第10話 龍こ名を持つ侍
さぁ来い日咲。俺はいつでもイケるぜ。神速と怖れられたお前を倒して俺は更なる高みへ上る。
今井は日咲のスピードが視界から消えてしまう様な速さである事を知っていた。なので今井は日咲をより集中して見る。しかし、それでも消えてしまった。完全に視界から日咲が消える。そして今井は瞬きをし、目を開けた瞬間。
は!今井の目の前に刀があった。今井は無意識に体を反らし、日咲の攻撃をギリギリで避ける。今井は負けずと刀を振る。しかし既に日咲は消え、今井の後ろに居る。今井は振り向き様に刀を振るが、日咲はそれを避け、斬り掛かる。今井は二本目の刀でガードをするが、防ぎ切れず、体を軽く斬られる。 今井は一旦距離を取るが、日咲はすぐ近付き攻撃をする。
ここだ。今井と日咲の刀がぶつかる。しかし今井の刀が日咲の刀をすり抜け、日咲の体に当たる。
日咲は直ぐ様後ろに飛び、刃が体に入る前に離れた。お腹から少しだけ血が滲む。
危なかった。本当に何度見ても、現実じゃないと思ってしまうわ。刀が一時的にすり抜け、体にだけ当たる。初めて戦う人間は防いだと思う攻撃に斬られ死んでいく。でも私は知っている。貴方のトリックを。
「今のを避けるとはさすがだな」
「それはこっちの台詞よ。私のスピードにここまで食らい付いてくるとは」
「くっくっくっくっ。やっぱりお前との戦いは面白い」
「それは私も」
二人は再び刀を振るう。
今井の二刀流は他の人が使う二刀流とはレベルが違う。私のスピードで何とか対応はしているけど、あの剣をどうにかしないとならないわね。
日咲は今井のすり抜ける刀をなんとか避けているが、日咲が今は押されている状況だ。
やっぱりこの剣筋は見えないわ。今井の剣がこんなにも脅威な理由はその刀の持ち方。今井は刀を上にして持つ通常スタイルと、刀を下にして、釜の様にして持つ二種類のスタイルが使える人間だわ。しかも問題なのがその持ち替えが目に見えない位に速い。刀を上にした握りで私の刀とぶつかる。その瞬間に親指を下にして、刀を持ち替える。鎌の様に持ち、自分の腕と平行にして、相手の刀をすり抜けさせて斬る。それが今井礼侍の剣筋。二刀を持つ4刀流使いと呼ばれた男。
その頃アツキと風舞希の所に二人の人間が来ていた。
「ガキだと侮っていた。まさかこの人数を二人で殺るとはな」
「いくらゴミを倒しても意味はありません。私が相手になりましょう」
「相変わらずお前は辛いな~。まぁそんな所だ。相手になってもらうぜ」
そう言った二人の人間は他の人とはまるで違う雰囲気だ。
「構いません。誰が相手でも」
「言うようになったねアッキー。なら私はあの女の方を相手するよ」
「じゃー僕は男の方を。ところで貴方達は誰の息が掛かってる者なんですか?」
その人達の刀には丸いマークは無く、変わりに三日月のマークが入っていた。
「俺達の頭は……。今井礼侍。龍の器と呼ばれる男だ」
「今井礼侍…」
竜真さんの他にも龍の器と呼ばれている人間学居るのか。おそらくその人が日咲さんが言っていた黒幕。竜真さんが心配だ。でもここを通るにはこの人達を倒さなければ。
「さて始めようか。俺は黒銀(くろがね)こいつは純白(ましろ)だ」
「自己紹介なんて聞いてなーい」
真っ先に風舞希が斬り掛かりバトルが開始した。
「ガキのくせにいいもん持ってんじゃねーか?」「それはどうも」
アツキも黒銀とやり合う。アツキは本気で戦うが、黒銀は遊びながらアツキと戦う。二人の実力の差は圧倒的だ。言うなれば、ベテランと若手の戦いだ。
一方風舞希と純白は二人とも人を斬るのが好きで、お互い全開だ。
「貴女中々やるわね」
「そう?ならもっとギアを上げちゃおうかな」
感情も表さず、一定トーンで話す純白。
「私はただ貴女を斬りたい」
「そうは奇遇だね。私もだよ」
凄まじい戦いをする二人。そんな二人を見て「女は怖えーな」「いや、ここに居る女達が特殊なだけですよ」
その頃最上階は凄まじい戦いを繰り広げている組が2つあった。
