第86話 ずるい女
策士現る。
【先輩、大事な話があるので今週どこかで2人きりで逢えますか?】
——送信!!
ドキドキする……本当に送っちゃった。
「花ちゃん……どうしよう送っちゃった。もう後には引けないよね……」
「コリッコリコリコリ」
「えっ!?『頑張れ!最近愚痴聞いてたお礼は人参5本でよろしく』って……嫌ですよ!?花ちゃんの言う人参ってアレでしょ!?アルティメット・キャロットでしょ!?あれ、高いんですよ!!」
————その日の深夜。家主が寝静まった頃、花ちゃんは動いた。
『プルルルルル、プルルル……ガチャ……どうしたのよ、こんな時間に』
「さくら姉さん、どうしても伝えておきたいことがあるのです」
『……聞きましょう』
「うさうさしかじか……という訳なんです。多分さくら姉さんの旦那?さんに告白する可能性があります」
『なるほどね。とうとう彼女が動きはじめるのね。まぁ良いわ……好きにさせておきなさい。べつに告白させたら良いわ』
「良いのですか……?」
花ちゃんは驚いた。
まさか自分の雄を他の雌が奪いに来るというのに、何もしない獣がいるとは思わなかったから。
『花ちゃん、私はどんなに可愛くて天才で魅力的でも所詮は"獣"よ。そして彼は"人間"。美女と野獣みたいな夢物語は無いのよ。獣は獣。人間は人間。残念だけれど、普通に恋愛して結ばれるなんてことはありえないのよ。彼があの女と恋をするなら仕方ないわ……。でもね、花ちゃん考えてみなさい?"妻"と"彼女"ならどっちが格上か。彼のことが好きと言いつつ"彼女"になりたいなんて、その時点でダメダメよ』
「なるほど……そこまで考えてるから押しかけ女房なんですね」
『恋は"下心"。愛は"真心"。彼の"愛"は私のもの。それは譲らないわ。それに彼女の告白場面には乗り込むわよ。好きにさせてあげるだけで、黙って見てる訳ないじゃない』
「やはりさくら姉さんはカッコいいです」
『ふふ、ありがとう。教えてくれて助かったわ。お礼はアルティメット・キャロット10本で良いかしら?……じゃあ、もう切るわね。おやすみなさい』
「はい!おやすみなさいです」
(ふっふっふ……アルティメット・キャロット計15本ゲットです)
策士現る。
家に帰るとカワウソが妻のフリをしてきます。 くろもふ @kuromofu
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