第84話 サバップル

お味はいかが?



 日曜日。

 時刻は午後3時になったところだ。


 今日はさくらさんが3時のおやつとしてパイを焼いてくれるらしい。

 リンゴを買ってきていたので、きっとアップルパイ・・・・・・だろう。


 ……

 …………


「きゅっ」


 どうやら出来たらしい。

 熱々のアップルパイ・・・・・・が目の前に置かれた。


「じゃ、いただきます」


「キュッッ!」


 早速食べようとして、ナイフとフォークを持つ手を尻尾でペシっとされてしまった。

 …………何故?




 ピッ


「〜〜〜♪〜〜♪」


 さくらさんがテレビをつけた。

 どうやら食べる前に見ろってことらしい。

 番組は…………よくある料理番組っぽいな。


 ほんと、よくある料理番組だった・・


 途中まではな——。



「今日はサバ料理のプロフェッショナル、カワウソのさくらさんにお越し頂きました〜」


 エプロン姿の司会の女性がとんでもないことを言い出した。


「さくらさんの右にいるうさぎは、アシスタントの花さんです。よろしくお願いします〜」


 あいつは後輩のとこにいるうさぎか……?


「花さんの右にいる人間は、通訳の方です。よろしくお願いします〜」



 !?


 なんであいつが……。

 確かにカワウソの言葉を理解して、うさぎのモールス信号を解読できるのは後輩くらいしかいないが……。



「では、さくらさん!今日はどんなサバ料理を作ってくれるのでしょうか?」


「きゅっきゅきゅ」


「えー……、通訳さんお願いします」


 何だこのやり取りは。安っぽいヤラセ番組を見てるみたいだ。


「はい!サバップルを作る……って言ってます」



 サバップル??



「あーサバップルですか!また珍しいものを選びましたね〜」


 何なんだサバップルって。

 聞き慣れない単語に戸惑っていたら、司会がちょうど説明をしてくれた。


「サバップルは青森のお菓子ですよね〜。サバとリンゴ……アップルパイを組み合わせてるからサバップルって言うんですよね〜」



 アップルパイ・・・・・・だと!?


 まさか……。



 俺は思わず目の前に置いてある、焼きたてのパイを見てしまった。


 サバとリンゴだと?

 なんて凶悪な組み合わせしてるんだ。

 本当にサバップルなんて存在するのか?

 

 俺が戸惑ってる間にも番組はどんどん進行していく。今は作り方を説明してる所だ。


「きゅい。きゅっっきゅー」


「アップルパイを作る感じで、途中にサバをフレーク状にしてぶち込みます。以上!……って言ってます」



 雑っ!!!


 いや……まぁそれしかないのかもしれないが……雑過ぎるだろ。



「ところでサバップルって美味しいんですか?私、食べたことなくて〜」


 ナイスだ司会!よく聞いた!

 今、視聴者の大半の気持ちを代弁したぞ!




「…………正直微妙です。ねっ、さくら先生!」


 と、良い笑顔の後輩。


「キュイキュイ」


 と、腕を組みながらうんうん頷くカワウソ。


「コリッ……コリコリ」


「あ、人参こそが至高の食べ物……って言ってます」


 と、いまだ何もアシストしていないアシスタントうさぎ。



「ははは……」


 お前らが微妙って言うから、司会の笑顔も引きつって微妙な顔になってるじゃねぇか。



「しかもサバップルって、ソースとマヨネーズをかけて食べるんですけど、そうするとさらに微妙になります」


 後輩が容赦なく追い討ちをかけやがった。



 それにしてもサバ、リンゴ、ソース、マヨネーズとか全く味の想像ができない。

 ……ぶっちゃけ食材だけ聞くと食べたくないぞ。


 そんなことを思いながらテレビ画面を見ていたら、困った表情をしている司会にさくらさんが声をかけていた。



「きゅい、きゅきゅいきゅうきゅ」


「でも、どんな料理も"愛情"を込めれば美味しくなる。それを今日は証明する為のサバップルよ……って言ってます」


「コリッコリッ」


「花ちゃんも愛情は大事と言っています」



 ————プツン。



 良いところでテレビのスイッチが切られた。

 さくらさんはそのまま冷蔵庫からソースとマヨネーズを持ってきて、目の前のパイにかけ始めた。


 ……そうか。やっぱりサバップルなんだな、これは。


 ソースとマヨネーズをかけ終わったさくらさんは、『さぁ召し上がれ』と言わんばかりの態度で満足そうだ。





「ふっ……いただきます」


 笑ったらいけないな。


 さぁ、ソースとマヨネーズで『愛』とでっかく書かれたサバップルをいただこう。



お味はいかが?

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