「いい加減諦めて俺に斬られろよ」
「諦める?それは貴方でしょ今井」
二人は構え、同時に斬り掛かる。二人の刀がぶつかり、凄まじい音が鳴り響く。
凄い力。少しでも気を緩めたら、一瞬で押し斬られる。
日咲は全ての力を掛け、今井と押し合う。
イケる。私が押している。
日咲の力が今井を少しづつ押していく。
はーーーー。私はここで負ける訳にはいかない。?!居ない。今井が消えた。確かにここに居たハズなのに。
「くっくっくっくっ。ここだぜ日咲」
日咲は下を見る。そこには既に刀を持ち替え、すり抜けさせた今井の刀が自分のお腹に当たっていた。日咲は斬られ飛ばされる。日咲は壁に当たり、倒れ込む。
「くっくっくっくっ。お前も弱くなったな。安心しろ。辛いのは一瞬だ。直ぐ楽にしてやる」
今井は日咲の方へ歩き出す。すると日咲は立ち上がった。
何故だ?何故立てる。お前の腹は半分以上斬られ、生きているのが奇跡の様な状態なのに。
今井は日咲のお腹の傷を見て思う。
浅い。傷が浅い。殆ど血が出ていない。確かに俺は今、こいつを斬ったハズ。なのに何故そんな掠り傷なんだ?
今井は驚き一歩踏み出した瞬間、足が体を支えられなくなり、落ちる様に膝を床に着ける。
なんだ?どうなってやがる?
今井自身、何故体が動かなくなってしまったかを理解出来ていなかった。今井は右側の腰に違和感を覚え、手で触る。その手に付着した血を見て、今井は目を大きくする。
「持ち替えが速いのは貴方だけじゃないわ。私は貴方に斬られる直前、刀を持ち替え、腰に刺した。そのおかげで私の傷は浅くなったわ。弱くなった?笑わせないで。それは貴方もでしょ?今井礼侍」
「くっくっくっくっ。なるほど。面白い。確かにお前はまだやる様だ。だがなもうタイムタップの時間は直ぐそこまで来ている。最初の隕石が落下する5分前にこの世界は消える」
「そんな事はさせない。他人の人生を他人が縛るなんて。人は生まれた時から自由よ」
「だがな日咲。一体誰が皇帝を止めると言うんだ?」
今井が見ている方向を日咲も見る。「竜!」
そこに居たのは、壁にもたれながら座り込んでいる竜真の姿だった。床には血溜まりが出来ていて、肩で呼吸をしているのがやっとの様だ。
「その程度か龍の器と言うのは。残念だったな。お前なら私を楽しませてくれると思ったのだが、君の龍は既に死んでいるらしい」
日咲は皇帝の言葉にキレて、襲い掛かる。
「うぉーーー」「止めておけ」今井の声に止まる日咲。
「ここでお前が皇帝と戦った所で意味は無い。皇帝は竜の餌だ。もしお前がここで皇帝に斬り掛かるとするならば、俺はお前をこの場で殺す」
「私がそんな脅しで止まるとでも?」
「くっくっくっくっ。脅しじゃねーさ。マジだぜ?お前も分かってるんだろ?竜が昔に比べて弱くなったと」
日咲は刀を鞘にしまい、今井の話を聞く。その間、竜真は皇帝にボコボコにされていた。
「ここまで歯向かって、私の邪魔をしたのだから、そう簡単には死なせないさ」「グハッ」
皇帝は剣を使わずに、殴ったり蹴ったりして竜真を苦しめていた。日咲はその状況に目をつぶり、今井の話を聞く。
「昔の竜は強かった。一人を除いて誰の手にも負えない程に。しかし俺らと別れ、自分の道を進んだ」
「それが何だって言うのよ?」
「周りに自分と同等かそれ以上の人間が居なくなると、必然的に本気で戦う事が無くなる」
「それはそうよね」
「そう。本気で戦わなくても勝てる。言い方を変えれば龍の力を使わなくても勝てるって事だ。その結果、龍は眠り。ただ強い侍に成り下がったって事だ」
「龍が眠る?ならその龍を起こす方法は無いの?」
「あるさ。この今の状況」
今井は不気味な笑みを浮かべながら話を続ける。
「今竜は自分より強いかも知れねー相手と戦っている」
「それで目覚めるの?」
「いや、それだけでは目覚めない。だからお前に力を使わせ、俺も使った。近くで同類の龍が暴れていれば、当然眠っている龍が目を覚ます。つまり龍が目覚めるのは時間の問題だ」
「貴方どっちの味方なの?」
