第83話 レイド戦②

ゲームは真剣勝負。



 さくらさんがボスとして待ち受ける……。

 どう考えても厳しい戦いになるだろう。


 チュートリアルが終わると、俺と後輩のパーティーは闘技場のようなステージの入り口に立っていた。

 俺と後輩以外にも3人のメンバーがいる。みんな廃人と呼ばれるほどやり込んでいるらしい。時間がない社会人向けの、冒険もないゲームをやり込むという謎の思考の人達だ。

 彼らは質問のパターンを解析して、ある程度狙ったキャラを作り出せるらしい。

 そんな彼らのステータスだが——


(少し覗かせてもらおう。『鑑定』)


廃人A

lv.84

職業:闘剣士

特殊能力:物理攻撃ダメージアップ

HP:858

MP:159

攻:324

守:295

知:125

速:232


廃人B

lv.82

職業:賢者

特殊能力:消費MP軽減

HP:512

MP:952

攻:65

守:175

知:412

速:158


廃人C

lv.87

職業:勇者

特殊能力:戦闘時全能力アップ

HP:745

MP:512

攻:274

守:256

知:219

速:201



 初めてやるゲームだから、これが強いのかどうかわからないが、廃人なんだし相当強いのだろう。

 流石のさくらさんも廃人には勝てないのでは?

 そもそもボス側なんか選ばれることがあるのか?


「じゃあ行こうか」


 どうやら勇者である廃人Cがリーダー的な役割をするらしい。

 まぁ初心者である俺たちは大人しくついて行くだけだな。



 ボス戦の前にステータスをもう一度確認しておこう。


lv.68

職業:召喚士

特殊能力:戦闘中1回だけ他プレイヤーを召喚できる

HP:452

MP:658

攻:95

守:108

知:243

速:145


 俺のステータスは戦闘向きではないな。

 どちらかというと支援タイプだろう。召喚を使うタイミングが鍵だな。


 ……後輩のステータスも見ておくか。


後輩

lv.54

職業:女盗賊

特殊能力:敵から狙われにくい

HP:380

MP:290

攻:175

守:160

知:105

速:243


 やはり俺たちは廃人に比べると弱いな。



「着いたぞ。この扉の先の闘技場にボスがいるから、みんなで倒せばゲームクリアだ。君らは初心者だろう?まずは僕たちを支援しながら自分の身を守ってくれ。攻撃は僕たちがやるから、余裕があれば君らも攻撃に参加してくれ」


「わかった。ちなみにボスもプレイヤーなのか?」


「いや、基本は魔王と呼ばれる常設モンスターだね。稀にレアボスとして天使や悪魔なども出てくるけどプレイヤーはあくまでも冒険者側だよ」


 廃人勇者が丁寧に指示や説明をしてくれた。ボスはプレイヤーではないと言う。さくらさんはどういう扱いなのだろうか……。



「じゃ、扉を開けるよ。…………ほらあそこに見えるのが……ま……おう。——なんだっ!?あのモンスターは!!レアボスか!?可愛いけど、巨大なカワウソのボスなんて見たこ『バンッ』」


 バンッと何かが破裂する音とともに、最後まで喋りきることなく廃人勇者がやられた。


 いや、廃人勇者だけじゃない。

 廃人は——全滅だ。


「『カワウソ弾』——百発百中の弾丸。私が可愛いカワウソだからって油断しちゃダメよ」


 なんてことだ……某ゲーム……ポ○モンのダイマッ○スみたいな姿のカワウソが廃人を瞬殺しやがった。


「さて、次は貴方達の番よ!来なさい!!『闇カワウソの群れ』」


————。

——————。





「はぁ……はぁ……。強過ぎるだろ……。廃人達は瞬殺で後輩は落書きまみれ……。流石さくらさん、ゲームといえど容赦がない。……『鑑定』」



さくら

lv.100

職業:獣の女王

特殊能力:最凶

可愛さ:極

カワウソ:極


「……っ!!なんてステータスだ!よくわからない!!」


「ふふふ、貴方も覚悟しなさい。そうだわ!!負けたら貴方の明日のお弁当は、魚肉ソーセージを溶かして固めた魚肉キャンディにしちゃおうかしら!」


「くっ……」


 恐ろしいことを勝手に決めやがる……。魚肉キャンディなんて、響きからして絶対に食べたくないぞ……。


 こうなったら"召喚"で廃人より強いやつが出るのに賭けるしかない——。


「どうしたの?来ないの?……なら、あっけないけど終わりにするわよ!『カワウソの輪舞曲』」


 巨大さくらさんが華麗なステップを踏み始めた。

 このままじゃマズい!!





『召喚』




 ——眩い光の魔法陣が足元に広がり、唸るような轟音とともに何者かが現れた。


「頼む!俺を助けてくれ!」



 ぽんっ


 可愛らしい音で召喚が成功した。




「カァァァアーーー」


 ——光り物の守護者。——カラス!!





「なん……だと……。カラスなんて戦えるのか……?お前もプレイヤーなのか?……ダメだ。もうお終いだ……『鑑定』」


 カラスなんかじゃ、さくらさんに勝てる訳は無いと思い、すでに頭の中には魚肉キャンディを食べてる自分の姿が浮かんでいたが、僅かな望みでカラスのステータスを見た。


シルヴィア

lv.150

職業:聖女

特殊能力:全ての魔を打ち払う

HP:999

MP:999

攻:999

守:999

知:999

速:999



「っ!!!いける!これならいけるぞ!!」


 圧倒的なカラスのステータスに勝機が見えてきた。全ての望みを託して俺はカラスに叫んだ。


「あの巨大カワウソを倒してくれ!!任せたぞ!!」


「カァ!!……お覚悟をさくら様」


 カラスが鋭い目をしながら、さくらさんへと向かっていった。

 迎え撃つさくらさんがボソッと何かのスキルを唱えた。



「……シルヴィア、あなた、覗き見しなくて良いのかしら?表舞台に出てしまうの?」


「!!!!……カァァァアーーー」


 バサッバサッ……バサッ



 カラスは飛んでいった。



「何をした!!カラスは何でいなくなった!?」


「私の職業は獣の女王よ?獣のことは何でもわかるわ。彼女に自分の役割を思い出させただけよ」


「……ちくしょう……」




GAME OVER







次の日——。


「魚肉キャンディ……意外と悪くないな」





ゲームは真剣勝負。

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