SOL.12:そんな訳で混迷を極めて来ました










 葬儀の様子は、すぐ近くのBHI本社にもよく見えていた。


 ビルの窓から、下に灯る灯りと死体袋の山を、静かに鎮痛な面持ちで見る人間が一人。


 作業着のまま下に鎮痛な面持ちを見せる少女────フィーネ。


「見たって、死人は生き返らないでしょうに」


 ふと、背後からそんな声と共に、疲れた顔で自販機のカップコーヒーを片手に現れるブリジット。


「……すみません」


「彼らは残念でした。

 謝る理由はないでしょうに」


「…………それは、」


 やがて、フィーネは悲しみの顔をあげて、されどはっきりと言う。













「私が、あなた達に技術を流した宇宙人、でもですか?」










 その言葉に対してすぐ答えず、ブリジットはまずコーヒーで口直しをする。


「…………あなたのもたらしたもの無かったら、この5倍死んでるはずでしょうに。

 どのみち止まれないでしょう?


 ───


 それこそが今は重要な案件でしょうに……」


 ぎゅ、とその言葉に、胸の前で手を握るフィーネ。






「ほう、そりゃ聞き捨てならんですなぁ」





 突然、そんな声と共に、ガシャンと音を立てて外れる天井の一角。


「敵が他にもいると言うのであれば教えて頂きたく馳せ参じたでござるー」


 ひょこ、とそこから顔を覗かせるは、凪だ。


「っ……警備員呼びますよ?」


「どうぞ。既に会話は我が上司とお客さんの元に届いてますゆえにー」


「……お客さん?」


 と、シュタッと軽い身のこなしで降りた凪は、天井の穴へ手を伸ばす。


「ピコッ!」


 と、降りてくるはピコピコの一体。

 手でキャッチした自動掃除機じみた姿のソレは、何故か背中に無線機などが剥き出しのコードと共に繋がれている。


「……?」


 ふと、カーツッ、と無線の繋がる音が聞こえる。




『──はじめまして、C67星雲の方に、太陽系の人』




 突然、聞こえた電子合成音声に、驚く顔を見せるブリジットたち。


『驚くのも無理は無いし、実は言語学者である私も驚いている。

 音波帯で会話する生物は、何度も見たのに……


 我々は、それで複雑なコミュニケーションを取る炭素基礎生命体の出現を考えられなかった。


 いや、今も我々の上層部はあなた方を邪悪な生命体に使われる有機パーツがわりの可愛そうな動物だと思っているんだ』


「まさか……我々を知的生命体だと、認識した……!?」




『あなた方は、捕虜の待遇を良くしていた。

 もっとも、あなた方も我々を生命体と認識していなかったからだろうが』




 間違いなく。


 そのピコピコは、こちらを見て話していた。






『だからこそ、まずは話そう。

 我々は何故すれ違ったまま戦争を続けていたのかを、お互いに』







          ***






 木星圏、ガニメデ付近宙域、





『なんだ……何がどうなっている……!?』




 第12宙間戦闘小隊のスノウウィングのパイロットは、目の前の戦場に困惑していた。


 目の前で落とされる友軍機、そして敵機。


 落としているのは……『第3勢力』



『お前達は何者だ!?』


 放つレールガン。

 しかし、まるで宇宙に漂う雪のような粒子が突如丸い壁───Eエネルギーシールドのような物へと変わり、攻撃を防ぐ。


 その敵は、まるで西洋甲冑の様な二足型機動兵器。

 同時に、頭部がまるで竜を思わせる造形になっており、西洋剣に似た武器を奮ってこちらにくる。


『くっ……!』


 近接ブレードを引き抜いて受け止める。

 しかし、数秒で剣が斬り裂かれ、爆発。


 再び振り上げた敵の刃を前に、死を覚悟する。







 一閃






 しかし、斬られたのは敵の機体だ。


『何……!?』


 一刀両断された跡が尾のように伸びる先、何かが高速移動しながら敵を次々と斬り裂く。



 速い。この宇宙空間を切り裂く速度はまるで光の速度のようだ。



 再び、こちらの横を通り過ぎた時、機体を見ることができる。



 黒いスノウウィング。


 いや、訓練された動体視力ゆえに違うと分かる。



 各部スラスターが、特徴的な背部ウィング兼フレキシブルブースターがより強力な物になっている。



 だが、驚くべきはその武器と左肩。




「持っているのが、大型実体剣のみ……!?

 それに、あの西は……!!」




 剣を片手に、左肩にスペードのマークと西洋騎士の顔と掲げられた剣のエンブレム。







「まさか、!?!