「くっくっくっくっ。どっちの味方でもないさ。皇帝との取引は終わってるしな。俺はただアイツを、坂本竜真という男の全てを殺し尽くしたいだけだからな」
「まだ貴方の戦いは終わらないのね」
「終わらねーさ。どちらかが倒れるまで」
「そう。それについては私は何も言わないし、言える立場でも無いわ。ただもし貴方が竜を倒した時には私が貴方を殺す」
「くっくっくっくっ。それは楽しみだ」
今井は不気味な笑みを浮かべながら言った。しかしその笑みは、深く、何か裏がある様な。また悲しむ様な、様々な感情の笑みだった。そんな会話をした二人は竜と皇帝の戦いを見る。しかしこれは戦いと言えるのだろうが?あまりにも一方的だ。
「さて、そろそろ止めを刺すか」
竜真は消えかかっている意識の中で思う。
俺は負けるのか?俺が負ける?確かに文字通りやられ過ぎた。こんな所で死ぬとは、俺も焼きが回ったもんだぜ。ここで終わりなのか?ドクン。本当にこれで終わりなのか?ドクン。誰も守れず、誰も救えず、死んで行くのか?ドクン。冗談じゃねー。俺は。ドクンドクン。俺は。ドクンドクンドクンドクンドクン。
「龍の使い手。坂本竜真だ!」
竜真が急に立ち上がり、刀を振るう。皇帝はその攻撃を防いだが、勢いは殺せず、足を床に着けたまま後ろに飛ばされる。皇帝は膝を着き、竜真を見る。
龍だ。龍が見える。
「くっくっくっくっ。どうやら本当に目覚めちまったみてーだぜ?」
「あれが…竜真。龍の名を持つ男」
竜真の体を考えてると立ってるのがやっとのハズなのに、スピード、パワーが格段に上がり皇帝は圧倒していく。
クソ。クソ。何で当たらねーんだよ。俺が先読みして、お前がそこに居るのは分かっているのに対応される。どんなスピードしてるんだこいつ。新撰組の局長より速いんじゃねーか?
「竜は昔から間合いの使い方が抜群に上手かった」
「あぁそうだな。端から見ていると、どうって事ないが、いざ戦うと速すぎて見失う事もある。絶対当たると思ったタイミングで避けられ、避けれると思っても当てられてしまう。そんな現象が本当に起る」
「戦った人間は皆口を揃えて言うわよね。まるで龍に体を巻き付かれた様に全方位から攻撃されると」
「くっくっくっくっ。やっぱり竜は面白い。これで楽しみがまた増えたな。俺はもう帰る。ここに居る必要も無くなったからな」
今井は腕時計に向かって話す。どうやらトランシーバーの様な機能が付いているようだ。
「黒銀。純白。今日はもう終わりだ。帰るぞ」
そう言われた二人は、風舞希とアツキとの戦いを止めた。
「どうやらここまでらしい。じゃーなボウズ」
「ボウズじゃありません。海藤アツキです」
「そうか……ボウズ」
「今何を聞いていたんですか」
「貴女も終わりなの?」風舞希が純白に聞く。
「うん。終わりだって」
「え~。もっとやろうよ」
「うんうんうんうんうん」首を何回も上下に動かし、黒銀にアピールする純白。
「駄目だ。隊長が終わりってんだから。帰るぞ」
「純白ちゃん。またしようね」
「そんなまた会おうみたいに言わないでくれる?」
純白は手を交互に上下に動かし、足をバタバタさせていたが、黒銀に襟を捕まれ、連れていかれた。そして二人はリングを使い、消えていった。
「あ~あ。行っちゃったね」
「そうだね。って何かおかしくね!敵だよ?一応」
「私は敵を友と呼ぶからさ」
「そんなどっかの言葉を使わないでくれる?ってこんな事してる場合じゃなかった、早く上に行かないと」
「そうだね」
風舞希とアツキは上の光が居る階層向かった。最上階では竜真が皇帝を圧倒していた。
「さて俺はもう帰るさ」
「こんな事して、逃げられるとでも?」
「お前じゃ俺は捕まえられない。さらばだ」
今井はリングを使い、どこかの世界に飛んで行ってしまった。日咲はトランシーバー機能のある腕時計で月菜へ話した。
「月菜聞こえる?」
「聞こえてますけど」
「そっちの状況はどう?」
