怖い話20【エロい生足】1700字以内

雨間一晴

エロい生足

「あー?なんだぁ、ここは?」


 バーコード頭をかきむしりながら、お腹の張ったスーツ姿の男が、目を覚ましてぼやいた。

 路上の自動販売機に、倒れかかるように眠っていたらしい、顔は赤く、相当飲んでいたのだろう、足をふらつかせながら、立ち上がった。


「んー?あれえ、カバンが無いぞ?財布に携帯もない、あー?」


 寝ている間に盗られたのだろう、頭が回っていないのか、別に気にする事なく、よたよたと歩き出した。盗られずに済んでいた、金色の趣味の悪い時計は、午前二時を差していた。


 深夜の商店街を、スズランのように、お辞儀をした街灯が微かに照らしている、並ぶシャッターが鈍い灰色を光らせていた。


「まぁいっかあ!カラスが鳴くからあ、帰りましょおーっと、おー?」


 一人の女が歩いている、セクシーなオフィスレディだ。黒いスーツにタイトなミニスカートから白い足が伸びていた、やや深めのスリットに男は引き寄せられるように付いて行った。


「いいねえー、後ろ姿もセクシーだねえー」


 女に聞こえないように小声でいやらしく呟いて、ニヤニヤと後ろを千鳥足で付いていく。女の腰にかかる長い黒髪が優雅に揺れている。


 女は商店街の大通りを横切るように、路地裏から路地裏へと歩いていき、黒いハイヒールが、歩く度に男の胸を高鳴らせていたのだろう、鼻息が荒くなっている。


 しばらくエアコンの室外機や、配管が並ぶ路地裏を歩いていると、どこからか黒猫が尻尾を立てて女性に近づいてきた。


 女が横を向いてしゃがみ、黒猫を撫でようとするが、軽く逃げられて途方に暮れていた。メリハリのあるボディラインが街灯に照らされている。


 男は三メートルほど後ろから、女のしゃがんだ足を、細い目を更に細めて観察していた。横顔は黒髪に隠れて見えないが、男が何を見ようとしてたのかは分からない。


「うう、もう少しで見えそうなんだが、くそう……」


 じりじりと男が近づくと、思い出したかのように女は立ち上がり、また高らかにハイヒールの音が響き始めた。


「もう我慢出来ない!どうしても顔が見たい、美人に違いない」


 男は早足になり、ついには女を追い越した。


「こんな夜中に危ないから、私が送ろう……」


 男が振り返りながら、女に正面から話しかけた。語尾が弱々しく路地裏に吸い込まれていく。


 眉毛にかかる黒髪の下に、二つの丸いくぼみが男を見つめていた、眼球が無い。その虫食いの穴のようなくぼみから、きゅうりくらいの太さの、全身赤いムカデが垂れ下がっている。黄色い足がワサワサと白い顔面を覆うように這っていく。二本の角の様な触覚が異常に長かった。


「う、う、ふふ、やっと来てくれた。待ってたのよ、ふふ、ふふふふふ」


「うわあ!」


 男は驚いて腰を抜かし、バタバタと必死に逃げようとするが、その場を泳ぐだけだった。


「今日も一人釣れた……。ふふふ、美味しそう。ふふふ。ふふ、あは、あはははははは、う、うぼおおえ」


 女は口から手のひらサイズの黒いムカデを吐き出した、相変わらず顔面をせわしなく赤いムカデがうごめく隙間から、ぼたぼたと地面をムカデが染めていく、すごい量だ。


「い、い、やめてくれ!は、は、ひ、頼む、助けてくれ!」


 男が泣き喚き懇願しながら、やっと立ち上がり逃げようとするが、何百ものムカデが、地面を鳴らしながら男を足元から包んでいく。


「ふふふ、沢山お食べ」


 男のシルエットのまま、ムカデの玉となり、中からうめきが響いている、アスファルトの地面に血が広がり、マンホールの溝を赤く彩っていく。


 目のくぼみから、物欲しそうに赤いムカデが、ムカデ玉の方に体を伸ばしていた、女はそのムカデの頭を人差し指で優しく撫でていた。

 

「お前も食べておいで、残すんじゃないよ」


 ぼとりと、音をたてて眼球のくぼみから地面に落ちたムカデは、軽く一メートルはあった。カタカタと音を鳴らして晩餐に加わっていく。


「男は簡単ね、ふふ、いつか私を抱いてくれるような人がいると良いけど、はは、居る訳ないわよね。ふふ、くくく」


 しばらく路地裏に、ぶちぶちと、ちぎるような咀嚼そしゃくの音が響いていた。

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怖い話20【エロい生足】1700字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu

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