 SSDFファイブカードの一人……!?!」








 驚くパイロットは既に遠く、


 黒い騎士が宇宙を飛ぶ。









          ***




 撃破。

 敵はこちらの武装で充分切り倒せる相手だ。



「新たな異星人か。

 こう次々と来られては、地球圏も穏やかではないな!!」



 黒いカラーの、『ブライトウィング』に乗るパイロットがそう呟き再び一機を星屑に変える。



「ルルの仕上げた機体とOS、なかなか良い!

 乗る時間に比例して、馴染む!!違和感を消してくれる!!

 素直な名馬だ……荒馬も嫌いではないが、これは良い!!!」



 竜の顎を開いてやってくる新手。

 他の西洋甲冑とは違う形、何よりカメラがとらえる装飾が派手だった。



「ほう……エースか、あるいは指揮官機か!!」



 叩き込まれた剣に感じる重さ。

 熟練されたマニピュレーターの動きと、ほかと違うパワー。

 鍔迫り合いは───しかし互角!




「我が剣と互角なのは、テッショウ先生以来か!!

 そしてこのパワー……BBBトリプルビーに乗り変えていなければ、負けていたのはこちらか!!」




 キックで距離を取る。

 だが、相手はひらりと体勢を整えてこちらに反撃。


「動け、『シュトゥルム』!!

 我が新しき愛馬よ!!」


 それをスレスレで体勢を変えて剣で受ける。

 凄まじい戦いだった。



          ***



『なんて戦いだ……!』


『アレが……SSDF……!!


 地球圏の切り札の女神達……!!』


『俺……感動しちゃった……!

 あんなすごいの5人もいんの……どわぁっ!?』



 無論、まだ敵は多い。

 シュバルツ達を下した、謎の敵が徐々にSSDF所属のBB達へ向かってくる。



『くそぉ!!思ったより数が多い!!』


『こっちも消耗していたからな……!!』


『このままでは……!!』




 敵の謎の『竜騎士』が、編隊を組み突撃してくる。

 もはや、風前の灯火…………






















『バスターノヴァアァァァッッ!!!』








 瞬間、響く声と凄まじい光量。

 瞬く間に敵の一角が極太の光に飲み込まれて消える。




『ブーストガントレット!!』




 混乱した敵に何かが飛んできて直撃。

 爆煙を振り払って次々と敵へ突撃するのは───鉄塊じみた巨大なマニピュレーター。



『アイアーン、キィ────ック!!!』



 そこへ突撃するそれは、BBよりずっと大きな巨大人型ロボット。

 人間じみた顔の部分、その闘志を示すようにぎりりと歯を食いしばって巨大な足で蹴りを叩き込む。



『アレは……!?

 特型迎撃機動兵器スペシャルインターセプター……!?!』




『アイアンAエースだぁぁぁぁぁぁ!!!』







 敵の中央。拳を戻したアイアンAは、周りの敵を睨みつける用顔を上げる。




『また新しい敵……!!一体何処からこんなにやってきたのです!?!


 アイアンAと、浪川浪川 あやが相手になってやるのです!!!』



 右腕を上げる。

 瞬間、装甲が開いてバチバチと音を立てて雷のようなエネルギーが発生する。



『喰らえ!!

 プラズマブレェ───────ック!!!!』



 瞬間、全方位に放たれる雷。

 一瞬で大量に敵が爆散するが、彼らを盾に近づいた相手がビーム兵器のようなものを放つ。



『おっと!!』



 が、なんと片手でそれを弾き返すアイアンA。



『新しいコーティングで、もうシースルーウェポンも怖くないのです!!!


 纏めて返す!!!

 アイラインレーザ──────ッッ!!!』



 そしてその眼を白く輝かせ、一筋の光により視線の先の敵を全て斬り裂き爆散させる。












『すげぇ……機体もだけど、動きも……!!』


『あんなパワーと巨体の機体で、ここまで動けるか……!?』





 周りが手を出すまでもなく、新手の敵が屠られる。



 やがて、二つ。

 巨大な地球圏の守護神と、剣を携える黒い騎士が並ぶ。




『少佐…………終わった、のですか?』


『さぁな、綾くん。

 あるいは…………』



 2機は、遠く宇宙の暗闇へ視線を向ける。




『これは単なる始まりかも知れない、な……』






          ***



 開拓暦60年、


 この年、地球圏の戦いの歴史は、大きく変わることとなる


 現れた新たな敵は、果たして……???






               第三章 終

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第502戦技教導隊コマンドワルキューレ 来賀 玲 @Gojulas_modoki

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