「どうって言われても、何とか踏ん張っている感じだわ。私一人なら余裕だけど民間人を一人も死なせないように戦うのは結構難しいわ。まぁでも何とか持ち堪えているのは外であの二人が戦っているお陰だわ」
外では一星と真二が兵士を一人もブランドタワーに入れないように戦っている。
「そう。あの二人なら安心ね。月菜」
「な~んで~すか?」
「これからこの場の指揮権を貴女に譲るわ。私は今井を追いかける。この場の指揮は任せたわよ」
「うん。私に任せて」
月菜は嬉しそうに答える。
後は頼んだわよ竜。
日咲はリングを使い他の世界に飛んだ。
「ハァハァハァハァ」
「どうした?誰が座って良いって言った?立てよ」
「クソ。私が負けるなんぞあってはならない。絶対にあってはならない」
皇帝は竜真の刀を避けた。
「私は負けない。負ける訳にはいかない。辛い思いをして死にたくないと思っている人の為に」
皇帝は今までとはまるで違うスタイルで攻撃をする。竜真はそれを避け続けるが、顔からは余裕が無くなる。皇帝はこの時、自分の為では無く、人の為に剣を振るった。人の為に戦う人間がどれ程強いのか、竜真は知っていた。
こいつ。到頭吹っ切れやがった。その剣に迷いが一切無くなった。なんだよ。ただの悪党かと思ったがこいつも剣士じゃねーか。 なら尚更こいつを止めなければならねー!
竜真は最後の力を振り絞り、皇帝との最終戦に入る。
坂本。お前は強い。だからこそ俺が倒す。
負けらんね~。他の何かで負けたとしても、競馬とこの勝負だけは負けられねー!
「うぉーーーー!」
「はぁーーーー!」
二人の全てを掛けた戦いは凄まじく、見る者を寄せ付けなかった。一太刀一太刀で体の血が傷口から吹き出し、床を赤く染める。二人の表情は歯を食い縛り、獣の様な形相だった。特に皇帝は、皇帝とは思えない顔をしていて、ただの負けず嫌いの剣士の顔だ。
二人の剣がぶつかる。そのタイミングで分かってたと言わんばかりに皇帝が竜真の腹に拳を突き刺した。竜真の顔が歪み、口から血が飛び散る。
「くっ」竜真も負けじと、鞘で皇帝の腹を殴り飛ばす。二人は離れ、倒れる。二人とも立つ事が出来ない。それでも二人は立とうとする。体の状態を考えると立つ事なんて不可能なのだが、二人は強い信念で何度も立ち上がる。
「負けられねー」
「負ける訳にはいかない」
二人は立ち上がり、走って斬り掛かる。
「うぉーーー」
「はぁーーー」
どっちが勝ってもおかしくない勝負。しかし竜真の体は皇帝以上にダメだった。
何…… 。竜真の足が崩れ、倒れていく。
「もらった」皇帝の一太刀をこの状態の体で浴びてしまった。竜真は飛ばされ、意識が消え、目からは光が消えてしまった。
外は太陽が沈み掛け、黄昏時を迎えていた。
「ハァハァハァハァ。一体何人斬ったすか?」
「そんなの数える暇なんて無いですよ」
「そうっすよね。いよいよ万事休すっすか……」
一星と真二はブランドタワー入り口を背中にして、立て膝をついている。まだまだ大量の兵士が居て、二人は戦意喪失している。
「まったく誰ですか?こんな場所を任せろとか大口叩いたのは」
「それは一星っすよ。それにしてもこれからどうするっすか?ここを突破されれば全て終わりっす。でも俺らには止める力が」
「何言っているんですか?こんなの、普段やってるお菓子争奪戦に比べれば緩い方ですよ」
「お菓子ってそんな争奪戦になるような物なんすか?」
「当然です。お菓子争奪戦はそんなに甘くはありません。いつも長い刀を持った女が居るんですよ」
「それってあの子なんじゃ…」
「さて。十分休みましたし行きますか」
一星は立ち上がる。敵は襲い掛かっては来ない。まるで勝ちを確信したかの様にゆっくりとこちらに歩いてくる。
「行くって、勝てるっすか?この人数相手に」
「勝つに以外に選択肢なんかあるんですか?もしここで死ぬなら私は生まれた時に腹を切っています。それに真二は死にませんよ?だってこんな所で死ぬ侍は、私は知りませんっす」
一星は笑って真二に言った。
「まったく。とんだ上司っすね。まぁ嫌いじゃないっすけど。これが終わったらお菓子をたくさん買いに行くっすよ」
