど…」

「き、聞き間違いだろ?刀を叩く音と間違いただけだろ?」

「そうそう。私が言ったかも知れないし…」

「よし。もう少し」

パリんパリんパリんパリん。

「み…耳を塞げ」そう言われたアツキと風舞希は耳を塞ぐ。

「お、落ち着け!俺らは慣れてないから変な音が聞こえるんだ。きっとこれは鍛冶屋の人間には問題無い音なんだろう」

「そ、そうなんですか?どう見ても、割った音ですよね」

「光ちゃん…あっちゃって言ってたし」

「幻覚に幻聴だ。光を良く見てみろ。楽しそうに打ってんだろ?」

「た…確かに楽しそうに打ってます」

「でもあれって…破壊活動を楽しんでるんじゃないの?」

光は刀を叩きまくっていた。

少し経つと音が無くなった。どうやら完成した様だ。

「み…皆出来たよ?」

光は満足そうな顔をしながら僕らに見せて来た刀は刀と言うより、食用ナイフの様だった。

「お前は母親の何を見てたんだ!?」

「良く満足のいく物が完成した顔出来るな!」

「私は満足したよ?」

「刀は満足してねーんだよ。立ち直り不可能まで追い詰められてんだよ」

「え~~」

「ま…まぁいいんじゃないかな?竜ちゃんの刀ってこんな感じだった様な」

「お前はどっちをフォローしてんだよ!」

そんなやり取りを影で見ていた、いずみは笑いながら思った。

新しい仲間が出来ましたね。

思いっきり笑っている光を見て、そう思ったらしい。

とある基地にて。

「どうだ?そろそろ出来そうかな?」

「あ~いつでも構わねーぜ?既に奴はこっちに落ちてる。作戦通りだ」

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助太刀行きます異世界まで! 浅見一 @asamihazime

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