第85話 一歩前進

全力前進



 面白くない。


「この資料なんですけどぉ、まとめておきましたぁ♪」

「ありがとう。助かるよ」


 むむむ……とてつもなく面白くないです。




 皆さん覚えてますか?

 先輩に色目をつかう、今年入社した女子社員を。

 社員番号1164番、通称"虫"。


 入社したての頃は先輩にベタベタしまくりで、先輩もあの新入社員の扱いに困っていました。

 私はシルヴィアさんの作戦通りに、虫のウザさを逆手に取り、疲れた先輩を癒すという立ち回りで、さり気なく先輩からの好感度をあげていたんですが……。


 最近、あの子も仕事ができるようになって、何やら先輩と仕事をすることが増えてるんです。


 先輩は基本的に優しいので、虫の昔の態度は水に流し、仕事ができる子として可愛がってる気がします。



「終わってすぐで悪いんだが、次はこっちのデータを整理して貰っても良いか?」


「わかりましたぁ!……あっ、でも少し疲れちゃったので、何か甘いものが食べたいなぁ……なんて思ったりして……。持ってたりしませんか?」



 あ゛ぁ゛!!

 あんな上目遣いで先輩のこと誘惑して、あざとすぎますよ!

 シルヴィアさんは何をしてるんですか!?

 あれは先輩に害ですよ!!排除ですよ!!



「ったく、仕事中なんだからあんまり調子にのるなよ?……ほら、キャンディしかないけどそれで良いか?」


「ありがとうございますっ♪何味のキャンディですか??」


「魚肉キャンディだ」


「え゛っ?」



 うぅ、羨ましい……。

 私も先輩からキャンディ貰いたいよ……。


 ……魚肉以外の。







「ただいまー。花ちゃん!花ちゃんいますか?」


 ……

 …………


 最近は家に帰ってから、花ちゃんに愚痴を言うのが日課になってしまった。


「それで、あの虫が『今度うちに遊びにきませんかぁ?うさぎ飼ってるんですよぉ♪』とか言ってやがるんです。うさぎなら私の所にもいるっつーの」


「コリコリ。コリッコリッ」


「ちょっと酷くないですか!?『ウザい、話しかけるな』って!!一体どうやったら私に懐いてくれるんですか?」


 花ちゃんは私のことが嫌いなのか、態度がかなり冷たい。

 何か人参がどうのこうの言ってたので、アルティメット・キャロットで恨まれてるのかもしれない。



「コリコリ、コリコリ」


「『よく知らないけど、あの人はいい雄。さっさと交尾して番いになれば良い。他の雌に盗られても知らない』って、ちょっ……何言ってるんですか!!私はそんな変態じゃないです!……でもまぁ、動物からしたらそういう考えなのかな……」


「ココリ、コリコ、コリリ」


「『さくら姉さんが、あの雄と仲良いのは気にならないの』って、そりゃあ気になりますけど、さくら先生のことは尊敬してますし……さくら先生は良きライバルなんです!だけど、あの虫はダメです!」



 うーん。モヤモヤがおさまらない。私ってこんなに嫉妬深かったんだ。付き合ってもいないのに……てか、先輩は絶対に私の気持ちに気づいてるはずなのに、こんなの生殺しです。



「コリコリ、コリコリ」


「『発情期の雌は突き進むのみ』……言い方!!!」



 そうですね。

 そろそろ踏み込むべきですよね。

 恋する乙女の力を魅せてやる!!



【先輩、大事な話があるので今週どこかで2人きりで逢えますか?】


 メール送るよ?

 送っちゃうよ!?



全力前進

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る