「うん。でも死亡フラグだから気を付けて下さい」
「言った後に気付いたんで言わないでもらえるっすか?」
二人は構え突撃した。
その頃光はレンとの最終局面に入っていた。
「ハァハァハァハァ」
「光。お前こんなに強かったのか?」
「私なんてまだまだだよ。あくまでこの世界ではの話。他の世界から来た人間にあっさり私もレンも負けたしね。私は思ったよ。今見てる世界はほんの一部に過ぎないって。世界っていうのは私達が思っている以上に広いみたい。だから私は生きて、色んな世界を知りたい」
「バカじゃねーの?俺達はこの世界と共に沈む。それが定め。だったらさ」
レンが斬り掛かり、光が防ぐ。
「少し位死ぬのが早くたって、人間らしく死ねるのなら良いんじゃねーか」
「バカは貴方よレン。確かにレンの言う通り人はいずれは死ぬ。なら聞くけどなぜいつかは死ぬと分かっているのに人は今日を生きるの?何故生きていけるの?」
「そんなの知る訳無いだろ」
「その通り知る訳無い。それは生きる人間の本能だもの。だから私は生きるわ。例えどんな結末を迎えようと死ぬ覚悟だけはしない」
「ずっと昔から一緒に居るのに、こうも考え方が正反対になるとはな」
二人はそれぞれ、互いの筋を通すため剣を振るう。それは相手が幼なじみでも関係ない。自分の目的を果たすには、互いに邪魔になる者を倒さなければならない。
もっと速く。もっと鋭く。
光はレンの速度に追い付こうと必死に戦う。一方レンは速度を揃えられないように緩急を付け攻撃をする。
へっ。楽しすぎるぜ。今まで何十何百と戦ってきたが、今日の戦い程楽しい勝負はないぜ。俺はお前の全てを斬ってやる。
何回も戦ってきた。でもそれは試合で相手を殺す気は一切無かった。でも今。こうして同じ目的で戦う。自分の全てを出して、剣を振るう。うん、必ず殺す。
二人の脳裏に、幼少の頃からの戦いが蘇る。小さい頃から一緒だった二人は、いつも争って戦っていた。
「ちょっとレン。そのオモチャ私のでしょ?」
「は?これは前から俺だ」
二人は常に一緒で何でも同じ事をしていた。
「次は釣りしようぜ」
「じゃーどっちが釣れるか勝負」
そんな事ばかりしていた二人は剣士になり、道を探しだす。そして二人は今別の道を歩き、交差している。二人は自分の道を信じ、自分が正義だと信じてそこに立つ。
「レンーーー!」
「光ーーーー!」
二人は思いっきり走って斬り掛かる。二人は相手に向かって動き出す。しかしレンの方が僅かに速く、レンの剣が先に光に当たりそうだ。
その時レンは気付く。自分が踊らされていた事に。
何だと。止まってやがる。
光は剣を振ってはいなかった。剣を振ったのはレンだけだった。その瞬間を光は見逃さず、十数年の全ての力を剣に伝え、光は最後の剣を振るった。
いつも俺に着いてきていたお前がいつの間にかに俺に並び、こうして俺を越えるなんてちょっと前までの俺なら分からなかった。でもお前の全てで斬られた俺には分かる。はっきり分かるよ。お前の歩くべき道が。お前がその道をを信じるなら、構わず進め。残念ながら俺の道はここまでらしい。だがお前の道はまだ先まで続いている。だから進め、その先に何かがあると俺は思うぜ。光。今まで側に居てくれてサンキューな。
レン。今まで貴方が目標で私は頑張ってきた。レンに着いていけばきっとそれが正解なんだろうって。でも分かったの。それじゃつまんないって。私は私。レンはレン。自分のやりたいようにするのが一番でしょ?それにお母さんを斬った貴方を許す事は出来ない。だから私はここで止まる訳にはいかない。それが私の決めた道。レン、今までありがとう。
光は涙を流した。しかし顔はいつもの様に笑っていた。
「光」「光ちゃん」そこに風舞希とアツキがやって来た。
「二人とも。今は先を急がなくちゃ」「うん」「そうだね」
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